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優れたポップセンスのRoger Joseph Manning Jr.(感想)1990-2005年

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Jellyfish、The Moog Cookbook、TV Eyes、The Lickerish Quartetなど、いくつもの名義でポップソングをリリースしつつ、Beck、Jay-Z、Blink 182などとの仕事をこなす器用な人。
全てを網羅することはできないので、以下Roger Joseph Manning Jr.のリリースしてきた作品を中心にした感想などを。

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Bellybutton/Jellyfish

1990年2月リリース、JellyfishのデビューアルバムはUSチャートで124位。
Jellyfishは、Roger Manning(後にRoger Joseph Manning Jr.と改称)が、Andy Sturmerと一緒に参加していたバンドBeatnik Beatchから独立して結成したサンフランシスコのバンド。
他の参加メンバー、Jason Falkner、Chris Manningはこのアルバムリリース後に脱退している。

デビュー作から楽曲の完成度は高く、甘いメロディと美しいコーラスによる音の重ね方などポップセンスには光るものがある。音楽ジャンルとしては、パワーポップと紹介されることはあるけどもManning自身が、Burt Bacharach、The Sweet、The Smiths、Prefab Sprout、Black Flagから影響を受けたと言っているだけあって雑多な印象だが、不思議とまとまりはよい。


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Spilt Milk/Jellyfish

1992年2月リリースの2ndアルバム。USチャートの最高位は164位だがUKチャートでは21位。
メンバーとしてはベーシストにTim Smithが、ツアー用にEric Doverが参加している。
全体的に前作よりもカラフルな楽曲になっているが、重たくなり過ぎずに軽快なポップソングに仕上がっているのはさすが。
Jellyfishでリリースされた2枚のアルバムの完成度はとにかく高いと考えていて、カルトなファンはいたようだがセールス的には振るわず、RogerとAndyの関係も悪化したことで1994年に解散。
この2ndが売れなかったのは、当時のUS音楽シーンではグランジが流行っていた頃で、時代の流れに逆行していたこともあったと思われる。

当時、深夜に放送されていたBeat UKという番組で「The Ghost at Number One」のMVが流れたことではじめてJellyfishを聴いたのだが、ポップな音のつくりがUKのバンドっぽい印象を受けたので、USのバンドと知ったときは意外だった。でも、よく聴いているとキーボードの浮遊感には西海岸特有の空気感もあったり。
Split Milk(取り返しのつかないことを嘆く)様子を表現したカバーのヴィジュアルにインパクトはあるが、内容を想像しづらくてCD購入をためらったのを憶えている。


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Imperial Drag/Imperial Drag

Imperial Dragは、Roger Joseph Manning Jr.と、Jellyfishのメンバーとしても参加していたギタリストのEric Doverをリードヴォーカルとして、さらにJoseph Karnes、Eric Skodisを加えたバンドで、アルバム制作は1枚だけ、1996年のリリース。

JellyfishよりもRock色が強くなっているが、それでもポップセンスは失われていないため聴きやすい。重く歪ませた質感のギターサウンドが特徴的なサウンドは70年代のグラムロックやハードロックのテイストを感じさせるが、どこか楽しげでポジティブ。
シングル・カットされた「Boy or a Girl」はグイグイ迫ってくる佳曲。Billboard Modern Rock Chartsで31位、UKシングルチャートで30位を記録。


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The Moog Cookbook/The Moog Cookbook

シンセコレクターでThe Beatlesのスタジオアプローチについての本の共著者Brian Kehewと、Roger Manningによる変名ユニット(Uli NomiとMeco Eno)によるThe Moog Cookbookの1stアルバムは1996年リリース。

