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自重・ちよさき対談 第3回「反出生主義実現の課題」

 この企画ではnoteに反出生主義関連の記事を投稿している自重さんと私ちよさきが、反出生主義に関連するテーマについて議論します。第3回は「反出生主義の実現」というテーマです。前回までのものを含め下のマガジンにまとめていく予定です。

ちよさき:今回のテーマは「反出生主義実現の課題」です。前回までの2回で、反出生主義がどのような思想かについて扱ってきました。それを踏まえた上で、反出生主義が果たして実現可能な思想なのかについて議論していきたいと思います。よろしくお願いします。

自重:こちらこそ、よろしくお願いいたします。

ちよさき:まず反出生主義実現の大きな課題として挙げられるのは、社会の維持でしょう。現在も少子化は問題となっていますが、反出生主義が普及するとさらに少子化が進むため、そのままでは人口再生産に頼る社会維持システムはいずれ破綻することになります。

自重:そうですよね…反出生の理論は、非存在のことは救えますけど今生きてる人たちにはだいぶ我慢を強いる構造であるように思います。
 人口が減っていくと、例えばどういう問題が浮上してくるでしょうか
私はまず、
・労働力が減ること
・経済成長の鈍化
などを思いつきました。ちよさきさんはどうですか?

ちよさき:労働力の減少はあるでしょうね。人口がそれに見合って減るならともかく、高齢化も同時に進みますので、労働力の需要に対して人手不足になるし、経済成長も難しくなるでしょう。
 あと人口減による問題としては過疎があると思います。人口密度が低くなるとインフラの維持も困難ですので、都市部に人口を集約していく必要があるでしょう。仮にそれがうまく行ったとしても、都市の外には広大な無人地帯が広がりますので、その治安維持や国土保全、さらには国防に関しても問題が出てくると思われます。

自重:結構いろんな問題があるみたいですね…。
 まず労働力についてですが、不足分を補うためにはどういう手段が考えられるでしょうか?私は、AI及びロボットが手段の一つだと思います。
内容面などに関して問題はあるでしょうが、ひとまず要員は確保できると思います。

ちよさき:私も主な対応策は機械化だと思います。少ない人数で労働力を維持するには、機械の力が不可欠でしょう(国外から移民を入れるという方法もありますが、個人的にはあまりよいとは思っていません)。
 そもそも現状が少子高齢化ですので、機械化は反出生主義とは関係なく進めるべきことだと思います。もし今から劇的に多子化したとしても増えた子供が労働力になるには約20年かかりますからね。
 機械化でどこまで労働力の減少を補えるのか詳しくはわからないので、人口が減っても大丈夫とまでは断言できないですが…。

自重:そうですよね…。機械化だけで全てが補えるとは私も思えません。
 機械ができる仕事内容は限られていますし、機械が一部の仕事を占有することで人間がやる仕事内容も狭められ、適応できなくなる人が出てくることも考えられます。

ちよさき:機械化には技術的な問題もありますが、現在の賃労働体系では機械化≒誰かの失業という面がありますので、機械化推進のためにはBI(ベーシックインカム)のような労働に頼らない生活保障システムの形成を同時に行う必要があります。

自重:続いての過疎に関しては、どういった解決策が考えられると思いますか?

ちよさき:過疎に関してもやはりインフラや治安の維持を機械化して人間の労働への依存度を減らす方向になると思いますね。特に防衛面では人数をかけずに内外に対応することになるので、無人化装備は必須でしょう。あと、人口を都市に集約することが必要になるでしょうし、そこをどれだけ計画的にやれるかは課題でしょうか。

自重:ええ。
 外交、社会保障、インフラ、治安…請け負ってる範囲が膨大ですよね…。国家レベル或いはグローバルな次元で計画立てする必要があると感じました。そのためには反出生主義に多くの人(或いは権力者)が賛同しなければなりません。しかし賛同を得るにあたっても問題は山積しているので、難しいなと思いました。

ちよさき:一人一人が子供を作らなければ反出生主義は達成できるのですが、マクロの社会の維持となってくると政治のレベルの話にならざるをえないでしょうね。

自重:そしてもう一つの話題なんですが、仮に反出生主義によって人口の縮小が行われた場合「最期の1人」が抱える問題があると思うんです。それは精神的なものが多いとは思いますが、これに関してはどういった考えをお持ちですか?

