見出し画像

令和2(行ケ)10057  審決取消請求事件  特許権 【電動ベッド】

■事件の概要
原告 株式会社プラッツ
被告 パラマウントベッド株式会社

(1) 被告は,平成14年11月11日,発明の名称を「電動ベッド」とする発 明について,特許出願(特願2002-327631号。以下「本件出願」 という。)をし,平成20年6月20日,その設定登録(特許第414123 3号,請求項の数2)を受けた(以下,この登録に係る特許を「本件特許」 という。)。
(2) 本件特許について,平成22年5月17日付けで特許無効審判請求(無効 2010-800092号)がされたが,平成23年3月25日,平成22 年12月20日付け訂正請求書(甲9)に添付された訂正明細書のとおり訂 正することを認めるとともに,特許無効審判請求が成り立たない旨の審決が され,同年5月6日,確定した。
(3) 原告は,平成30年11月28日付けで本件特許の請求項1及び2に係る 発明について特許無効審判請求(無効2018-800132号)をした。 
(4) 特許庁が令和元年9月26日に本件特許の請求項1及び2に係る発明につ いての特許を無効にするとの審決の予告をしたところ,被告は,同年12月 2日付けで本件特許の請求項1に係る特許請求の範囲を訂正する訂正請求を行った(以下,この請求に係る訂正を「本件訂正」という。)。 特許庁は,令和2年3月30日,「特許第4141233号の特許請求の範 囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年4月3日,原告に送達された。
(5) 原告は,令和2年4月27日,本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起 した。

本件訂正発明1
背ボトム,腰ボトム,膝ボトムを含む寝床部を支持し,付属品を取り付け 可能なベッドフレームと, 床上に設置される台部と,この台部と前記フレームとの間に配置され前記フレームの上位置LHと下位置LLとの間で前 記フレームを昇降移動させる,アクチュエータを含む昇降装置と,この昇降装置による前記フレームの昇降駆動を制御する制御装置と,スイッチ操作 により前記フレームの昇降が指示されたときに前記制御装置に前記フレーム の昇降を指示する信号を出力する操作ボックスとを有し,前記背ボトムは,前記膝ボトム側を中心として回動可能であり,前記フレームが中間停止位 置LMより上方から下位置LLまで連続して移動される際に,前記制御装置は,前記操作ボックスから前記フレームの下降信号が入力されたときに, 前記操作ボックスの下降スイッチの押し状態が継続している間,前記フレー ムを下降させるが,ホール素子を利用して前記アクチュエータのピストンロッドの位置を算出した結果を受けて,前記フレームの高さが前記中間停止位置LMまで下降したか判定し,前記フレームの上位置LHと下位置LLと の間の前記中間停止位置LMで,前記フレームと床との間に,介護者又は 患者の足が存在しても,挟み込みが生じないように,前記下降スイッチが 押し状態であっても前記フレームを一旦停止させ,ブザーを鳴らして警報レームとの間に配置され前記フレームの上位置LHと下位置LLとの間で前 記フレームを昇降移動させる,アクチュエータを含む昇降装置と,この昇降装置による前記フレームの昇降駆動を制御する制御装置と,スイッチ操作 により前記フレームの昇降が指示されたときに前記制御装置に前記フレーム の昇降を指示する信号を出力する操作ボックスとを有し,前記背ボトムは,前記膝ボトム側を中心として回動可能であり,前記フレームが中間停止位 置LMより上方から下位置LLまで連続して移動される際に,前記制御装置は,前記操作ボックスから前記フレームの下降信号が入力されたときに, 前記操作ボックスの下降スイッチの押し状態が継続している間,前記フレー ムを下降させるが,ホール素子を利用して前記アクチュエータのピストンロッドの位置を算出した結果を受けて,前記フレームの高さが前記中間停止位置LMまで下降したか判定し,前記フレームの上位置LHと下位置LLと のの前記中間停止位置LMで,前記フレームと床との間に,介護者又は 患者の足が存在しても,挟み込みが生じないように,前記下降スイッチが 押し状態であっても前記フレームを一旦停止させ,ブザーを鳴らして警報し,その後,前記操作ボックスにおける下降スイッチの押し状態が解除さ れた後,再度フレームの下降スイッチが押下された場合に更に前記フレームを前記下位置LLまで下降させるものであり,前記中間停止位置LMは,前記フレームと前記床との間に,介護者又は患者の足が存在しても,挟み込みが生じないような高さであることを特徴とする電動ベッド。