全編、Green Day、Nirvana、Neil Youngなどロックやグランジのカバーアルバムとなっている。原曲のヴォーカルやリズム・パートもすべてシンセ音でつくられたインストのエレクトロ・ポップはチープだが、本気で遊びながら演奏している感じが伝わってきて好印象。
ユニット名のとおり、Moogシンセを使用しているせいか、60年代を彷彿とさせるイージーリスニングのようでもあり、かなりの異色作。
Soundgarden「Black Hole Sun」のカバーがのとぼけていて好きなのだけど、Weezer「Buddy Holly」の軽快さも捨てがたい。
宇宙人みたいな被り物をして匿名性を持たせているのはDaft Punkみたいだがまったくの偶然だったとのこと。


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Ye Olde Space Bande/The Moog Cookbook

1997年リリース、The Moog Cookbookの2nd。楽曲のつくりは前作の延長線にあるが、カバー曲がSteppenwolf「Born To Be Wild」、Boston「More Than a Feeling」など選曲が60~70年代の古い時代に偏っていて、カバーデザインを古臭くしたのもきっとそのせい。

前作よりも有名な曲が多いせいか、イージーリスニングという感じは減っているが原曲を知っていると、そのパートをそんな音色にアレンジしたのか!と思わすニンマリしてしまう。「Popcorn」のメロディーまで混ぜた、The Eagles「Hotel California」の楽しげな雰囲気といったらない。
こういうどこか垢抜けない電子音の感じはイタロディスコを聴くときの印象に近い。


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Kelly Watch The Stars (Remix Par Moog Cookbook)/AIR

1997年リリース、フランスの2人組ユニットAIRによるシングル「Kelly Watch The Stars」をThe Moog Cookbookがリミックスしている。
レトロな雰囲気のミドルテンポな曲は、原曲の良さもあいまって小洒落たミックスに仕上がっていてアナログシンセとの相性が良い。


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Logan's Sanctuary/Roger Joseph Manning Jr. and Brian Reitzell

Roger Joseph Manning Jr.とBrian Reitzellによるアルバムは2000年のリリース。(この二人は後にTV EYESを結成することになる)

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本作は、1976年の映画『2300年未来への旅(原題:Logan's Run)』の続編として架空の映画をでっちあげ、そのサントラという体裁になっている。
元となった映画を観たことが無いのだが、近未来SFだということは当時のポスターから伝わってくるのと、二番煎じのような邦題が微笑ましい。

シンセのサウンドはThe Moog Cookbookの質感に近いが、リズムパートはシンセサウンドでは無くなっている。
B級映画を思わせる、どこか垢抜けないけども緊迫感のある楽曲が特徴的。Roger Joseph Manning Jr.のソロ作のように、緻密に音を重ねた甘いメロディーを想像すると少し肩透かしを食うかもしれないが、これはこれで趣がある。元の映画を意識したカバーデザインも好き。


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Lost in Translation

ソフィア・コッポラ監督による映画『Lost in Translation(2003年)』のサントラへ、Brian Reitzell & Roger J. Manning Jr.名義で3曲が収録されている。
珍しく浮遊感のあるエレクトロニカとなっており、悪くはないけれども他トラックが名曲揃いのためアルバムトータルで聴くと目立たない。

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映画の内容は、孤独な外国人男女が言葉の通じない東京で過ごすラブストーリー。くたびれたビル・マーレイのカバーもよいのだが、2019年に再発したレコード盤のデザインではスカーレット・ヨハンソンが不貞腐れて横たわっている感じが伝わってきてよい。


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Bartell/The Moog Cookbook

The Moog Cookbookによる2005年リリースは、シングルB面やEPの曲をまとめたコンピレーション。

1曲目「Twist Barbie」、少年ナイフのリミックスまでしているのが意外だったが、テルミンと思われる電子音とギターサウンドの組み合わせが意外にハマっている。
T Rex「20th Century Boy」のカバーもノリがいいのだが、Alex Gophoer「Time」のリミックス曲も収録されており、このグルーヴ感はクセになる。

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少し長くなってきたので、2006年以降のリリース作品については次回に
なお、The Moog Cookbookの1st、『Logan's Sanctuary』『Lost in Translation』『Bartell』は、Spotifyになかった。


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