見出し画像

平成29年(ワ)第7207号 特許権侵害差止等請求事件

■事件の概要
原告 株式会社IHI
原告 株式会社IHI機械システム
被 告 高砂工業株式会社

本件は,いずれも発明の名称を「真空洗浄装置および真空洗浄方法」とする特許第6043888号(以下「本件特許権1」という。)及び第59768 58号(以下「本件特許権2」という。)の各特許権(以下「本件各特許権」 という。)を共有する原告らが,別紙1物件目録記載の製品(以下「被告製品」 という。)は,本件特許権1の請求項1(以下「本件発明1」という。)及び 本件特許権2の請求項1(以下「本件発明2」という。)の各発明(以下「本件各発明」という。)の技術的範囲に含まれるものであるから,被告による被 告製品の製造販売は,本件各特許権の侵害に当たるとして,被告に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造販売等の差止めを求め,同条2項に基づき,被告製品及びその半製品の廃棄を求めるとともに,原告らの本件各特
許権の持分割合に応じ,民法709条に基づき,不法行為に対する損害の賠償及び被告製品の最終の売上日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

本件各発明は,以下のとおり,次の構成要件1A~1H及び2A~2Hの各構成要件に分説することができる。なお,構成要件1A~1Hと2A~2Hとの相違は,構成要件2Dの「前記洗浄室とは独立して」の部分が,構成要件1Dには含まれない点のみである。
本件発明1の構成要件
1A 真空ポンプと,
1B 石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と,
1C 前記真空ポンプによって減圧され,当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室と,
1D 前記真空ポンプによって減圧され,当該減圧の状態が保持される凝縮室と,
1E 前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と,
1F 前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ,または,その連通を遮断する開閉バルブと,を備え,
1G 前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後,前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる
1H ことを特徴とする真空洗浄装置。

本件発明2の構成要件
2A 真空ポンプと,
2B 石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と,
2C 前記真空ポンプによって減圧され,当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室と,
2D 前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され,当該減圧の状態が保持される凝縮室と,
2E 前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と,
2F 前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ,または,その連通を遮断する開閉バルブと,を備え,
2G 前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後,前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる
2H ことを特徴とする真空洗浄装置。

■主文
1 被告は,別紙1物件目録記載の製品を生産し,譲渡し,輸入し,譲渡の申出をし,又は輸出してはならない。
2 被告は,その占有にかかる前項記載の製品及びその製造中の半製品(別紙1物件目録記載の構造を具備しているが製品として完成するに至らないもの)を廃棄せよ。
3 被告は,原告株式会社IHI機械システムに対し,1億9074万2387円及びこれに対する令和元年11月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告株式会社IHIに対し,1億9074万2387円及びこれに対する令和元年11月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。
7 この判決は,第1項,第3項及び第4項に限り,仮に執行することができる。

■裁判所の判断(一部抜粋)
被告は,そもそもシミュレーションは実機による裏付けがないと信用性を欠く上,甲20シミュレーションの基本設定は,洗浄液残液量を0.3リットルと過小に設定していること,複合一体的な作用を考慮していないため,水冷バッフルの凝縮能力が過大に見積もられているこ と,配管の途中での凝縮を考慮していないことなどの点で不適切であると 主張する。
しかし,甲20シミュレーションは,被告製品における実際の減圧状況(乙24実験V)を再現し得るように,洗浄室や水冷バッフルの体積,配管寸法等の条件を設定したものであるから,実機を用いた実験結果に 基づくものであるということができ,シミュレーションであることから直ちに信用性を欠くということはできない。

・・・
被告は,分割要件違反の根拠として,乙8の1明細書等の段落[0039]や[0040]の記載を指摘するが,これらは,真空ポンプを利用しない第1実施形態についての説明にすぎず,これらの記載をもって,乙8の1明細書等が真空ポンプを併用することを排除していると解することはできない

・・・
被告は,本件明細書等には,真空乾燥実験の実験条件が明示されていない ため,当業者は,その実験を再現することができないと主張する。
しかし,前記のとおり,当業者は,洗浄室と凝縮室を連通することによりワークの乾燥が行われるメカニズムを容易に理解することができるので,真空ポンプや圧力計の種類やスペック,単位換算の方法などの実験条件は,適宜設定し得る。
そうすると,本件明細書等に更に詳細な実験条件等が記載されていないとしても,当業者であれば,過度の試行錯誤を重ねることなく,本件発明2を実施できるというべきである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?