ちよさき:「最期の1人」になる頃には生活の維持はどうにかなっているものとしても、孤独などを感じるかもしれないということでしょうか。ひとつは、その頃には安楽死が可能なはずなので、残っているのはその環境でも大丈夫な人たちだけなのではないかと思います。
 あるいは、コンピューターでシミュレーションした「人間」が作られるかもしれません。これは交際相手の代替として恋人シミュレーション、子供の代替として育児シミュレーションが作られるかもしれないという話にもつながるのですが、数十年後には人類は仮想空間の中で哲学的ゾンビと暮らしている可能性もあるでしょう。

自重:それは面白いですね。身体的には存在しないけれども、意識上、精神的には存在している…。
 最期の1人となるべき人は、その環境に適応できる人が好ましいですね。もしくは、最期に集団でいっせいに安楽死をするか…ですよね。

ちよさき:哲学的ゾンビは人間のように見えても我々のような意識はないので、苦痛を感じさせても特に問題はないんですよね。ゲームのキャラクターと同じです。そのため、彼らを作り出すことは反出生主義に反しないと言えます。
 1世紀以上先の話でしょうから、我々の創造を超えた技術で快適な「最期」を過ごしているかもしれません。それよりは「最期の1人」になるまで反出生主義を徹底させるほうが難しいように思います。

自重:確かに。
 今まで話してきたように、反出生主義を実現するにあたっては政府レベルの活動をしなければなりませんし、その段階に至る前にも、いかに反出生主義を理解、浸透させるかという問題があります。
 よく反出生主義は机上の空論だと揶揄されていますが、この背景には反出生主義の理論が皆の常識や慣習、信条を覆しかねないものであり(受け入れられにくい)、かつ実現には途方もない労力と時間が必要である(簡単に実践できない)ということが考えられます。

ちよさき:人類の存続だけならともかく、存続と理想、例えば幸福とか人権とか自由とかを両立させるのは反出生主義実現と同じくらい難しいと思いますけどね。
 それはさておき、反出生主義実現の課題で社会の維持(技術・制度面)と共に大きな課題なのは仰る通り反出生主義の理解や浸透、すなわち人心面でしょう。絶滅を回避してきた系統ですから反出生主義に対して有効な反論ができなかったとしても心理的抵抗を覚えるのは無理のないことです。
 私は確かに反出生主義の理解や浸透も大切だとは思いますが、同時にそれには限界があるだろうと思います。子供が新しく生まれないシステムを作って、その中で人類がそれなりに幸せに絶滅できるようにするのが現実的ではないでしょうか。反出生主義の目的は反出生主義を全員に理解させることではなく、出生の回避により新たな不幸を生み出さないことなので。

自重:なるほど。
 すんなり理論を理解できる人には理解してもらって、ちょっと抵抗があるよという人には「こういうシステムどう?子どもが生まれなくても自分自身は幸せに生きられる仕組みだよ」と提案する。
 全員が理解するのを待つよりも、並行して実践を行う方が浸透効果はかなり高いだろうと思いました。

ちよさき:そうですね、合理的な(幸福につながる)選択肢を選んでいくと自然と子供をもつことが人生の要素から外れるというのが理想です。
 例えば子供をもつ前段階として(日本では特に)婚姻があります。逆に言えば非婚率を上げるほど子供の数を少なくできます。現在の非婚化の主な原因は自由恋愛における敗北や経済的不安定などよい要素ではないですが、人間よりも魅力的なパートナー(アンドロイドでもVRでも)を作れば、現在結婚しているような人も積極的に非婚を選ぶと思われます。
 子供を持つことへのディスインセンティブ(子育て支援をしないことなど)も必要かもしれませんが、基本的には子供を持たないほうが幸福につながるようなシステムを作るべきでしょう。というかそうしないと反出生主義体制の維持が不可能だと思われます。

自重:仰る通りだと思います。(婚外子の少ない日本においては)様々な魅力的要因によって自発的に婚姻を抑制させることで、人口減少に繋がるということですね。

ちよさき:そういう「合理的選択」を裏打ちするものとして反出生主義を浸透させたほうが、正面きって生殖と対峙するよりは効果的かなと思います。

自重:反出生主義を実現させるためには、大々的に「反出生主義ー!!生殖反対ー!!」と叫ばずに、合理的選択の結果として静かに「主義に近い行動様式や考え」を浸透させていくほうがいいというのは逆説的で非常に面白いですね。
 でも私は今までこういう視点を持ったことがなかったので、新しい発見ができ嬉しいです。

