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令和2(行ケ)10053  審決取消請求事件  特許権 【二酸化炭素経皮・ 経粘膜吸収用組成物】

■事件の概要
原告 ネオケミア株式会社
被告 株式会社メディオン・ リサーチ・ラボラトリーズ

(1) 被告は,平成11年5月6日に出願した特許出願(特願平11-1259 03号)の一部を分割して出願した特許出願(特願2007-154216 号)の一部を更に分割して出願した特許出願(特願2011-8226号)の一部を分割して,平成25年4月26日,発明の名称を「二酸化炭素経皮・ 経粘膜吸収用組成物」とする発明について新たな特許出願(特願2013- 93612号。以下「本件出願」という。)をし,平成26年11月7日,特 許権の設定登録(特許第5643872号。請求項の数4。以下,この特許を 「本件特許」といい,これに基づく特許権を「本件特許権」という。)を受け た。
本件特許権の存続期間は,令和元年5月6日をもって満了している。
(2) 原告は,令和元年7月31日,本件特許について特許無効審判を請求した。 特許庁は,上記請求を無効2019-800050号事件として審理を行 い,令和2年4月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以 下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年4月10日,原告に送達された。
(3) 原告は,令和2年4月24日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は,次のとおりである(甲75。以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を「本件発明1」 などという。)。
【請求項1】
気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物からなるパック化粧料を得るためのキットであって,
水及び増粘剤を含む粘性組成物と, 炭酸塩及び酸を含む,複合顆粒剤,複合細粒剤,または複合粉末剤とを含み, 前記二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物が,前記粘性組成物と,前記複合顆粒剤,複合細粒剤,または複合粉末剤とを混合することにより得られ,前記二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物中の前記増粘剤の含有量が1~15質量%である,
   キット。
  【請求項2】
前記複合顆粒剤,複合細粒剤,または複合粉末剤が,酸として,クエン酸,コハク酸,酒石酸,乳酸,及びリン酸ニ水素カリウムからなる群から選択された少なくとも1種を含む,請求項1に記載のキット。
 【請求項3】
前記粘性組成物が,増粘剤として,天然高分子,半合成高分子,及び合成高分 子からなる群から選択された少なくとも1種を含む,請求項1または2に記載のキット。 
【請求項4】
前記粘性組成物が,増粘剤として,アルギン酸ナトリウム,カルボキシビニル ポリマー,カルボキシメチルスターチナトリウム,カルボキシメチルセルロー スナトリウム,キサンタンガム,クロスカルメロースナトリウム,結晶セルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,及 びポリビニルアルコールからなる群から選択された少なくとも1種を含む,請求項1~3のいずれかに記載のキット。

本件審決の理由の要旨は,本件発明1ないし4は,甲第1号証(「エキスパ ートナース MOOK 16 最新!褥瘡治療マニュアル 創面の色に着目 した治療法」,照林社,1993年12月10日。以下,書証については単に 「甲1」などと略記する。)に記載された発明に公知技術等を適用することに より,当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから,本件特許 を無効とすることはできないというものである。

■主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

■裁判所の判断(一部抜粋)
(3) 相違点1の容易想到性の判断の誤りについて
ア 甲1から認識できる課題ないし動機付けについて
(ア) 原告は,前記第3の2(1)イ(イ)b(a)のとおり,甲1発明は,気泡状の二酸化炭素を発生させて利用する技術分野に関するものであり,当該技術分野において,二酸化炭素発生の持続性を高めるために,媒質に粘性を持 たせるという技術(本件周知技術)は周知であって,甲1発明と本件周知技術は,技術分野,課題,作用が共通するから,当業者において,本件周知技術を採用し,相違点1に係る構成を採用する動機付けがあると主張する。
しかし,甲1の図17には,「約42度の湯を入れた洗面器,バケツに バブ片を1~数個入れ,完全に溶けるまで待つ」と明記されているから,褥瘡治療前に発泡は終了していることになる。そして,甲72(萬秀憲ほ か「人工炭酸浴に関する研究(第1報)炭酸泉の有効炭酸濃度について」 日温気物医誌47巻3・4号,昭和59年5月)には「今回,実験を行った150ppm以下の低濃度炭酸泉では大量の炭酸ガス気泡は発生せず,測定された血流増加作用はガス気泡による物理的作用によるものではなく水中に溶存していた炭酸ガスの経皮吸収による化学的作用によると考えられる。」(126頁右欄下から6行~最終行)との記載があることを参酌すれば,甲1発明において,あえてバブが「完全に溶けるまで待つ」と記載されていることには,バブから十分な量の二酸化炭素が発生し, 水中に溶存するのを待つという技術的意義があると解される。
そうすると,甲1に接した当業者は,甲1の上記記載から,甲1発明では,バブ片を完全に溶かし,湯に溶存している二酸化炭素を経皮吸収させて血行促進作用を図るものと理解するから,甲1発明に「気泡状の二酸化炭素を持続的に保持する」という課題があると認識するとは認められない。 原告は,前記第3の2(1)イ(イ)b(a)のとおり,甲1発明において,バブからの気泡状の二酸化炭素の発生を視認した当業者は,湯に溶解せず空 気中に二酸化炭素が発散してしまうことを防ぎ,これらも効率的に経皮 吸収させることに思い至るはずであると主張する。しかし,上記のとお り,甲1には,バブ片が「完全に溶けるまで待つ」と明記されているので あり,当業者がバブからの気泡状の二酸化炭素の発生を視認したとしても,溶存二酸化炭素を作り出す過程・手段であるにすぎず,それ自体が経皮吸収に寄与するとはいえない気泡状の二酸化炭素に着目するとは認め難いし,そもそも甲1発明において,湯に溶解せず空気中に二酸化炭素 が発散してしまうことを防ぐことが課題とされていることを認めるに足 りる証拠もない。
なお,原告は,「気泡状の二酸化炭素を持続的に保持する」という課題 は自明又は容易に発見できるのであるから,それが甲1発明から認識できるか否かを判断する必要はない旨主張するが,被告が主張するとおり, 本件発明が甲1発明から容易に想到できたか否かを考えるに当たっては, あくまで甲1発明に接する当業者が甲1発明からどのような課題を認識できるかを考えることが必要になるのであるから,原告の主張は失当というほかない。したがって,原告主張の文献において,気泡状の二酸化炭素の発生及び保持を持続させるという課題及びこれに対する技術手段 (本件周知技術)が記載されているとしても,甲1発明に接する当業者 が同課題を認識するとは認められない以上は,甲1発明に本件周知技術を組み合わせる動機がない。また,そもそも本件周知技術自体についても,原告主張の文献を精査しても,甲1発明と共通する技術分野で,増粘 剤の粘性によって気泡状の二酸化炭素を保持することに関連するものは 見当たらず,上記技術分野で,このような技術手段が周知であるとはい えない。
・・・
イ まとめ
以上によれば,甲1発明において,気泡状の二酸化炭素の発生及び保持 の持続という課題を当業者が認識することはできず,また,甲1発明と共通する技術分野で,本件周知技術の存在を認めることもできない。そうす ると,その他の点について判断するまでもなく,相違点1に係る本件発明 1の発明特定事項を採用することを,当業者が容易に想到することができたとはいえないとした本件審決の判断に誤りはない。

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