見出し画像

【偏食の成れの果て】キューピーマヨネーズ

「マヨネーズは外袋のある状態のキューピーしか食べられない」
そんなとんでもない偏食の女がこの世に二名いるのを知っている。

48年間偏食が治らない私は、どのジャンルにおいても味覚のアッパラパー加減、舌のぶっ壊れ具合には圧倒的自信があるが、マヨネーズだけはこのふたりに負ける。
マヨネーズに関しては彼女らのアッパラパーぶりを超える人間は存在しないとまで思っている。
なんせ二名いる、てのが強い。
全く同じ偏食理由を話し、しかも内容が理解し難い。
そんな偏食の人口が二名もいることが強い、探せば三人目が居そうだからなおさら強い。

私のマヨネーズ偏食は「マヨネーズは乗せたりかけたり横に添えていたら食べるが和えてしまったらアウト」ぐちゃぐちゃに混ざった状態のマヨネーズは我慢して食べるアッパラパーぶりで、まだわかりやすい偏食でまだマシ。
彼女らのマヨネーズ偏食は、味や調理方法とかではなく模様の有り無しである。
今まで聞いたいろんな偏食エピソードの中でも、群を抜いて救いようがない。

偏食の民の言い分の多くはまともだった試しが無いが、彼女らのマヨネーズ偏食はレベチオブレベチ。
これはこのふたりの女をどうにかするより、キューピーマヨネーズのほうをどうにかしたほうがよっぽどまともだと思いかれこれ20年ほど前の春、私はキューピーお客様相談室に電話をした。

懇切丁寧にマヨネーズ偏食の説明をしている最中、お客様相談室の電話口の初老男性の相槌は100%「…はぁ…」であり、何一つ伝わってないことがよく分かった。
私が話し終えると男性の反応はこうだった。

「ええっと…それは…どういった事でしょうか…?キューピーマヨネーズは好きで食べていらっしゃる、ということですよね?」

案の定、何も伝わっていない。
わかる、すご~~~く、わかる。
だって私も最初に聞いた時に「マヨネーズの外袋は絶対に捨てないで、食べられなくなるから」て言われて「ん?ん?ん?ん?ええっと…それは…」と反応したもの。

「マヨネーズの味はね、ふたりとも好きなの。チューブのヤツ、あるでしょ?あの外の袋にはキューピーちゃんとアミアミの模様が描かれてますやん?」
「ええ、ございます。」
「あの赤いアミアミとキューピーちゃんが無くなったらマヨネーズが食べられなくなる現象が発生するとんでもない偏食なんです」
「…は、はぁ…味が苦手ということではなく、でしょうか?」
「味、という概念でこの話を進められないんですよ、味の問題はありません。問題は外袋の模様なので。あの赤いアミアミが付いてないとマヨネーズが食べられへんらしくて、開封したあともずっとあの袋に入れたまま冷蔵庫で保管するんですよ。もちろんマヨネーズを使う時もあの袋に入れたままブチューて出す使い方で。ずっと袋に入れてるていうより袋からは1回も出さないんですよ、捨てるまで。だからね、袋の口にマヨネーズがついたりするわけですよ。それをティッシュで拭き取ってまた袋のまま保管する。そんなんを繰り返すと後半はどうみても不衛生、きったない袋のクチにまたマヨネーズがついてそれを拭き取ってキレイにするけどたいがい【汚い】の蓄積になってますね。何をしたところでもぅばっちい代物でしかない。それで私が外袋を捨てようとするとね『捨てないで!その袋が無いと食べられなくなるから』て、赤いアミアミの模様がないと食べられへんと本人は言う。自分でも何故そうなのかわかんないけど赤いアミアミがないとダメなんですって、それで泣く泣く袋に入れたまま。そう主張する女が二名いるんですよねぇ~そのうちのひとりは潔癖症で汚いことが嫌いなはずやのにこの世の誰よりもマヨネーズだけが汚い。そんなわけで、マヨネーズのチューブに直接キューピーちゃんと赤いアミアミをプリントしてもらいたいという相談です。 そうするとふたりのマヨネーズは最後まで衛生的に良い状態を保てると思うんですけど」

