見出し画像

令和2(行ケ)10134  審決取消請求事件  特許権 【インターネットを介したデジタル・アート配信および鑑賞の制御ならびに画像形成のためのシステムおよび方法】

■事件の概要
原告 ビデリ インコーポレイテッド
被告 特許庁長官

(1)原告は,名称を「インターネットを介したデジタル・アート配信および鑑賞の制御ならびに画像形成のためのシステムおよび方法」とする発明について,国際出願日を平成26年3月14日とする特許出願(特願2016-503116[パリ条約による優先権主張平成25年12月17日,平成26年3月14日及び平成25年3月15日,いずれも米国]。以下「本願」といい,本願の際に添付された明細書を「本願明細書」という。)をし(甲6),平成28年1月12日,平成29 年3月14日及び平成30年5月2日に,それぞれ手続補正をしたが,同年8月2 8日付けで拒絶査定を受けた。そこで,原告は,平成31年1月4日,同拒絶査定に対する不服審判の請求(不服2019-55号。以下「本件審判請求」という。)をし,その後,令和2年3月12日付けで手続補正をした(甲7)。
(2)特許庁は,令和2年6月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年7月17日に原告に送達された。

令和2年3月12日付けの手続補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1~14 に係る発明(以下,併せて「本願発明」といい,各請求項に係る発明をそれぞれ請求項の番号に応じて「本願発明1」などという。)は,次のとおりである(甲7。ただし,本願発明8の各構成の冒頭の符号(A)~(K)[枝番を含む。]は,本件審決において説明のために付されたもので,以下「構成A」などという。)。
・・・
【請求項8】
(A)処理コントローラと,メモリと,表示画面とを備えたディスプレイ装置に,表示用のデジタル・コンテンツを記憶するための方法であって,
(B)1つまたは複数のディスプレイ装置の表示画面上に表示されるように構成された,少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを用意することと,
(C)通信コントローラ,インターフェース・サーバおよびサービス管理システムを含むコンテンツ・サービス・クラウドを有するサービス・クラウドであって,サーバ,メモリ,およびプロセッサを備えたサービス・クラウドを用意することと,
(D)前記サービス・クラウドの保護記憶システムにより,前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを記憶および管理することと,
(E1)前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを表示するように構成された前記1つまたは複数のディスプレイ装置の前記処理コントローラと,前記サービス・クラウドの通信コントローラにより,通信することと,
(F1)前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの前記サービス・クラウドの前記保護記憶システムへの導入を,前記サービス・クラウドのデジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンにより制御することと,
(G)前記1つまたは複数のディスプレイ装置上の前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの供給を,前記サービス・クラウドの供給エンジンにより制御することと,
(H)前記供給エンジンにより供給を受けた,前記1つまたは複数のディスプレイ装置の動作状態および性能レベルを反映したデータを,前記サービス・クラウドのサービス管理システムにより収集することと,(I)前記1つまたは複数のディスプレイ装置上に表示するための前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの選択のために,前記サービス・クラウドのサーバにより,メモリ,プロセッサおよびユーザ入力装置を備えたコンピュータ上で稼働するアプリケーションのインターフェースとなることと,
(J)認証されたデジタル・コンテンツ・アイテムを,前記サービス・クラウドの外部の創作地点から,インターネットを介して,前記1つまたは複数のディスプレイ装置へと,前記サービス・クラウドの外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送することと,
(K)コンテンツを,前記1つまたは複数のディスプレイ装置へ,前記サービス・クラウドの外部の1つまたは複数の外部供給源から,前記サービス・クラウドのライブ・データ・フィード・ゲートウェイにより提供することと,
(E2)前記ユーザ入力装置による前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの前記選択に応答して,前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ製品を,前記インターネットを介して,前記ディスプレイ装置の前記表示画面へと,前記通信コントローラにより送信することと,
(F2)前記1つまたは複数のディスプレイ装置上に表示するための前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを,前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンにより解析することとを含み,
(F3)前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンは,低容量取込および大容量取込を含む取込作業フローを備える,
(A)方法。

■主文
1 特許庁が不服2019-55号事件について令和2年6月30日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