本件発明2 
寝床部を支持するベッドフレームと,床上に設置される台部と,この台部と前記フレームとの間に配置され前記フレームの上位置LHと下位置LLと の間で前記フレームを昇降移動させる昇降装置と,この昇降装置による前記 フレームの昇降駆動を制御する制御装置と,スイッチ操作により前記フレー ムの昇降が指示されたときに前記制御装置に前記フレームの昇降を指示する 信号を出力する操作ボックスとを有し,前記制御装置は,前記操作ボックス から下降信号が入力されたときに,前記操作ボックスの下降スイッチの押し 状態が継続している間,前記フレームを下降させるが,そのときの前記フレ ームの位置が,前記上位置LHと前記中間停止位置LMとの間の予め定めら れた特定位置LSかそれよりも高い場合に,前記フレームを降下させた後, 前記中間停止位置LMで前記下降スイッチが押し状態であっても一旦停止さ せ,その後,前記操作ボックスにおける下降スイッチの押し状態が解除され た後,再度フレームの下降スイッチが押下された場合に更に前記フレームを 前記下位置LLまで下降させるものであり,前記操作ボックスから下降信号 が入力されたときの前記フレームの位置が,前記特定位置LSよりも低い場 合に,前記操作ボックスの下降スイッチの押し状態が継続している間,前記 フレームを前記中間停止位置LMで停止させずに下位置LLまで下降させる ものであり,前記中間停止位置LMは,前記フレームと床との間に,介護者 又は患者の足が存在しても,挟み込みが生じないような高さであることを特 徴とする電動ベッド。


■主文
1 特許庁が無効2018-800132号事件について令和2年3月30日にした審決のうち,特許第4141233号の請求項1に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,その1を被告の,その余を原告の各負担とする。

