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美しい日本語「お膝送り」

私の故郷宮崎の方言に「ずる」という言葉がある。
「ずって」は「詰めて」と標準語訳を付けることは出来るが、この方言を言っているひとたちに宿る思いやりの気持ちを正確に表現出来てはいない。
ベンチに友人3名で余裕をこいて座っていてそこに4人目の友人が到着、先に座っていた3名の誰かが「ずってやんない」と言った時、そこはかとない思いやりが発生する。

親しい友人同士であれば座りたい本人が座っている人たちに「ずって~」とお願いすることもあるが、たいていは席を譲って欲しい本人が言うセリフではない。
知らない人同士がちょっと間を空けて座っているような距離感で座っている時に「詰めればあと一人くらいなら座れるな」と気付いた、先に座っている人の中の誰かがその場の座っている知らない人に対して言うセリフなのである「ずってもらえんですかね」と。
皆がちょっとずつ「ずって」あげた結果、来た人が座れる。
誰かのために言ってあげる言葉で、行動する人たちも誰かのための行動であり、思いやりリレーが溢れている、そんな言葉が「ずって」なのだ。

この美しい言葉「ずる」の標準語バージョンがたぶん「お膝送り」である。
バスの運転手がお年寄りが乗ってきた時に「お膝送りをお願いいたします」とマイクで言うのを、最近とんと聞かない。

電車でもバスでも席を譲り合ってお座りくださいとのアナウンスが流れているからか、生身の人間が他の誰かのために言う「お膝送り願えますか」を20年は聞いていないと思う。

関西で宮崎弁の「ずって」はきっと通じないだろうから「お膝送り願えますか」のほうを20年ぶりに積極的に言っていこうと思う。
美しい日本語だから口に出して言いたいので。


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