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令和2(行ケ)10147  審決取消請求事件  特許権 【ゲームプログラム】

■事件の概要
原告 グリー株式会社
被告 特許庁長官

原告は,発明の名称を「ゲームプログラム,ゲーム処理方法および情報処理装置」 とする発明(請求項1~8)について,平成29年5月9日に特許出願(特願2017-92933号。以下,「当初出願」といい,願書に最初に添付された明細書及び図面〔甲3〕を「当初明細書」という。)をした。
当初出願は,原告が,平成25年5月24日(以下,「分割原出願日」という。) に出願した特願2013-109695号の一部を平成27年1月14日に新たな 特許出願とした特願2015-5412号の一部を平成27年11月19日に新た な特許出願とした特願2015-226355号の一部を平成28年7月28日に新たな出願とした特願2016-148932号の一部を新たな特許出願としたも のである。
当初出願については,平成30年3月23日付けで拒絶理由が通知され,同年6 月6日付けで意見書及び手続補正書が提出され,同年8月22日付けで拒絶理由が 通知され,同年11月5日付けで意見書及び手続補正書(甲4)が提出され,平成 31年3月29日付けで拒絶査定(以下,「本件拒絶査定」という。)がされた。
原告は,令和元年6月24日付けで,本件拒絶査定に対する不服審判の請求をし (以下,「本件審判」という。甲5),特許庁は,上記請求を不服2019-8313号として審理した。
その後,令和2年2月17日付けで拒絶理由が通知され(甲6),同年4月1日付けで意見書(甲8)及び手続補正書(甲7)が提出され,同年6月29日付けで拒 絶理由が通知され(甲9),同年8月28日付けで意見書(甲11)及び手続補正書 (甲10)が提出された(以下,この補正を「本件補正」という。)。
特許庁は,同年11月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以 下,「本件審決」という。)をし,その謄本は同年12月2日に原告に送達された。

本件補正後の特許請求の範囲(甲10。以下,請求項1~9に係る発明を, それぞれ,「本願発明1」~「本願発明9」といい,併せて「本願発明」ということもある。)
【請求項1】
コンピュータに, アイテムのアイテム情報に関するフィルタリング条件を設定する条件設定機能と, 前記アイテムがユーザに付与された際に自動的に, 前記アイテムのアイテム情報,および,前記条件設定機能によって設定されたフィルタリング条件を比較する比較機能と, 前記比較機能によって比較された結果,前記アイテム情報が前記フィルタリング条件を満たしているアイテムを,当該アイテムのアイテム情報に含まれる価値情報 毎に異なる設定情報に対応付けて数値化する変換機能と,
前記変換機能によって数値化された前記アイテムの数値に基づいて,前記アイテムを所定個数の価値の等しい一種類の特定のアイテムに変換するアイテム変換機能と,
前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能
を実現させるゲームプログラム。
【請求項2】
前記アイテム記憶機能は,前記特定のアイテムを,前記フィルタリング条件を満 たしていないアイテムとともに前記アイテムボックスに対応付けて記憶する請求項 1に記載のゲームプログラム。
【請求項3】
前記特定のアイテムは,他のアイテムを強化するためのアイテムであり,かつ, 前記特定のアイテムの個数に応じて,前記他のアイテムのパラメータを変化させる アイテムであることを特徴とする請求項1または2に記載のゲームプログラム。 
【請求項4】
前記特定のアイテムは,前記アイテムの数値に基づいて,当該特定のアイテムの 個数が変動するように設定されていることを特徴とする請求項1,2または3に記 載のゲームプログラム。
【請求項5】
前記価値情報は,前記アイテムのレアリティ情報であることを特徴とする請求項 1から4のいずれか一項に記載のゲームプログラム。
【請求項6】
前記アイテムボックスは,対応付けが可能なアイテムの種類の数に上限が設けら れることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のゲームプログラム。 
【請求項7】
前記アイテム記憶機能は,さらに,前記比較機能によって比較された結果前記アイテム情報が前記フィルタリング条件を満たしていないアイテムをアイテムボックスに対応付けて記憶することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のゲームプログラム。
【請求項8】
コンピュータに,
アイテムのアイテム情報に関するフィルタリング条件を設定する条件設定ステップと,
前記アイテムがユーザに付与された際に自動的に,
前記アイテムのアイテム情報,および,前記条件設定ステップにおいて設定されたフィルタリング条件を比較する比較ステップと,
前記比較ステップにて比較された結果,前記アイテム情報が前記フィルタリング条件を満たしているアイテムを,当該アイテムのアイテム情報に含まれる価値情報毎に異なる設定情報に対応付けて数値化する変換ステップと,
前記変換ステップによって数値化された前記アイテムの数値に基づいて,前記アイテムを所定個数の価値の等しい一種類の特定のアイテムに変換するアイテム変換ステップと,
前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶ステップと
を実行させるゲーム処理方法。
【請求項9】
アイテムのアイテム情報に関するフィルタリング条件を設定する条件設定部と, 前記アイテムがユーザに付与された際に自動的に, 前記アイテムのアイテム情報,および,前記条件設定部によって設定されたフィルタリング条件を比較する比較部と, 前記比較部によって比較された結果,前記アイテム情報が前記フィルタリング条件を満たしているアイテムを,当該アイテムのアイテム情報に含まれる価値情報毎に異なる設定情報に対応付けて数値化する変換部と, 前記変換部によって数値化された前記アイテムの数値に基づいて,前記アイテムを所定個数の価値の等しい一種類の特定のアイテムに変換するアイテム変換部と, 前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶部と
を備える情報処理装置。

