戦争解体屋 [逆噴射小説大賞2023]
「戦争を終わらせるにはどうしたらいい?」
弾丸飛び交う戦場で話しかけてくる奴がいた。
知らない奴だった。
「誰だお前? なぜ今聞く」
そいつはセトと名乗った。
俺たちは瓦礫に隠れながら敵兵と交戦中だった。
「戦争を終わらせたいんだ」
銃を降ろすとセトは言った。
たったいま何人かぶっ殺した奴がそう言っていた。
「なぜ俺に聞く」
「たまたま? 隣にいたから…」
今する話じゃねぇぞセト。
イカれ野郎が。
俺は自由兵だ。要請があればどこにでも行く。
戦争は嫌いだ。正義の戦いだろうと、報復だろうと、侵略だろうと、戦争は戦争、暴力と虐殺。
戦争は何も生まない。ただ奪うだけ。
それでも俺は戦場に出る。なぜなら武器を売っているのも俺だからだ。
俺は武器商人の家系に生まれた。家業を継ぐ気はなかったが選択肢はなかった。
だから俺は武器を売り戦場にも出る。
この日は野営となった。何人も死んだ。敵も味方も区別なく。
小便をしに離れるとセトがついて来た。
会話の続きをするつもりらしい。
「戦争で儲ける奴がいるうちは無理だ」
俺はそう答えた。
「じゃあ儲かる人を消せばいい?」
その言い草が不気味だったので振り返ると奴は真顔だった。
俺は早く奴から逃げたかった。
だが、こういう時に限って小便がなかなか終わらない。
「それじゃダメだ。戦争より儲かるものがないと。それから、教育と豊かさ…」
そこまで言って俺は固まってしまった。
セトの目が金色に光りはじめたのだ。
それと同時に俺の頭に映像が流れて来た。
逃げ惑う人々、殺される子供たち。俺が売った武器の犠牲者だった。
…その中には俺が殺した奴も、仲間の顔もあった。
「やめろ…」
俺は両ひざをついて頭を抱えた。
「やめてくれ…」
俺は懇願した。ズボンの前が濡れてしまったが気にしている場合ではなかった。
「十年だ」
セトが言った。
「十年で終わらせよう」
俺は頭を抱えたままセトの声を聞いていた。
「十年でこの世から戦争を一掃するんだ」
(つづく)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?