連絡つかずはいいこと、でもない

昨日は予定があったから、準備をして、さあ出ようとスマホを見たら懐かしい名前が表示されていた。留学時代の同期生だ。

こんなに目を見開いたのは何年ぶりだ、ぐらい驚いてスマホを見た。「連絡を取りたい」。そりゃ私のほうだ。彼とは留学前から一緒に勉強をし、生活の準備をし、留学中に半年ほど寮で同じ部屋にもなった。就職先も同じグループ会社だったからしょっちゅう顔を合わせた。頑固に人のアドバイスを聞かない私が、唯一耳を貸すのが彼の言葉だった。それでも、退職前日にふたりきりになったのに、退職することを伝えられなかった。会社の掟だったからだ。友情よりも、会社のルールを優先した。そのことが負い目になってその後連絡を取らなかったのだ。ほかにも理由はあるけど、きっかけはそれ。もう10年近く経っていた。ただずぼらで電話番号を変えなかったのが、こんな効果があると思っていなかった。

連絡が来たのは6分前。急いで返信して、やり取りが始まった。結婚してるの、どこに住んでるの、なんて普通の会話がくすぐったかった。電話すればいいんだろうけどポチポチ文字で会話する。どうもあちらは職場にいるようだった。会って話をしたほうがいいんだろうけど、近況報告だけで丸三日はかかりそうだ。文字を打つぐらいでちょうどよかった。

元気そうでよかった。とりあえず生活は成り立っているのもわかった。でも、一人連絡がついてしまうと、ほかの同期はなにをしているのかが気になる。私たちが勤めていた会社は分裂し、世間から隠れるように去った人も多いと聞く。優秀な人ほど周囲との連絡は断っているようだ。行方知れずとなった人のなかに、同期生が一人いる。

昨日の彼に会ったら聞いてみようか。自然に嘘をつけるように育てられた私たちだけれど、正面で話せば見抜けるかもしれない。「知らない」と言われたら、知っているのだと安心できる。なんでもいい。安心したいのだ。

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