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季語深耕「蜜柑」


1 五感の刺激

角川大歳時記よれば、「蜜柑」とは温州蜜柑(ウンシュウミカン)を指すのが一般的らしいです。

我が家は3人家族ですが、毎年ミカンの頃となれば良く蜜柑を買います。何年前からかは、子どもの冬休みあたりに合わせて箱買いしております。そんな中から一つ持ってきました。なお、今回ご登場いただくのは長崎の「味まるみかん」です。

1-1 視覚

 普通のものではなく、「訳アリ品」として売られていたもので、大体一箱300円くらい安売りされてました。

光の反射とは違い、明らかに、しかしちょっとしたものの傷がある。こういった実や、大きさについて、今一つ統一の取れてないものが入っています。自宅で食う分には困りません。見た目に抵抗が無ければ、味も約束されています。

剝く前の蜜柑は写真の通り。大きさについては5~8cmくらい、表面に細かなぷつぷつした油胞が沢山あります。今回手に入れた蜜柑はつるっとしていますが、お尻?がボコボコになっている蜜柑もたまに見られます。出会えるとラッキーです。

傷についていえば、「 害虫や鳥のせい」「蜜柑同士が擦れあう」「収穫や運搬の時の衝撃」「外圧による内圧変化」といった理由。生育中についた傷は味にはあまり関係はないようです。

蜜柑は、サイズは大体5~8cmくらいになるとのこと。剥くと小房に分かれており、白い筋(アルベド)に覆われています。蜜柑の缶詰となると見事に取り去られている部分です。

蜜柑の視覚情報としては、木になってる状態、木から摘まれた一つ一つの実で、皮のついた状態、剥いた状態、アルベドを取った状態、内皮を剥いた状態、と別れると思えます。(木になっている状態だと、より遠景から見て蜜柑山とか蜜柑畑といった傍題になってくることでしょうし、これらの傍題が冬の季語となっている限りは、蜜柑がたわわになった光景が本意かと思えました)。

歳時記の例では、乾くというのもありましたがちょっと美味しそうには見えません。

1-2 聴覚

蜜柑そのものが立てる音は無いかと思います。
実だけでいえば、皮に指先で穴を穿つときの音、剥くときのちいさなパリともペリともつかない音や、保存のために袋詰めにするときの音、近所のスーパーで箱買いすると、一旦別な箱にどさどさと蜜柑を入れて、それから一つ一つ腐ってないか確認して箱に詰め直してくれる音。
もちろん、捥ぐ、収穫の音といったものもありましょう。
自分自身で立てる音は無いけども、人が蜜柑に働きかけて生じる音ではないでしょうか。

1-3 触覚

木から捥ぐ、手に取る(剥く前の感触)、掌内で揉むようにする(甘くなるとかならないとか)、皮を剥くということが考えられます。特に、手持ちの角川大歳時記では三十三句の蜜柑の例句が載っていましたが、六句ほど剥く(むく)、もしくはその活用形の動詞が使われていました。
刃物を使わず手軽に剥け、剥き「ながら」何かをしやすそうな果物が蜜柑でしょうか。手で剥いて食べる果物、大粒の葡萄とかも考えられましたが、どうも巨峰だと果汁に気が向いてしまいそうです。
剥いたうえで何をした、どうなった、といった取り合わせに踏み込んだ方がいいかもなと思った次第です。剥きづらい蜜柑だったが美味かったとか、皮が浮いている感じがしたとか……(ここまで書いて投句前に蜜柑を剥く句はやめにしました。危険すぎる)
他、剥いたうえで、油胞からの汁が飛び出してきて目に入って痛かった、というようなこともあり得ますが、この辺りは蜜柑あるあるとしても詩にはなりにくいのかもな、と考えます。

1-4 嗅覚

油胞の中にある汁(リモネン)が香りの正体らしいです。効果はこちらのサイトをご参照ください。「リラックス」「睡眠」等の効能が掲載されています知ってて得しかしない!リモネンの7つの効果・効能まとめ (kininal.me)。効能を実感出来、それを句に出来たらいいのかもしれません。
すっきりした香ですが、皮を剥いた後にも外皮に残るので、蜜柑の皮を干してお風呂に入れたりすることもありえます。ただ、リモネンを抽出した精油までいくと、季感は薄れるかと。

1-5 味覚

甘酸っぱい。
果物の味は、その実の糖度と酸度のバランス(詳しくは述べませんが、糖度÷酸度で求められる「糖酸比」)によるところが大きいとのこと。こちらによれば、柑橘│初めて酸度を測定する方 糖酸度計ガイド | 株式会社アタゴ (atago.net)温州みかんの糖酸比は12~30とのこと。数値が大きい方がより甘みが強くなりますが、糖度は酸度よりも後から多くなる(熟してくるもの)とのことでした。まだ緑色の方が目だつ「青蜜柑」「極早生蜜柑」はより酸っぱく、実がより赤っぽく濃くなっているものの方が甘い(大体、年末位になってくると出回ってくる気がします)感触があります。
また、蜜柑の味覚の要素は視覚的な情報にもつながります(おいしいみかんの見分け方 - 伊藤農園のみかんな図鑑 (ito-noen.com))。むしろ、剥く前の見た目や剥くときの感触で味の予想が出来たりもします。
その味にどんな思いが込められるのかは詠み手次第でしょうか?
特に思いも込められず、のほほんとついつい食べられている蜜柑、というのもありそうですが。

