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令和2(行ケ)10044  審決取消請求事件  特許権 【脂質含有組成物およびその使用方法】

■事件の概要
原告 アーシャ ニュートリション サイエンシーズ, インコーポレイテッド
被告 特許庁長官

(1)ア原告は,平成21年4月20日(優先日平成20年4月21日,同年6月25日,同年11月5日及び平成21年4月17日(以下「本願優先日」という。),優先権主張国米国)を国際出願日とする特許出願(特願201 1−506377号)の一部を分割して,平成26年5月12日,発明の名称を「脂質含有組成物およびその使用方法」とする発明について,新たな特許出願(特願2014−99072号。以下「本願」という。)をした(甲 1)。
原告は,平成27年12月17日付けで拒絶査定(甲5)を受けたため,平成28年4月20日,拒絶査定不服審判(不服2016−5871号事件。甲6)を請求するとともに,特許請求の範囲について手続補正(甲7)をした。
原告は,平成29年4月17日付けの拒絶理由通知(甲12)を受けたため,同年11月9日付けで特許請求の範囲について手続補正(甲13)をした。
イその後,特許庁は,平成30年4月3日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「第1次審決」という。甲15)をした。
原告は,同年8月15日,第1次審決の取消しを求める審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成30年(行ケ)第10117号事件)を提起した。
知的財産高等裁判所は,平成31年4月12日,原告主張の取消事由のうち,明確性要件及びサポート要件の判断の誤りは理由があるとして第1 次審決を取り消す旨の判決(以下「前訴判決」という。甲16)をし,その後,前訴判決が確定した。
(2)原告は,前訴判決の確定により,再開した不服2016−5871号事件の審理において,令和元年5月28日付けの拒絶理由通知(以下「本件拒絶理由通知」という。甲17)を受けたため,同年9月4日付けで特許請求の範囲について手続補正(以下「本件補正」という。甲18)をした。
その後,特許庁は,令和元年12月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月18日,原告に送達された。
(3)原告は,令和2年4月15日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。


2 特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1ないし47からなり,その請求項 19の記載は,次のとおりである(以下,請求項19に係る発明を「本願発明」という。甲18)。
【請求項19】
異なる供給源に由来する脂質の混合物を含む脂質含有配合物であって,前記配合物は,ある用量のω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸の用量を含み,ω-6 対ω-3の比が4:1以上であり:(i)ω-3脂肪酸は,前記配合物中の総脂質の0.1~20重量%であるか;または(ii)ω-6脂肪酸の用量は,40g以下である,脂質含有配合物。

■主文

1 特許庁が不服2016-5871号事件について令和元年12月2日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。


■裁判所の判断(一部抜粋)

2 取消事由1(刊行物5を主引用例とする本願発明の新規性及び進歩性の判断 の誤り)について
・・・
(3)相違点2の判断の誤りについて
原告は,相違点2に関し,本件審決が,1刊行物5の記載及び脂質の大量の摂取を控えることが健康上の技術常識であることを考慮すると,1回の「用量」でω-6脂肪酸を40gを超えた脂質含有配合物として用いることは考えられないから,「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」であること(相違点2に係る本願発明の構成)は,刊行物5に記載自体がなくとも記載されているに等しい事項であるから,相違点2は,実質的な相違点ではないか,刊行物5発明において,「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることは,「用量」の意味が,1回の「用量」や1日の「用量」であるかにかかわらず当業者が容易になし得る技術的事項である旨判断したのは誤りである旨主張するので,以下において判断する。

・・・
(イ)次に,本件審決が述べるように「脂質の大量の摂取を控えること」自体が健康上の技術常識であるといえるとしても,脂質の適正な摂取量は,年齢,性別,エネルギー摂取量等の要素によって変わり得るものと考えられるから,そのことから直ちに「脂肪の摂取量」を1日当り40 g以下とすることが技術常識であることを導出することはできないし,それが技術常識であることを前提に「ω-6脂肪酸の用量」は,1日又は1回当たり「40g以下」とすることが技術常識であるということはできない。本件においては,他に「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。イ(ア)前記アの認定を総合すると,刊行物5には,本件審決のいう技術常識を踏まえても,刊行物載5発明に含有する「ω-6脂肪酸の用量は, 40g以下であること」についての実質的な開示があるものと認めることはできない。
そうすると,刊行物5発明が「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」であるとの構成(相違点2に係る本願発明の構成)を有することは認められないから,相違点2は実質的な相違点であるものと認められる。
これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(イ)次に,前記ア認定のとおり,刊行物5には,脂肪の摂取量を1日当たり40gに差し控えるべきことや,「ω-6脂肪酸の用量」は,1日又は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や示唆はなく,また,「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠がないことに照らすと,刊行物5に接した当業者が,刊行物5発明において,相違点2に係る本願発明の構成を採用することの動機付けがあるものと認めることはできないから,上記構成とすることを容易に想到することができたものと認められない。
これと異なる本件審決の判断は誤りである。

・・・
また,刊行物5の記載全体をみても,刊行物5において,脂肪の摂取量を1日当たり40gに差し控えるべきことや,「ω-6脂肪酸の用量」は, 1日又は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や示唆はない。
加えて,本件においては,他に「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,刊行物5に接した当業者が刊行物5発明において相違点2 に係る本願発明の構成を採用することの動機付けがあるものと認めることはできない
から,被告の上記主張は採用することができない。
(4)小括以上のとおり,本件審決には相違点2の判断に誤りがあるから,本願発明は刊行物5発明と同一の発明であると認めることはできないし,また,当業者が刊行物5発明及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものと認めることはできない。
したがって,原告主張の取消事由1は理由がある。
第5 結論
以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由があるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきである。


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