■裁判所の判断(一部抜粋)
3 取消事由2(本件訂正発明1の進歩性に関する判断の誤り)の有無について
・・・
相違点2の容易想到性判断の誤りについて 
ア 相違点23について
前記(1)のとおり,相違点2は,相違点21及び相違点23により構成さ れるべきものである。本件審決は,相違点21は容易に想到できるとして おり(当裁判所としてもその結論を是認できる。),原告は,相違点23の 容易想到性を否定した本件審決の判断を争っている。
イ 相違点23の容易想到性
(ア) 相違点23は,「『フレームと床との間に介護者又は患者の足が存在しても,挟み込みが生じないように』,下降スイッチが押し状態であって もフレームをいったん停止させ,『ブザーを鳴らして警報』すること」で ある。
原告は,前記第3の2(1)イ(イ)のとおり,「フレームと床との間に,介 護者又は患者の足が存在しても,挟み込みが生じないように」との点が 用途による限定を付すものであり発明の構成とはならないから,相違点 を構成することもない旨主張するが,上記特定事項は,フレームが停止 する高さを何に基づいて決定するかを特定するものであるから,発明を構成する部分であり,その主張は失当である。したがって,本件訂正発 明1が用途発明になることもない。
そうすると,同(2)イ(ア)の被告の主張につき判断するまでもなく,原 告の上記主張はいずれにせよ採用することができない。
(イ)a 前記第2の3(2)アのとおり,甲1発明における下方中間位置は患者支持面が床から約14インチ(約356mm)の高さであり,同最 下位置は患者支持面が床から約8インチ(約203mm)の高さであ るところ,下方中間位置から最下位置に153mm下降できるという ことは,少なくともフレームの下端が床から153mm以上離れてい なければならないから,下方中間位置でのメインフレーム12の床からの高さは153mmよりは高いことになる。 ここで,甲2技術事項に係る別紙3の記載によると,足が届く範囲の可動部と床面との間に120mm以上の寸法があれば,足を挟み込む危険がないものと理解される。
そうすると,甲1発明における下方中間位置でのメインフレーム12の床からの高さは,本件訂正発明1の「介護者又は患者の足が存在 しても,挟み込み等が生じないような高さ」(本件訂正明細書【002 1】)であるといえ,また,甲1発明の最下位置は「床に近接して配置 される」ものであり(甲1[0011],FIG-4),足が挟み込まれる高さであることは明らかであるから,最下位置に向けて下降する下方中間位置は「これ以上フレーム1が下降すると,足を挟み込んでしまうような高さ」(本件訂正明細書【0021】)である。 そして,甲1には,「磁石112のホール効果センサ118に隣接し た配置までの移動は,下方中間位置でのベッド10の位置付けに相当し,磁石112のホール効果センサ116に隣接した配置までの移動は,上方中間位置でのベッド10の位置付けに相当する。(」[0036])との記載があり,そして,甲1発明の管部110は,軸受部材108 に摺動接触して支持された状態でねじ式リニアアクチュータ98のね じ120に対して直線移動で駆動できるよう構成されており,磁石1 12は,水平移動に当たり必ずホール効果センサ118及び116に隣接した位置を通るから,甲1発明のベッドは,必ずフレームが下降 する際に上方中間位置及び下方中間位置で自動的に下降を停止するベッドである。
b ここで,昇降機能を有するベッドにおいて,フレームと床との間に,人体の侵入を防止し,人体が挟み込まれないよう下降を停止させることは当業者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる (甲4の【請求項1】,【0003】,甲21の【請求項1】,【0003】,【0005】参照)。 そして,昇降機能を有するベッドにおいて,フレームと床との間に人体が挟み込まれないよう警告音で周囲に異常を知らせることも当業者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる(甲4の 【0014】,【0010】,甲21の【0014】,【0010】参照)。 
c そうすると,上記aのように,介護者又は患者の足が存在しても, 足の挟み込みが生じないような下方中間位置においてフレームの下降 は停止するが,それ以上フレームが下降すれば介護者又は患者の足が挟み込まれてしまうことになる甲1発明に接した場合,昇降機能を有 するベッドにおいて,人体の侵入を防止し,人体が挟み込まれないよ うにベッドの下降を停止するとの周知技術に従い,その下降を停止す る高さを「前記フレームと床との間に,介護者又は患者の足が存在し ても,挟み込みが生じないよう」な意図で設定し,この際,警告音でフレームと床との間に人体が挟み込まれないよう知らせるとの周知技 術に従い,警告音を発するようにすることは,当業者には格別困難なことではないといえる。 
(ウ) 被告の主張について
被告は,前記第3の2(2)イ(ウ)のとおり,足を挟んでしまうことの防 止という課題は甲1発明に内在する課題とはいえない旨主張する。しかしながら,「特開2002-125808号公報」(甲4)及び「特開2 002-125807号公報」(甲21)においては,各【発明の詳細な 説明】の中に,子供が入り込むことの防止に係る記載がされているとこ ろ,各請求項1には,それぞれ「床部下への人体の侵入を監視して,人 体の侵入ありとした際に」又は「人体が存在する旨の検知信号により」と記載されているのであり,子供が入り込むことのみに限定されるもの と解すべき事情も見当たらないことに照らしても,これらの発明の技術 的思想としては,人体が挟み込まれるのを防止するということが抽出で きるのであり,人体の対象には介護者又は患者も含まれるから,当業者 であれば,甲1に介護者又は患者の足を挟んでしまうことを防止するとの課題の記載や示唆がなくとも,甲1発明のベッドを介護者又は患者の 足を挟んでしまうことを防止するとの意図の下に設定することは容易というほかない。
・・・
したがって,下方中間停止位置で常に自動的に下降を停止 する甲1発明において,上記周知技術に基づいて下方中間停止位置で停止した際に「ブザーを鳴らして警報」することは容易に想到できるとい え,上記周知技術が異常を検知した際に警報音を発するものである点が 甲1発明に同技術を適用することを妨げるものではない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
そのほか,被告がるる主張するところも,前記イの判断を左右するも のではない。
(エ) まとめ 以上によれば,相違点21に加えて,相違点23についても容易に想到できるというべきであるから,本件審決の相違点2の容易想到性判断には,誤りがある。 
(3) 小括
以上のとおりであるから,本件審決が本件訂正発明1が進歩性を欠如しないとした判断には誤りがあるから,取消事由2は理由がある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?