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第36章 カワカミプリンセス

-「行きますわよ! 姫たるものっ、華麗に、優雅に、勇ましく!」・・・戦闘美少女ヒロインになりたいと憧れた、爆裂じゃじゃウマお嬢様-

●実在馬
 
サラブレット メス 鹿毛
 
2003年6月15日-2023年9月13日
 
北海道三石町に生まれます。
 
父は、種馬としても優秀な子孫を輩出したキングヘイロー(第1巻第14章)。
 
母タカノセクレタリーは、アメリカで13勝をあげたサマーゲストと14勝を挙げたキートゥザミントの間に生まれたサマーセクレタリーに、アメリカ三冠馬セクレタリアトを交配して生まれた超良血でした。
 
しかしキングヘイローの仔として最高の成果を上げたのはカワカミプリンセスです。
 
デビュー戦から3戦連続優勝で迎えたGIオークスでも優勝、その次のGI秋華賞でも優勝。
 
しかし次のエリザベス女王杯では1着でゴールを切ったものの、審議で斜行による進路妨害と判定され、12着に降着とされます。
 
これが運のなさのはじまりで、その後、2着、3着にはなるものの優勝できずに12連敗。
 
2回めのエリザベス女王杯でも2着、3回めのエリザベス女王杯挑戦でも9着に終わります。
 
このレースを観戦した牧場主は、成熟して既に母親の体つきになっていると思い、「もうお母さんになりたいんだな」と感じ取り、引退させることにしました。
 
性格的にはかなりの気性難で、厩舎のカワカミプリンセスの馬房には、「猛犬に注意」のプレートの「犬」の字に×を付け、「馬」と横に手書きされた「猛馬に注意」という表示があったことが写真に残されています。
 
2歳年上の宝塚記念優勝馬スイープトウショウ、そして1歳年下のダイワスカーレット、ウォッカと対戦しています。
 
2010年、過去のオークス優勝馬の人気投票で、得票率19パーセントのエアグルーヴを押さえて24パーセントである5061票を集め、1位となりました。
 
通算成績:17戦5勝 2着2回 3着2回
 
騎手は本田優(彼の時代に、エリザベス女王杯の「幻の優勝」を含めれば、すべて優勝していたことになります)→武幸四郎→横山典弘
 
 
●ゲームの声:高橋花林

 
 
栗色の長い髪は、戦国武将のお姫様によくある、前髪をクルっと内側に巻き込んだ顔立ち。
 
鮮やかなピンクの派手なお嬢様風勝負服。
 
幼い頃から非常にお転婆で、男の子を喧嘩で泣かせてばかりで苦情が入る始末。
 
ところが本人は「お姫様になる!」と言ってきかないのです。
 
母親は、「お姫様とはもっとおしとやかなものよ」と絵本を読ませますが、そもそも本人のイメージする理想の「お姫様」というのがまるで違うのですね。
 
「姫たるもの、華麗で、優雅で、勇ましく!」
 
「爆走猛姫☆プリンセス・ファイター(略称「プリファイ」)」というテレビアニメシリーズがありまして、彼女はそのヒロインの猛烈なファンなのです。
 
「プリファイ」は、お姫様でありながら、闇から生まれたダークウマ娘と、正々堂々レースで戦う最強の戦士。
 
ピンチになるとパンチでねじ伏せる。困っている人は放っては置けない。
 
まわりからは乱暴者はお姫様になんかなれないと言われていた。
私なんてダメなんだと思っていた。
 
そんな時、プリファイが教えてくれた。
お転婆だって、お姫様になれますのよ。
 
理想が高い、なんて言わせませんわよね。
そんなの冗談ポイポイですわ。
 
夢は自分で決めるもの、自分で勝ち取るものでしょ?
 
