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政治の卑怯さが中学生にもバレてた話

「体育で政治家がやってるみたいなコトしてんねんボク…」
「たいそうに白い手袋してんのか?」
「ちがうちがう、そっちじゃなくて」
選択肢の幅そんなに無いけどな。
白い手袋ビニール傘かくらいのもんで。

体育大会まで毎日の授業で「体育」が増える地獄の日々を送っている中学生時分の次男は、運動ド音痴のために苦境に立たされていた。

発達障害で身体の発達までも不十分なチビでガリ、当然ながら上に乗るポジションなのに、ペアで肩の上に立つのがもう怖い組体操。
土台の生徒会長が「大丈夫やで」と自分の肩の上に小鳥のようにとまって立ち上がらない次男に語りかけるそうな。
5才で場面緘黙症が発覚し「学校での会話が出来ない」というコミュニケーション障害のベテランとなった次男は、声には出せないが心の中で生徒会長に毎回謝罪しているという。

違うんだ…会長を信頼していないわけではないんだ…会長の支えに不安があるわけではないんだ…君の背は高い…ボクが肩にしゃがんで君が立ち上がった時点でその高さがもう恐怖なんだ…もう膝が伸ばせないんだよ…君じゃない…君じゃないんだ…原因はボクなんだよ…本当に立てなくてごめん…本番までには何とか…どうにかこうにか…

届け、生徒会長に。
あまりの恐怖で会長の頭を鷲掴みにするので彼のヘアスタイルは乱れ軽くヘン顔にもされるのだがそれに文句も言わず、
「絶対大丈夫やから。ちゃんと足持ってるで?落ちひんから立ってみ?」
と土台となって励まし続けてくれる心優しい君に届け、言葉には出来ていないが。

そんな次男には先生も頭を抱える。
上には立てないし、かといってどう見たって土台として支えられる体型ではない。
妥協して1段階上にだけ乗せてみる。
土台から口々に「かるっ」「ホンマに乗ってるっ?」「えっ?もぅ乗った?」という感想が漏れる。
「上に乗るにはヒーは最適の体重してんねんけどなぁ…」
軽量化に伴うバランスの悪さが仇で上も行けないし、土台にしても早々に崩れてしまう。

「それで、小さめのピラミッドを作るんやけど…ボクはやっぱ免除されることになってん。だからピラミッドを作っている間は横で応援してるみたいな『がんばれ~』て言う係りみたいなのをしてるんやけど、最後のてっぺんに上る一人がよじのぼってる隙に土台の横に繋がって土台ですよ~みたいな顔をして同じポーズを取るねん」
「卑怯な戦法を思いついたな」
「先生がそうしろゆぅてんで?立ってたら目立つから」
「先生グルかよっ姑息な!スポーツマンシップはドコいった」
「やろぉ?みんなは本当の土台でひとが乗ってるから苦しい顔とかしてるけど、ボクは平気な顔してると思う。だってボクには誰も乗ってないんやから。横にくっついただけやし」
「堂々と言うね」
「政治家みたいやろ?」
「ドコが?」

「てっぺんてヒロムやねんけどな?」
「あぁ適任やな。運動神経イイし小さいし」
「ヒロムすごくてな?片方がちょっと崩れかかってたら、負担が少なくなるように斜めになってバランスとってしかもちょっと浮いてる、みたいに止まること出来んねん」
「すげぇ…さすがヒロム…やるなぁ…」
「やろぉ?やから絶対どんな土台になってもテッペンで立てんねん。そのヒロムが最後にのぼるから、みんなヒロムに注目するやろ?そのヒロムが注目されてる間にピューって紛れるねん、ボク。みんなの目がヒロムにいってる隙にヒョイ、て。日本の政治家もそうゆうことやるやん?世界で何か起こってみんながそっちに注目してる間に、小さいコトを勝手に決めちゃってて、気が付いたら『あれ?!変わってない?!』てなってるけど『もぅ決まったコトやねんから』的な」
なるほどなぁ…あるな。
何かに目を奪われている隙に…というこの戦術のことを『ニッポン政府方式』と我が家では呼ぼう。

私は権力と暴力には屈しない人生を送ることを肝に銘じて生きているが、社会的弱者が長い物に巻かれずに生きるとなかなか過酷である。
それでも言い訳はせずにまずやることをやろう、と自分に言い聞かせては失敗する毎日だが、生活弱者がこのニッポン政府方式を面白おかしく語る時だけは「秘書がやったコトです」というイイワケを許してやることにしよう、自分を許すことも時には大切だからね。
姑息なことをするつもりはなかったが…みたいな心境の時には「遺憾の意を表明いたします」と言ってみようと思う。

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千徒馬丁
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