さて、あとは想像力です。

2 蜜柑のイメージ

2ー1 温州蜜柑と紀州蜜柑(子孫繁栄のイメージ)

さて、角川大歳時記に一度立ち返ります。
「蜜柑と言えば一般的に温州蜜柑をさすが、柑橘類一般を総称してもいう」

「柑橘類一般」の記述についてはさておき、温州とは中国浙江(せっこう)省にある市の名前。東シナ海に面しており、日本の奄美群島と同じくらい南にある市ですが、ここが温州蜜柑のルーツかと言えば違うようです。

「草木花歳時記 冬」(朝日新聞社)によれば、温州蜜柑は「五百年ほど前、天草半島の長島で誕生した」とあります。この本は1999年第一刷とのことですので、520年から530年ほど前、という所でしょうか。農水省のwebサイト(特集1 みかん(1):農林水産省 (maff.go.jp))によれば、温州蜜柑は人間が交配したものではなく、たまたま見つけられた優れた果樹(偶発実生)だったようです。

発見された土地にちなんで、「長島蜜柑」あるいは「天草蜜柑」と呼ばれず、温州蜜柑と呼ばれるのか・・・この辺りを深めると、「田中長三郎」とか「三国志演義」といったことにぶつかり、そこから色々調べたくなりますが、この辺に触れるとちょっとした大学の卒論並みの文章量になりそうなので止めます。

さて。
初めっから温州蜜柑が蜜柑としてメジャー路線を走っていたら、わざわざ「温州」を冠する必要はなかったはずではないか。温州蜜柑がメジャーになる前に、別な種類のものが蜜柑界のスターダムに君臨していたから、温州を名乗らないといけなかったのでは、と。

先に農水省のWebサイトへリンクを張っておきましたが、そちらに立ちよった方は、温州蜜柑は明治期からメジャーになったこと、それより以前(江戸時代)は、蜜柑といえば紀州蜜柑がメジャーだったことを読まれたと思います。

温州蜜柑と紀州蜜柑の違いとしては、大きさ(温州:5~8㎝程度、紀州:5cm。これに満たないともいいます)、種の有無(温州:小房の中に種が無いのが基本、紀州:小房の一つ一つに種があるのが基本)が目立った違いでしょう。

江戸時代、蜜柑と言えば紀州蜜柑がメジャーな存在だったといいます。小房の一つ一つに種が入っていることが、子種=子孫繁栄というイメージに繋がっていたからと言います。また、鏡餅に飾るのは「橙」(だいだい、代々との語呂合わせで縁起を担いでいた)でしたが、橙は8cmくらい。鏡餅に対して大きかったようで、より小ぶりな紀州蜜柑が橙の代わりに使われやすかったという理由もあるようです。
反対に温州蜜柑は種が無い=子種が無く、一家の繁栄に繋がらないと見られてしまったようです。温州蜜柑は九州などで細々と栽培されていたようです。

これが、明治期になると種が無くて大きい温州蜜柑が受け入れらるようになったと言います。

これは、明治の開拓使とも関係があるかもしれません。北海道の開拓にあたっては、どういった作物が日本であり亜寒帯の気候に適しているか色々試されたと言います。その中には果物も含まれ、東京の官園(農業試験・普及機関みたいなもの)ではリンゴや西洋梨、サクランボ等、様々な種類の栽培が試されました。
この東京の官園は、新たな種類の果物を日本に馴染ませる役目や、北海道だけでなく全国にこの果物を育ててはどうか?と勧めたようです。
様々な西洋からの果物が全国で栽培される機会ができ、人々が色んな果物と出会う機会が増え、その中で温州蜜柑も脚光を浴びる存在になったかもしれません。

無論、古くから子孫繁栄の願いを託された紀州蜜柑は今も栽培されています。

2-2 見た目、色彩のイメージ

橙色と色名としてのオレンジは微妙に異なりますが、橙色のイメージ | 色の性格・心理効果・色彩連想 (iro-color.com)というwebサイトによると、橙色のイメージとして

にぎやか・ぬくもり・家庭的・楽しさ・陽気・快楽・活力・歓喜・救護・激しさ・健康・元気・娯楽・大衆的・好奇心・親しみ・社交的・親しみ・八方美人・自信家・自由奔放・ビタミン・美味しさ・わがまま・下品

ここに、例えば5つばかりパッと浮かんだイメージを書くと

・一つあたりの果実の大きさとして、小さい・可愛い
・傷む、腐る
・安価
・手軽
・ありきたり

といったイメージができます。

五感から得た情報と、イメージを組み合わせていけば、結構な句が出てきそうです。

2-3 最後に

X(旧Twitter)で、今回の俳句ポストの兼題についての呟き・ぼやきが見られるようになってきました。
栽培方法だとか、紀伊国屋文左衛門の話等、色々脱線した部分をバッサリと切って今回は追えます。

なお、一通り句を作るだけ作って今回は、概念地図(概念地図 - Wikipedia)を活用してみての句作りとなりました。


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