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令和2(行ケ)10094  審決取消請求事件  特許権 【逆流性食道炎の再発抑制剤】

■事件の概要
原告 大原薬品
被告 沢井製薬

(1) 原告は,平成29年4月4日,発明の名称を「逆流性食道炎の再発抑制剤」とする特許出願(特願2017-74712号。優先権主張 平成28年10月27日[以下「本件優先日」という。])をし,平成30年2月2日,その設定登録を 受けた(特許第6283440号。以下「本件特許」といい,本件特許に係る明細 書及び図面を「本件明細書」という。甲33)。なお,本件特許は,プロトンポンプ 阻害剤(プロトンポンプインヒビター。Proton Pump Inhibitor:PPI)を有効成 分とする医薬品に関するものである。
(2) 被告沢井製薬は,平成31年4月15日,本件特許の無効審判の請求(以 下「本件審判請求」といい,本件審判請求により開始された審判手続を「本件審判 手続」という。)をし(無効2019-800035号事件。甲34),被告大原薬品は,令和元年8月27日,本件審判手続への特許法148条1項による参加を許可された。
その後,原告は,令和2年4月17日付けで訂正の請求(甲38。以下,同請求 による訂正を「本件訂正」という。)をした。
(3) 特許庁は,令和2年7月9日,本件訂正を認めた上で,「特許第6283 440号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする。」との審決 (以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月20日に原告に送達された。

本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,各 請求項に係る発明を,それぞれ請求項の番号に応じて「本件発明1」などといい, 本件発明1~6を併せて「本件発明」という。)。
【請求項1】
ラベプラゾールナトリウムを有効成分とし,維持療法を行う前の治療により治癒したプロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎患者に対する維持療法のために,ラベプラゾールナトリウム10mgを1日2回,4週間以上投与されることを特徴とする,プロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎の再発抑制剤。
【請求項2】
維持療法を行う前の治療期において,前記プロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食 道炎患者は,ラベプラゾールナトリウムを,8週間,20mgを1日2回投与,又は10mgを1日2回投与されている,請求項1に記載のプロトンポンプ阻害剤抵 抗性逆流性食道炎の再発抑制剤。
【請求項3】
前記プロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎患者の治療期における治癒前の食道粘膜の炎症が,ロサンゼルス分類でGradeBより重症である,請求項1又は 2に記載のプロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎の再発抑制剤。
【請求項4】
前記プロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎患者が,食道裂孔ヘルニアを併発している,請求項1~3のいずれか一項に記載のプロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎の再発抑制剤。
【請求項5】
前記プロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎患者が,逆流性食道炎の罹病期間が1年以上である,請求項1~4のいずれか一項に記載のプロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎の再発抑制剤。
【請求項6】
前記プロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎患者が,シトクロムP450(CYP)2C19遺伝子型がホモ接合体EMである,請求項1~5のいずれか一項に 記載のプロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎の再発抑制剤。

■主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

■裁判所の判断(一部抜粋)
イ 相違点1に係る構成の容易想到性について
(ア) 本件優先日当時の技術常識として,1逆流性食道炎の治療について,ラベプラゾールナトリウムは,治療期と維持療法期のいずれにおいても,酸分泌抑制作用という共通の作用によって,治療効果や再発防止効果をもたらすものとみられたこと(前記ア(ア)a,c),2胃酸分泌の抑制効果は,ラベプラゾールナトリウ ムの投与量や投与回数と正の相関関係にあり(同(ウ)a),治療期における用法・用量もそのような理解に沿うものとなっていたこと(同(イ)a),3胃酸分泌抑止作用 の強さは,維持療法における再発率とも関連していると考えられていたこと(同(ウ) a),4PPI抵抗性逆流性患者の治療期において,20mgの1日1回投与より, 10mgの1日2回投与の抑制効果の優越性が認められていたこと(同(ウ)b)を指摘することができる。
上記の点を踏まえると,本件優先日当時,当業者においては,PPI抵抗性逆流 性食道炎患者の維持療法期におけるラベプラゾールナトリウムの利用について,従 来の逆流性食道炎患者に対する維持療法期における「1回10mgを1日1回」という用法・用量を,特にそのうちPPI抵抗性逆流性食道炎患者については「1日 2回」に増やすという方向で,あるいは,PPI抵抗性逆流性食道炎患者の治療期 における「1回10mg又は1回20mg(重度の粘膜傷害を有する場合に限る。) を1日2回」という用法・用量を踏まえ,それをPPI抵抗性逆流性食道炎患者の 維持療法期にも広げるという方向で,「1回10mgを1日2回」という用法・用量 を設定し,もって,PPI抵抗性逆流性食道炎患者に対してより高い再発抑制効果 を有する薬剤として利用することを,容易に想到することができたといえる。
(イ) 前記ア(エ)の安全性に関する技術常識を踏まえると,本件優先日当時,ラ ベプラゾールナトリウムの維持療法における20mg1日1回長期投与の忍容性は, 当業者に明らかであった(前記ア(エ)a,b)ところ,1日2回投与と1日1回投与 とでは安全性に差異はないと考えられていたこと(前記ア(エ)c)をも考慮すると, 「1回10mgを1日2回」「4週間以上」投与することについて,臨床上の安全性 の観点から阻害されたといった事情も見受けられない。なお,甲42及び44のガ イドラインには,PPIの長期投与の安全性に関する懸念についての記載があるが, 「いずれの懸念もPPI投与との直接的な因果関係が明らかとはいいがたい」(甲 42)などとされており,上記判断を左右するものではないし,甲23及び29~ 31の各PPIの添付文書における注意書きも,薬剤の添付文書における一般的な 副作用等についての記載にすぎず,上記判断を左右するものではない。
(ウ) そうすると,甲1発明のラベプラゾールナトリウムを,PPI抵抗性 逆流性食道炎患者の維持療法期に投与する再発抑制剤として用い,相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは,当業者が容易に想到することができ たものということができる。

エ 原告が引用する判決について
原告は,平成29年判決を引用して主張するが,同判決は「新規性」について判断したもので「進歩性」について判断したものではないから,事案を異にすることは明らかである。また,以上の本件発明1の進歩性についての判断が令和元年最判に反するものではないことも明らかである。

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