車中にて

 東京池袋に向かう高速バス。インターンを受けるために、私はその車中にいた。今、通路側に座る私の隣には、黒いライダースに黒いレザーパンツ、黒髪をロングストレートにして、バンドか何かのロゴが入った帽子をかぶって薄い銀縁丸眼鏡をかけた、色白スレンダー美人が座っている。バイクには乗らずにバスに乗っているのには何か理由があるのだろうか。

 対する私は白いパーカーに黒いロングスカートにスニーカー、色は白いけど、正直そんなに華があるとも言えないような、どこにでもいるふっつーの女子大生といった出で立ちだ。なんだか、少し居心地が悪い気がして、ちょっと身を縮めてしまう。

 一方、スレ美(スレンダー美人のこと)は、窓の外を見つめ、流れ去る柳都の夜景を見つめている。長いまつげで物憂げに都会の景色を見つめる姿は、詩情のかけらも持ち合わせていない私でも、「エモい」と思わされてしまう。

 身を縮めながらもチラチラ見ていたのが気づかれてしまったのか、スレ美は静かにこちらに顔を向けてきた。まぶしい。顔が輝いて見える。直視できない。すっと顔を背ける私。

「アタシの顔、いいでしょ」

 スレ美がふっと笑う。あたりまえだけど笑顔も美人。これが格差かと思わざるを得ない。天は人を不平等に造り給うたのだ。

「……綺麗です。すみません、つい見とれてしまって」

「いいよ。アタシは素直なかわいい子、大好きだからさ」

 初対面でこれを言ってのける精神性、ただものではない。しかし、私の記憶にあるのはここまでだ。その後彼女が何を言ったかはもはや知るすべは一つを除いてない。私が次に意識を取り戻した時にはすでに池袋で、彼女はバスを下車した後だったからだ。

「気になったら連絡してよ」

 その一文とメールアドレスが書かれた紙きれを私の手に握らせ、彼女はすでに都会の風景の一部と化していた。彼女があの後何を言ったか。私がそれを知ったかどうかは、また別のお話。


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