ちよさき:基本的に人間は子供を持ちたいものですし、反出生主義を理解し実践しようと思う人は少数派です。しかし現代において、多くの国で物質的に豊かになり人権や自由も拡大しているのに人口置換水準を超えて少子化が進んでいるところを見ると、「少子化システム」ができてしまえば反出生主義とは関係なく子供は減るのではないかと思います。
 自重さんは反出生主義を浸透させるためにはどのような方法が効果的だと考えていますか?

自重:これは難しいですね。
 悪くいうと私は理詰めで物事を進めるような人間ですから、「正論を言えば皆に伝わるor否定のしようがない」と思いこんでいました。だから(正しい)反出生を伝えれば否応なく受け入れる(受け入れざるをえない)と考えてたんです。
 でも実際にはそんな人達ばかりではないんですよね。「俺にとって不快だから受け入れない」とかいう人もいて…。これを言われるともう理屈じゃ覆せないじゃないですか。だから言ってることが正しかったとしても浸透していかない。
 前に述べて下さった方法以外で有効なものがないか考えてみたんですけど、どうもすぐには思いつけません…。ちよさきさんは何か違うアプローチがあると考えているのですか?

ちよさき:反出生主義を受け入れるメリットは既に生まれた人には基本的にないんですよね。さらに今生きている人のおそらく過半数は既に親であり、彼らにとって反出生主義は過去の行為を否定するようなものなのでなおさら受け入れがたいと思います。無理に正論を押し付けるのは危険思想扱いされたりしてむしろマイナスだと思います。それで私は反出生主義の実現には「結果的に反出生主義を実現してしまうシステム」が必要だろうと考えています。
 言論という面では、まだ親になっていない若い世代に重点を置くべきでしょうか。

自重:つまり子なし世代には言論で理論を理解させ、子持ちにはシステムでこれ以上の生殖を自然と行わないようにさせる、ということですね?

ちよさき:システムの一環としての若い世代への教育というイメージです。子供をもたない選択が合理的で幸福なように社会全体を設計するというのが反出生主義システムの中核ですが、そのシステムを受け入れやすくする、あるいはシステムに乗っかることに倫理的正当性を与えるものとして、言論を用いていく。
 何も反出生主義という形そのものじゃなくてもいいと思います。小さいころから人権意識をインストールし、自由や平等といった近代的価値観を定着させれば反出生主義への親和性は高まるでしょう。反出生主義はそういう「常識」の積み重ねでできているので。

自重:子なし世代にもシステムを適用していくんですか!つまり、(非存在の苦痛を避けるために)子どもを持たない事が合理的な社会を形成し、若者に「常識」的な教育を施してその社会に適応しやすくなる土台を作る、ということでしょうか?

ちよさき:そういうことですね。実際に子供を作るのは主に30代以下の世代ですので、彼らが子供を作らない選択をするというのが重要になってくると思います。
 今の出生主義次世代再生産システムでも同じことをやっているはずなんですよ、子供を作るということが「常識」になるような教育を。ただ戦後はどんどん自由主義化して子供を産んでくださいとは言えなくなったので、それで少子化してる面もあるのかなと。

自重:とてもよく理解できました。ありがとうございます。

ちよさき:今回は「反出生主義実現の課題」というテーマでした。やはり実現の方法まで含めて考えることが重要でしょうし、今後もっと議論されるべき分野だと思います。ありがとうございました。

自重:こちらこそ、ありがとうございました。

 お読みいただきありがとうございました。今後もこのような、テーマを決めての対談形式のnoteを作る予定です。ご意見ご質問などあれば、コメント欄にお待ちしています。

自重さんのnoteはこちら↓

 今回ちよさきからの発言に「反出生主義を実現するためのシステム」という話がありましたが、詳しくはちよさきの最近更新してないブログ「断絶の系統」の「システム」のカテゴリーに関連記事がありますので、そちらもどうぞ。

(第3回編集:ちよさき)

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