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駅長猫と私の7年
2015年の11月から世話をしていた「駅長猫」ネルが里子に出た。
7年世話をしてきてはじめて、家の子として迎え入れたい、という方が現れたのだ。
既に大人の、けして器量がいいとは言えない猫を飼いたいだなんて、並大抵の事ではない。
本気か、冷やかしではないか、あるいは軽く考えていないか、ご本人と話をした。仮にAさんとしておこう。実はAさんの存在は以前から知っていたのだが(お互いに)、話すのはこの時がはじめてだった。
私は人見知りで、こと、猫の世話にあたっては「自分から話しかけたこと」は1度もない。結果いま猫を通じて親しくさせていただいている方は全て、あちらから話しかけてくださった方だ。
人見知りとはいっても、学校や職場のように、仲良しを作っておかないと自分が辛いし損をするだけだと思える場所では、わりとすんなり自分から話しかける事ができる。で、実際仲良くなってきたのだが、こと猫の世話に関しては頑なにガードを張っていた。
なぜそこまで、と不思議に思われるだろうが、保護活動をしている知人が団体が、人間関係で崩壊していくのを目の当たりにしてきたからだ。
私はどの団体にも属さず個人ボラを貫く所存でいた。
実際のところ、極端な話、(人間の)駅長さんとさえ親しくしておけば困らなかった。私がこの子を7年も世話することができたのは何よりも、(人間の)
駅長さんが味方についてくださり、守ってくださったからだ。
だが時が流れ物事が変化するのは世の常。
ネルを発見した7年前は、駅の窓口は朝~夜まで開いており、駅員さんも2人態勢だった。
が、ほどなくして1人態勢になり、
2年前には営業時間が半分以下に短縮され、
そして今年3月。とうとう、無人駅になってしまった。
JR九州長崎支社は、新幹線の開業と、コロナの影響で大赤字なのは周知の事実である。それでなくとも長崎のような地方の田舎は自家用車移動率が高く、列車を利用する人は、時代の流れとともに減るいっぽう。
無人駅になってしまいネルは、大好きな駅長さんにも会えなくなり、「秘密の場所」にも入れなくなり、猫背をさらに丸くしてポツンと佇む姿を見るたび心が痛んだ。
そんな中、半年ほど前から、Aさんが現れるようになった。
この7年間、2週間入院していた時と、イベントで年1程度泊りがけで県外に出かけた時以外は毎日世話に来ていた私は、気まぐれにおやつをあげに来るような人に対して、むしろ怪訝に思っていた。
だから、Aさんに対しても例外ではなかった。
そんなわけで、お互い認識していても話さないこと数か月。
ネルを通じて知り合ったコミュ力の塊のような方が居るのだが、その方経由で、Aさんが、ネルを飼いたいと言っていた。と聞いた。
え!じゃあ、私が、ぜひ飼ってください!と言っていると伝えておいてください。と託すも、返事を聞けないまま、また月日は流れ…
忘れもしない。
なにげにツイッターを見ていた2022年8月6日。
「駅長猫に会いに行くのが楽しみ。家の子にしたいけど、世話している人が怖いから言い出せない」といったような(※多少脚色)ツイートを見つけた。
Aさんだった。
勿論、世話をしている怖い人、は、私だ。笑。
まさかツイッターをしているとは夢にも思わなかった。これはチャンスだ!!ほぼ勢いで朝っぱらからメッセージを送った。
返事はなかなか来なかった。
そりゃそうだろう。今まで、存在は知っているけれど話したことがなかった、なんなら怖かった人がいきなりメッセージを送ってきたのである。私だって逆の立場なら返信躊躇する。
もう反応は無いかもな…と諦めかけたその時、返事がきた。
それからはトントン拍子に話がすすみ、冒頭に書いた「はじめて話をした」のが4日後。トライアルに出たのが1週間後、8月12日だった。
それから約1か月、近況報告や数回の訪問を経て、9月17日。
ネルは正式に飼い猫となった。
猫の寿命は人間の約1/4。
これはすなわち言い換えると「猫は人間の4倍の速さで年を取る」に等しい。ネルにとっての7年は人間に置き換えると28年である。
毎日往来する列車に沢山の人間、自動車、道路、
7年(28年)もの間、命にかかわるような怪我や病気に至らず無事過ごせたのは奇跡に近い。私なんてその間、更年期なのか眩暈発症してふらふらするわ、老眼は悪化するわ、子宮頸がんになり入院手術するわ、転んで右足首骨折し松葉杖で駅に通うわ…安全な家に住んでいる人間でも7年のスパンでこれだから、外に住んでいるネルの無事がいかに凄いかって話だ。
私は40代の多くの時間を、ネルとともに過ごした。
雨の日も嵐の日も雪の日も、猛暑の日も極寒の日も。
正直、駅長をはじめとした駅員さんたちが、駅の利用者さんたちがどんなに良くしてくれても、会うたびに、会えるのはこれで最後ではないかと覚悟を決めていた。心配が尽きることはなかった。
だけど物事は思いもよらなかった方向にすすんだ。
これからは安心安全な家の中で余生を送れるのだ。
別れはいつか必ず来る。だけど、里子に出るという最善の別れ方ができたその時私ははじめて、神様は居ると思った。
旧待合室で寛ぎ、
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母(私)の姿を見つけるといちもくさんに駆け寄って来て、
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遊び過ぎて顔を汚して、
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神社のお守りを着けて、
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秘密の場所で寛ぎ、
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母の趣味に付き合ってくれて、
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骨折した母を心配してくれて、
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時には何かを訴え、
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駅の安全を見守り、
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寒い日は毛布に埋もれ、
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新聞に載って、
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テレビに出て、
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夕焼けを見つめ…
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