この赤いアミアミの外袋がないと食べられないと豪語する女ふたりは、袋無しで食べてみようともしたがチューブをむき出しにするとその瞬間からもうキューピーマヨネーズを使わないそうである。
冷蔵庫の肥やしとなったキューピーマヨネーズをもったいないと思いつつ捨てる。
味は何も変わっていないのに外袋が無いだけで食べなくなってしまう。
あの赤いアミアミがあるから食べる、あの赤いアミアミが食欲の源なのだ、味は関係なく。

もうこうなると他人に理解してもらうどころか、本人すら理解できていないのだ、救いようがないではないか。
「何故そうなるのか」は解明されない、永遠に。

だからこそマヨネーズのほうを何とかしてあげたくなるわけで、私はたったふたりの女のためにキューピーに相談を持ち掛けてみたが、現在までに赤いアミアミが直接プリントされたキューピーマヨネーズのチューブは販売されていないようである。

お弁当用の個包装された赤いアミアミのマヨネーズを買えと思った御仁も多いことだろう、アレなら全部に赤いアミアミが付いてて使い切りサイズで衛生的じゃんと。
あぁ私も思ったサ、しかし彼女たちは個包装されたマヨネーズは食べないのだ。
赤いアミアミの外袋に入っているチューブ式のキューピーマヨネーズでおいしくいただきたいから、お弁当に入っている個包装マヨネーズは捨て、外袋から1回もチューブを出すことなく使っている汚いマヨネーズをわざわざ冷蔵庫から出して使う、とんでもない偏食の40代と60代の女が、この世に二名おり、今後もおそらく20年以上は確実に、外袋のクチの部分がばっちぃ状態になっているのをティッシュで拭き取るのを都度繰り返して、不衛生とわかっていながら最後まで外袋に入れたまま使う日々を送りやがるのだ。

彼女たちはキューピーマヨネーズユーザーの多くがとっとと捨ててしまうパッケージを魂レベルで愛してしまい「外袋がなければ食べられない」ほど己の味覚までも変えてしまう、キューピーマヨネーズパッケージ担当者が聞いたら泣いて喜ぶような、たった二名のコアな客なんである。
外袋から1回も出さずに使い切る、キューピーマヨネーズの模様を誰よりも長時間鑑賞してきたふたりなのだ。

お願いだキューピーよ、私が知る限りこの日本にたった二名しかおらんが、チューブに直接キューピーちゃんと赤いアミアミを描いてくれ。
長崎と宮崎にいるのでなんなら西日本限定パッケージとしての変更でもいい、マヨネーズのチューブに直接あの赤いアミアミとキューピーちゃんを描いてはくれまいか。

彼女たちに死ぬまでに一度でいいからキューピーマヨネーズを最初から最後までキレイに使って欲しい…カップ焼きそばのカップの端っこにキューピーマヨネーズをタラ~と垂らしたお昼にそんなことを思ったり思わなかったり。

偏食の民たちよ、成れの果てには偏食エピソードはこぢれにこぢれて救いようがなくなってくるが時代は変わった。
全部食べ切るまで残ってひとりで給食を食べなきゃいけない時代は終わったのだから、今後は世界が少数派にスポットライトを当ててくれることに期待しよう。

「単なるワガママ」と怒られて来た偏食エピソードの数々を壮大に語っておしまいなさいな「そんな偏食があんの?!」て面白がってくれる企業が現れて商品開発部が何とかしてくれる時代になったかもよ、だってお客様相談室に相談すると最後に「このようなご意見があったことを商品開発部(または担当部署)にお伝えさせていただきます」て何百回も聞いてるからね、SNSが普及して面白がるマーケティングの時代なんだから。

#クリエイターフェス

サポートをしていただいてもいただかなくても文章のクオリティは変わらない残念なお知らせをしますこと、本当に残念でなりません。 無料の記事しか公開しませんのでいつでもタダで読めます。 この世にはタダより怖いモノはないらしいので記事ジャンルはホラーてことで。