新人トレーナーは、彼女の真っすぐな姿勢に感銘を受けます。
 
プリファイは、王子様の「伝説のトレーナー」の強い愛によって支えられているということになっていまして、自分がその器にかなうのかとは思いつつも。
 
******
 
カワカミ自身も、パンチで地面に大穴が空き、トレーナーを空中高く投げ飛ばせる怪力の持ち主です。ちなみに頭突きも凄いようです。
 
後輩に、普段はいがみあってばかりいるダイワスカーレットとウォッカがいますが、2人は「正義の姫君」カワカミを尊敬しつつも、そのじゃじゃ馬ぶりを大丈夫かな?という目でも見ているようです。
 
*****
 
カワカミの、リアルワールドでのあこがれの対象は、先輩のキングヘイローです。
(史実では父親)
 
入学した時から、キングの、気高く堂々として、しぐさも洗練されてエレガントな姿に一目ぼれしていました。
 
「素敵ですわ~
完璧ですわっ
ご覧になりまして?
あの美しい身のこなし。
キングさんこそ、世界で一番、プリファイに近いウマ娘」
 
キングの方も、彼女を後輩として応援してくれています。
 
おそろいのペンもプレゼントしてもらっています。
 
もっとも、カワカミは、そのペンを、力を入れ過ぎて、うっかり折ってしまったりもするのですが。
 
キングの真似をして、紅茶をたしなもうとして、一気に20杯飲んでしまうこともありました。
 
でも、カワカミの練習成果は思わしくない。
 
トレーナーは、カワカミを、キングが実際の練習する姿を観戦するように誘います。
 
しかし、そこでカワカミが見たキングの姿は、非常に泥臭いものでした。
 
「転んだって、転んだって、諦めない。なんて気高く、美しいのかしら。
 あそこまでやるのは、キングさんが一流でいる覚悟があるからですもの!」
 
キングの「気高さ」が、ただの外見ではなく、「内側からにじみ出ているもの」だとカワカミは感じます。
 
「たがらキングさん(の走り)に近づけなかったのですね。
 動きだけまねしても、私の中身は『空っぽ』だったから」
 
打ち沈むカワカミに、トレーナーは言います。
 
「今はただ見失っているだけじゃないの?
 君は君の理想を持っているはすだ」
 
本当に?
プリファイの真似っこじゃなく、
キングさんの真似っこでもない、
私の?
 
そうは言いつつ、デビューレース前には、「プリファイ」全49話、一気見して寝不足になるのですが。
 
*****
 
しかし、レースで結果を出して行っても、彼女の「姫たる者、ぶっ飛ばしてあげますわ!」といった、これ見よがしの、ヒロイックで挑戦的な態度を、カッコいいと思うファンだけではありませんでした。
 
レースの品位を汚すと見る観客もいたのです。
 
でも彼女は思います
 
理想なんて、自分の延長線上になければ意味はない。
憧れも、私らしさも、全部捨てずに走らなきゃ、意味がないから。
 
「ご覧あそばせ!!!
 姫たるもの。逆境なんて吹き飛ばしてナンボですわっ!」
 
私はやっぱり、華麗で、優雅に、勇ましいお姫様になりたいのです。
 
だけどお姫様って、ほんとうは、なりたい自分をあきらめず、泥にまみれても走り続ける者のことを言うのですわ!
 
だから、今、優雅でないことなんて、どうってことありません。
私は私らしく、優雅さも手に入れてみせます。
 
******
 
トレーナーは、結局プリファイのビデオを全部観させられるハメになります。
 
カワカミは、
 
「それって、プリファイ〇話のエピソードのセリフですね」
 
これで対話が成り立ってしまいます。
 
カワカミ憧れのキングは、彼女の、トレーナーの指導に熱心に従う姿を見て、トレーナーに言います。
 
「彼女の武器は、あの素直さね。
 でも、素直さというのは武器にもなるけど、
 時に脆(もろ)さにもつながるものよ」
 
*****
 
カワカミの華麗で挑戦的な姿には、テレビも注目します。
 
「リアルプリファイ」。
 
しかし、彼女の粗暴で傲慢とも言える態度に悪評が高まっていることを示す手紙の山。
トレーナーはそれを最初隠し通そうとしますが、結局彼女は見つけて読んでしまうのです。
 
