「うわ。こりゃあひどいな……紅ちゃん、周り人は入れないようにしといて」

「わかりました!……はーい皆さんちょっと離れてくださいねー。この公認探偵証が目に入らぬかあ?」

 やれやれと頭を振る潮探偵。そして、今人だかりを抑えて現場保存を行っているのが助手の紅探偵だ。

「先輩、一応囲いました!」

「一応じゃ困るんだけど?」

「じゃ、しっかり囲いました」

「信じたからね」

 彼女らは、柳都の公認探偵のコンビである。見ての通り、アッパーテンションの紅探偵に対し冷静な潮探偵と、一見かみ合わせが悪そうな二人だが、これでなかなか侮れない。紅潮コンビといえば、数いる公認探偵の中でも指折りの実力派で通っており、実際成人したばかりの二人であるにもかかわらず、この道20年のベテランと肩を並べる事件解決数なのだ。

 今度の現場は東堀通沿いの、扱う宝石の質は間違いないと定評のある老舗の宝石店である。しかし、店主の行う宝石買い取り業務についてはあまり良くない噂が広がっていた。今、ケースというケースが叩き割られた店の奥の、最も高価な宝石が並んでいたであろうショーケースの向こう側で息絶えているのは、その店主だった。

 死体を検分する潮探偵は、短く整えた黒い天然パーマを指でくるくるいじっている。水色のジージャンにジーンズ、どこかのバンドのロゴが入った黒い帽子を被った出で立ちで、冷涼でボーイッシュな雰囲気を醸し出しているが、清歌というかわいらしい名前がコンプレックスで、他人には名字で呼ぶようにといっている。

「強盗……なのかな」

「強盗じゃないですかー?だって宝石ほとんどなくなってるんでしょ」

「まあまあ、まだわからないよ。紅ちゃんもここを見てごらんよ」

 人払いを済ませた夕凪が死体を検分する。こちらは黒を基調に赤を差し色に用いたパンクファッションで、いたるところにピアスを開けている。薄い金髪と鮮やかな口紅のコントラストが良く映えるイケイケ女子という感じだが、夜の街で声をかけてくる男には文字通り鮮やかな一蹴を食らわせる意外な武闘派だ。本人曰く「ウチ、先輩いるんで男がらみマジいらん卍」らしい。

「清ちゃん先輩……これ、手口がアイツと同一犯っぽくないですか?」

「だからその名前で呼ぶな。でも、さすがの観察力だね、もう一級も目前って感じだ」

「先輩に褒められるとウチすっごく伸びますんで、もっと軽率にほめてくださいね」

「調子に乗らないの。……まあそういうことだから、とりあえずここは警察に任せよう。僕らはあそこで待ってるアイツにあわなきゃいけない」

 そう言うと、潮は紅にヘルメットを投げ渡した。パトカーの赤色灯が現場から見えるころには、二人はもう、排気音をとどろかせながら「アイツ」のもとへとひた走っていた。

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