弟と亡き母

40年前の話だ
私の5つ下の弟
彼は小学生低学年の頃、「善行生徒」で市長から表彰されたことがある
聞くところによると、クラスメートに介護が必要な生徒がいて、先生に変わって常に一緒にいることが「善行」にあたるとされたんだとか。
本人曰く「先生に頼まれたから」とのことだが、なぞに金メダルみたいなものをもらってきており当時健在だった母は有り難そうに仏壇にメダルをそなえていた

善行かどうかはさておき、はたまた善行したからメダルってどうなの?という疑問もさておき、とにかく弟はそういう子で、心根が優しい

彼が10歳の時に母は亡くなるわけだが(乳がん)、父もほとんど帰らない(外に彼女)子供だけで過ごす平日の夜、テレビを見ながら夕食を食べていると突然誰かが尋ねてくることがよくあった。
それは、母親が亡くなったことをどこからかかぎつけた宗教勧誘であったり、保険や金融のセールスマンだったり、要は「誰?」みたいない相手ばかりなのだが、私が玄関先で「はぁ、はぁ、、、」と曖昧な返事をしていると必ず背後からお茶をお盆に乗せて玄関先に持ってくるのが弟だった
そして来客は「あら!気が利く弟さんですね」と驚く
「出さんでもいいのに・・帰ってもらいたいのに・・」と心の中で思いながらも弟の行動に感動を覚えたものだ

おそらく母のように振る舞っていたのだろう
母もそんな感じで、誰かがきたら慌ててお茶の用意をしていた
母になぜそうするか聞いたことがある
「しずえばーさん(亡き祖母)が恐ろしかったのよ、あの人は私がもらった金の腕時計を勝手に寄り合いの旅行につけていってそのまま自分のものにしたり・・・」と亡き祖母への愚痴が始まった

亡き祖母は私が生まれる前に亡くなっており(病気?多分)仏壇の上で煤まみれになったモノクロの遺影でしかその存在を知らない
相手がいないのをいいことに言いたい放題の母
私にとっては血のつながった相手だが、母にとっては真っ赤な他人
母は本来無口で、私も無口だが、ふたりっきりになって何か話のネタを探してついつい祖母について質問してしまうものだから結局話す内容が祖母の愚痴オンパレードになってしまうのだ

嫁に来てされた数々のしうち、洗濯物をクンクンしてもう一度洗えと叱られたり、遊びに来ていた親戚の子に手伝ってもらったら1人でやれと叱られたり、後で食べようと思って残しておいた「アラレ」がちゃぶ台の上にあったとき、ごめんくださーいと誰かきて、それをちゃぶ台の下に隠したところを祖母に見られてしまい烈火の如く「今隠した茶菓子を出さんか!早くお茶を用意せんか!」と怒鳴られ、来客の前で自分の立場がなかった、人前で怒鳴られて腹が立った、「来客はここのお嫁さんは卑しい、義母は大変だなと思ったに違いない」それが悔しかった悲しかった、だから誰かが来たらすぐお茶を出さないとまた怒鳴られて腹がたつから体が反応してるだけ

早い話が「見ず知らずの人に素敵だと思われたい」が強い人なのだ

そんな母の思いも知らず、弟は母の見よう見まねで、来客があるとそれがどんな相手でもすーーっと台所に行ってヤカンを火にかける10歳だった

母は鞭を打たれてお茶を出し、弟はお茶を出したら(他人に良くしたら)飴をもらったってことか・・・

で、私は・・・現在どんな来客も家に入れない居留守を選択している
個人情報保護法ができて20年くらい?と思うが、それより前から個人情報は保護する主義で、職場でも女子の大好きな占いトークに参加することもない。参加しようものなら、年齢、性別、血液型、星座、四柱推命、動物占い、住所、電話番号、メアド、LINE、インスタ、X、アメブロ、Youtubeアカウントぞくぞくぞくぞく漏洩の危機である
公共の場で大声で名前とか呼んでくるような友人は要らない。サプライズをしかけて公共の場で他人の誕生日を高らかと叫ぶ知人は要らない。目と目があったときに会釈するだけで十分だ

弟とはここ30年で3回くらいしか会っていない
弟には子供が2人でき、その子らも成人したが、その子らには会ったことがない
それでいい

時々LINEで親子で飲んでいる写真が送られてくる、わたしはスタンプで答える

幸せで健康そうで何よりである

今日もCDをメルカリで売ろう
私の人生には音楽があるから最高である


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?