品位がない。優雅じゃない。
 
「私、私だけが主役と言っていた。
奢(おご)って、他のウマ娘をないがしろにしていた。
無自覚に相手を傷つけていた。」
 
今までの、私の無礼をお許し下さい。
 
カワカミは、テレビ番組で頭を下げます。
 
これからは、プリンセスとしてふさわしい行動をします。
 
******
 
お上品になろうと、突如お花の稽古をはじめるカワカミ。
 
河原で遊ぶ小学生たちが蹴り出してしまったサッカーボールを、これまでのカワカミなら、「行きますわよ!」と豪快に蹴り返していたでしょうが、手で持っていきます。
 
そうした様子を見ていた、シーキングザパール。
外国を転戦する陽気で開放的な、姉御肌のウマ娘です。
 
姫「らしく」ない?
 
「もっとダンサブルに、パッションに、生きなさい」
 
私、カワカミが好きよ。
前のパワフルな彼女も、
今のまじめにやろうとする彼女も。
 
レース前のパドックでのカワカミのおとなしさに、ファンから、
 
「『ぶっ飛ばす!』って言って!」
「私こそ姫!ってポーズして」
 
との声も飛びますが、
 
「相手を思いやり、誰も傷つけることなく、
 自分らしい品位を捨てずに生きてまいりますので、
 どうか姫をよろしくお願いいたします」
 
それを観ていて、ライバルの魔女っ娘、スイープトーショーは言い出します。
 
「ヤダヤダヤダー!! 今のアンタはカワカミじゃない!」
 
トレーナーは言います。
 
品位ある行動は正しいことだ。
でも君らしくいるのも正しいことだと思う。
 
カワカミは言います。
 
「自分らしさ」と「自分勝手」の違いがわからくなって、
「品位ある行動」と「我慢」の違いがわからなくなって・・・
 
トレーナーは、
 
「『理想の姿』をもう一度観に行こう」
 
と提案します。
 
高松宮記念に「またもや」出場するキングヘイロー。
 
罵声も飛びます。
 
しかしキングは、
 
「私がどうなるのかを決められるのは私だけ。
 いろんなお言葉を投げかけられるのも結構。
 私をどのように見るかもご自由に。
 
 さあ、あなたの方には、観る『権利』をあげましょう。
 私が私らしく、道を駈けるさまを」
 
トレーナーはカワカミに言います。
 
誰かを傷つけたくない気持ちも立派だ。
だがこの道を貫こうとするのならば、
その道で誰かを傷つけることになるだろう。
 
勝者が生まれれば敗者が生まれるように、
誰かの正義が、全員の正義ではないように、
 
その行動が、自分勝手なのか、自分らしい行動なのか、
それを決めるのは君自身だ。
 
戻って来たキングヘイローは言います。
 
「パドックやウィナーズサークルでは、ちょっとした悪役に見えたかしら。
 私らしい行動とは、
『誰が』
ではなく、
『私が』
誇れないといけないものなの」
 
ここに至って、カワカミは悟ります。
 
「『姫』とか言って、自己中心的ね」という声に対して、
 
テレビ番組に出演して、カワカミはこう語ります。
 
「『姫』という言葉に対するイメージには、
可憐さ、高貴さ、清廉さ、など、
様々なものがあると思います。
 
だから私たちは、『姫』と言っても違うものを思い浮かべる。
そしてそれは同じものにはならない。
お互いに、お互いを『違う』と、傷つけあうこともあるでしょう。
だけど私は、私が思う『姫』になりたい。
私には、反省すべきところは、たくさんありました。
でも、誇れるところもありました。
 
私たちは、自分で自分を律さねばならない。
自分らしさと自分勝手をはき違えないように。
振り返った時に恥じる行動ではなく、
自分に誇れる自分でい続けるために。
誰のためのもなく、自分のために。
 
傷つけることに、無自覚であってはいけない。
でも恐れ過ぎてもいきない。
自分の道を歩むために。
私が憧れるプリンセスになるために、
私は・・・私が尊敬できる、『私』になります」
 
*****
 
そして、カワカミは、今度は、誰かの憧れになるのです。
 


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