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バイス

めちゃくちゃ面白い。

予告編では「全部ホント」などと書いているが、本編の最初にフィクションが混ざっていることを明記している。先日の「ザ・バットマン」の日本版予告もそうだが、どうして日本版の予告というのはこうも質が悪いのだろう。

それはともかく、本作は映像の作り方が非常にうまい。チェイニーという人物は、かなり地味で、そのまま映画化しても退屈なだけだろう。それを、ドキュメンタリータッチであったり、メタ的であったりと、さまざまな映像をうまく組み合わせておもしろく作っている。

バイス、というタイトルは、もちろんバイスプレジデントのバイス、補佐・代理といった意味あいとともに、悪徳・不道徳といった意味もある。本作では、この両方の意味を使っている。チェイニーが副大統領であるという意味だけでなく、チェイニーを副大統領にまで押し上げた彼の妻も、やはりバイスであろう。そういう巧さがある。悪徳という意味においては、911が発生し、どこの誰が犯人かわからないのに、「以前からフセインをやっつけたかった」というだけで、無理やり理屈をこじつけて、強引にイラク戦争をはじめてしまう、など、実際にチェイニーが侵した数々の悪徳のことだ。個人的には、本作は一種のアメリカンドリームを描いていると感じた。それは、悪のアメリカンドリームなのだ。そういう意味でも、バイスという言葉があてはめられているのではないかと推測する。
つけくわえるなら、本作においてもうひとり重要な人物がいる。その人物は、チェイニーにとってのバイスであり、その人物にとって、チェイニーはバイス、という関係だ。

本作に説得力をもたせているのは、なんといってもクリスチャン・ベールの演技力だろう。いつもの美男子ぶりはほとんど拝めないが、彼の演技力にはいつもほれぼれする。

そして、特にファンでもないが、小生が観る映画には、エイミー・アダムスが結構出ている。おそらくそういうジャンルに需要のある人なのだろう。ややインディペンデント寄りのエンターテイメント映画。こういう個性的で良質な映画がもっと世に出てくるといいと思っている。

昔にくらべたら映画を作る敷居は低くなっていて、アイデアや才能の勝負になってくると思う。そこで勝ち抜いていくのは大変なことだろう。熱意だけでなく、幸運も必要になってくる。しかし、なにごともそうだが、まずはやってみなければ、勝ち抜くこともできないのだ。

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