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“媚び”の記憶

「子どもは無力無能であるけれども、直感だけは鋭いから、自分たちの本音を大人の前に曝したら自分たちが完全に抹殺されてしまうことだけは知っている。故に子どもは、大人に対して媚びて媚びて媚びまくる。大方の大人は愚鈍だから、子どもが媚びていることに気がつかない。故に、子どもの媚びは深く沈潜し、洗練を極める。社会生活を営む上で最も効果的な対人方法は洗練された媚びであるから、結果として子どもは大人の教育によって立派な社会人になることができる。本当にめでたいことだが、『私が子どもだったころ』と言われてスグに思いつくのは自分のこの媚態であって、私はこの事をチラッと思うだけでも自分の子ども時代がイヤでイヤでしようがない。」

橋本治「媚びる」
(『橋本治雑文集成・パンセⅡ 若者たちよ!』)


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