■主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。

■裁判所の判断(一部抜粋)
2 取消事由1(新規事項追加についての判断の誤り)について
(1) 証拠(甲7,10)によると,当初出願については,令和2年4月1日付け補正によって,「前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能」との新たな発明特定事項が追加され,それが本件補正でも維持されていたことが認められる。 「前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能」との記載からすると,新たな発明特定事項は, 「特定のアイテム」を「アイテムボックス」という名前のついたものに記憶させる, すなわち,「特定のアイテム」を「ユーザに関連付けられたアイテムボックス」に収納することをいうと解することができる。
したがって,新たな発明特定事項は,「『特定のアイテム』を『ユーザに関連付け られたアイテムボックス』に収納する」ことを特定していると認められる。
(2) 当初明細書には,「アイテムボックス」について,段落【0051】にのみ記載がある。
そして,「不要なアイテムによりユーザのアイテムボックスが満杯になるのを防ぐことができる」との記載から,当初明細書に記載された「アイテムボックス」は,アイテムを収納するための構成であって,かつ,アイテムの収納上限が設けられているものと認められる。このことは,「ユーザが保有することができるカードの数には上限がある」(段落【0005】)との記載とも整合すると認められる。
一方,当初明細書には「特定のアイテム」について,アイテム付与部によって付与されるアイテムとは異なる種類のアイテム(段落【0049】)であり,アイテム付与部により実行されるアイテム付与ステップによってユーザに付与された「アイテム」が,アイテム変換ステップにより変換され(段落【0026】,【0035】, 【0039】,【0048】),特定アイテム付与ステップによりユーザに付与される (段落【0040】,【0050】)ものであって,上限なくユーザが所持可能とする ことができるものである(段落【0031】,【0040】,【0050】,【0052】) と記載されている。
そして,収納上限が設けられているアイテムボックスに「特定のアイテム」を収 納すると,「特定のアイテム」を上限なくユーザが所持することは不可能であるから, 当初明細書に接した当業者は,「特定のアイテム」は,「アイテムボックスに収納して保持する」ものではないと理解すると解される。
そうすると,「『特定のアイテム』を『アイテムボックス』に収納して保持するこ と」を意味する「前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボ ックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能」との新たな発明特定事項は,当業 者によって当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の 範囲内のものであるとはいえない。
・・・
(4) 以上によると,新たな発明特定事項は,当初明細書に記載されているものではないから,本件補正は,当初明細書等に記載された事項の範囲でするものとは いえず,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
そうすると,その余の点を判断するまでもなく,本件補正を認めず,本件拒絶査定に違法はないとした本件審決の判断には誤りはないから,原告の請求には理由がない。

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