見出し画像

2021年の出生数について

 思ったより減らないな、というのが正直な感想である。

 今年の5-7月に全国の自治体が受理した妊娠届(今回そういうものがあると初めて知った)は、前年の同時期より約11%の減少となっており、このままのペースだと来年の出生数は70万人台になってしまう可能性もあるそうだ。2019年の出生数は約86万5千人で過去最低だったのだが、それを更新するのは確実で、あとはどれほどの減り幅になるかというところだろう。

 妊娠届というのは妊娠の2か月後くらいに出されるものらしく、4月の妊娠届受理数は前年並みだったということなので、妊娠数が大きく減り始めたのは3月からということになり、新型コロナの影響拡大の時期と重なる。感染がどれほど拡大するのか、またコロナが妊婦や胎児にどのような影響を与えるのかがわからない状況であったことを考えれば、とりあえず妊娠を「控える」というのは自然な選択だったであろう。

 今は少し前ほどの感染拡大ペースではないが、しかし感染の終息が見えているわけではない。ヨーロッパの幾つかの国では感染再拡大の傾向にあり、日本も様々な対策がなされているとはいえ、同様の状態に陥る可能性は否定できない。最悪の場合、ウイルスがさらに変異して今以上の惨事になる可能性すらある。コロナ禍とそれによる「妊娠控え」が短期的なものに終わる保証はどこにもない。

 それどころかコロナ禍が経済にも打撃を与えているため、今後は収入減少や経済不安による「妊娠控え」は増えるのではないか。今は核家族化も進み、育児にかかる経済的な負担も昔より大きくなっており、収入の減少は産児計画に影響を及ぼすだろう。

 もっと言うと、これは今後数年の話ではなく、もっと長期にわたる少子化促進要因となる可能性がある。なぜならば、今まだ結婚していない人たちが経済不安で結婚や妊娠を先送りすることが考えられるし、また就職氷河期のような状況が再来すれば、若者の賃金水準が低下し、その世代でも結婚や妊娠から遠ざかってしまう人も多くなりかねないからである。

 しかし、冒頭にも言った通り、これでも今のところ11%の減少で済んでいるのである。個人的にはもっと減る、それこそ半分くらいになるのではとも思っていたのだが。

 元より少子化が進んでいたため、ここでさらにその流れが加速するのは、国にとっては頭の痛い事態だ。人口ピラミッドの重心が高くなるというのは、それだけ下の若い世代の負担が増すということである。

 しかし生まれる子供のことを考えれば、このような状況でもっとも子供にリスクが少ないのは「今は産まない」ことであろう。反出生主義的な話を抜きにしても、まずコロナの感染が妊娠中胎児に思わぬ影響を及ぼす可能性が心配されるし(今のところ影響は確認されていないそうだが、感染拡大当初は切実な懸念だったであろう)、また無事に生まれても親の収入減などで思うように子供を育てられない可能性も考えられる。それにコロナが少子化をさらに促進させてしまった場合、生まれた子供はその社会を支える負担を将来負うことになるのだ。

 これはある種のジレンマを引き起こす話で、少子化が進んでしまうと社会の先行き不安が増すのだが、その中で子供を産むというのは、その後少子化が改善しなかった場合、子供に社会を支える厳しい負担を負わせることになりかねず、いっそ社会に連れてこないほうが「子供のため」にはいいのではないかということにもなりかねない。

 それでも10%ちょっとの減少で済んでいるというのは、そういう「産まないほうが子供のため」と考える人はそう多くない、あるいはそういう人たちは元から子供をつくろうとしていないということであろうか。どちらかというと子供はほしいが、身体的・経済的なリスクを考えて先送りしておこうと考えた人の分の減少だったのかもしれない。

 ただ今後はリスクというよりは単純に経済的に余裕がないので妊娠は無理という人たちも出てくるであろう。コロナの直接の影響による「妊娠控え」は感染が下火になれば解消に向かうと思われる。むしろ今後は経済の動向が出生数を左右する主な要因になるだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?