柳都日報屋上の決闘(2)

 そのかかとが雲居の胸部へと振り下ろされる瞬間。鹿内は、落涙した。

 追うものと追われるものの関係になっても、長きにわたり友として過ごしてきた時間は変わらない。探偵と助手になった後もお互いに切磋琢磨し、時には現場での捜査方針でぶつかり合うこともあったが、かならず乗り越えてきた。だからこそ。


 鹿内は笑った。

 そこに、雲居の亡骸はなかった。


 風を切る音が背後から聞こえる。

 雲居の拳がうなりを上げて鹿内の背中に炸裂した。暗転する視界。


 ……数分の意識の空白を経て、鹿内は起き上がった。

「思ったよりも早い目覚めだな。鹿内」

 前に立った雲居はバイザーをあげていた。それでも、月の光による逆光で彼の表情はわからなかった。カランカラン、と乾いた金属音が夜空にこだました。

「それを持て」

雲居は鹿内から間合いを取ると、静かに中段に構える。

「一本勝負だ」

「……お互いの命を懸けた……か。本当に君はいい趣味をしているよ」

雲居は立ち上がると、目の前に投げられた手すりの残骸を手に取った。そして同じく、中段に構える。雲居がバイザーを下すと、

「勝負!」

 お互いのその一声で、鹿内と雲居は、鳥肌が立つのを感じた。

 一閃。

 脚力にたける鹿内の鋭い突きが、雲居の喉をめがけて迸る。雲居の剛腕は、いともたやすくその突きを巻き落とし、そして鹿内の小手先に強烈な一撃を加えんとした。

 バキョッ。乾いた音を立て、鹿内の腕部装甲装置が粉砕される。それでも、鹿内は己が刀を取り落としはしなかった。

 しかし、その隙は大きい。雲居がその隙を見逃すはずもなく、猛然と鹿内の頭上に躍りかかる。激しい火花と金属音。鹿内はその一撃を”残骸”で受け止めると、素早く離脱し体勢を整えた。

「君の一撃、やはりいつになく重い」

「当然だ。全ての斬撃に俺の思いがのっている」

「つまり、僕は君の思いも受け止められた、ということになるのかな」

「……ぬかせ」

 そういうと雲居は、鹿内が開けた間合いを一足飛んで、その胴を払う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?