■裁判所の判断(一部抜粋)
2 相違点に係る容易想到性の判断の誤り
(1)相違点1に係る容易想到性の判断の誤り
ア甲2の段落【0142】の「品質情報」は,同段落で明確に述べられているように,受信品質や受信性能に関する情報,すなわち,インターネット等のネットワークを介して転送されたファイルをクライアント211がどれだけ良く受信できるかを示すものである。このことは,甲2の段落【0117】に「品質データ管理部34は,各クライアント211の受信性能および受信品質を示す品質情報3 1を常に最新の情報に更新し(フローF78),次のコンテンツファイル配信時の受信性能および受信品質の情報として利用する。」とあるように,品質情報がコンテンツファイル配信に利用されることからも明らかである。そして,甲2には,クライアント211がどのような装置であるのか記載されておらず,ディスプレイ装置であることは記載されていない。
イこれに対し,本願発明の「ディスプレイ装置の動作状態および性能レベル」について,「動作状態」は,ディスプレイ装置の状態に関する情報を含み,「性能レベル」は,例えば,ディスプレイ装置がデジタル・コンテンツを表示したり,当該デジタル・コンテンツと関連する音声を提供したりする際に,ディスプレイ装置がどれだけ良く動作しているかに関する情報である。
そして,本願明細書(甲6)の段落【0100】に記載されているように,本願発明では,サービス・クラウドのサービス管理システムが,ディスプレイ装置の動作状態及び性能レベルを反映したデータを収集することで,アラート,レポート及びダッシュボードを生成し,それにより,常に最高のサービス性能を維持することができ,サービスの劣化等を予期することもできるようになる。
以上によると,受信品質や受信性能に関する甲2技術に係る「品質情報」は,本願発明のように,コンテンツを表示するディスプレイ装置の動作状態及び性能レベルに関する情報についてのものではないから,甲2技術の「ファイルの受信品質および受信性能の指標を含む品質情報を取得する」構成は,本願発明の「1つまたは複数のディスプレイ装置の動作状態および性能レベルを反映したデータをサービス管理システムにより収集する」構成(構成H)に相当するものではない。
したがって,甲2に接した当業者において,相違点1に係る構成に想到することは容易でない。

エ被告は,甲2の段落【0077】及び【0078】を参照し,「クライアントの固定的なスペック値」はクライアントが備えるCPUやメモリ等の性能レベルのことで,甲2技術で取得される「品質情報」はクライアントがどれだけ良く動作しているかに関する情報も含むものである旨を主張するが,CP U使用率や記憶部の使用率は,クライアントの動作状態や性能レベルの指標ではない。CPU使用率は,単にCPUが別のアプリケーションによってどれだけ使用されているかを示すもので,コンピュータの動作状態を決定するものではなく,記憶部の使用率は,ハードディスク内にどれだけのディスクスペースが追加コンテンツを記憶するために残っているかを示すための指標にすぎず,コンピュータがどれだけ良好に動作しているかに影響するものではない。また,被告は,甲2の段落【0002】から,甲2に記載されたクライアントは,映画コンテンツや書籍等を表示するものと認められることを指摘するが,同段落の記載は,背景技術に関するものにすぎないし,また,クライアント211がディスプレイ装置であることを自動的に示唆するものでもない。
(2)相違点2に係る容易想到性の判断の誤り
ア(ア)甲3技術においては,甲3の段落【0055】に記載されているように,ピア1Aは,ピア1Bに対し,データを直接,送信する。また,上記段落の記載から明らかなように,甲3では,外部のコンテンツを転送するための,サービス・クラウドの外部コンテンツ・ゲートウェイに相当するものは開示されておらず,サービス・クラウドについて何ら言及されていない。
(イ)これに対し,本願発明では,「認証されたデジタル・コンテンツ・アイテムを,前記サービス・クラウドの外部の創作地点から,インターネットを介して,前記1つまたは複数のディスプレイ装置へと,前記サービス・クラウドの外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」ことが明確に規定されており,ディスプレイ装置がサービス・クラウドを介して外部のコンテンツを取得する。
(ウ)以上によると,甲3技術に係る「ピア1Bは,ピア1Aに該当のデータの送信を要求する」構成は,本願発明の「外部の創作地点から,インターネットを介して,前記1つまたは複数のディスプレイ装置へと,前記サービス・クラウドの外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」構成(構成J)に相当するものではない。
イ本件審決は,相違点2に関し,引用発明と甲3技術が,送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法である点において共通すると認定判断している。
しかし,甲1の8頁9行目~10行目に示されているように,引用発明のmpx プラットフォームは,ユーザに自身のコンテンツを公開することを可能とする一方で,コンテンツを非公開とすることも可能とする。
これに対し,甲3の段落【0048】の記載によると,甲3技術では,ユーザではなくピア1A(メッセージ制御部114)が,公開フラグに基づいて,ピア1B にデータを送信するかどうか判断するように構成されているところ,引用発明のmpxプラットフォームのユーザがコンテンツを非公開とすると決定した場合でも,この決定がピア1Aに反映されない可能性がある。その結果,ユーザがコンテンツを非公開とするかどうかにかかわらず,ピア1Aがピア1Bにコンテンツを送信するおそれがあるが,それは,ユーザの意思に反することである。
したがって,引用発明は,甲3技術と相容れず,引用発明に甲3技術を組み合わせることは容易ではない。

ウ以上のとおり,甲3技術は,ピア1Aとピア1B間の一対一の通信(ピアトゥーピア通信)に関するもので,本願発明のように,ゲートウェイにより外部コンテンツを1つ又は複数のディスプレイ装置に転送する技術ではなく,また,引用発明に係る技術と相容れない部分を有することから,甲3に接した当業者において,相違点2に係る構成に想到することは容易でない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?