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ありがとうさよなら「藍色飯店」の巻

東京に戻り一週間ほど経ちました。いまだに荷ほどきをしていない部屋でオリーブとジンジャーがごろごろしているのを横目に、卵を割ったり炊飯器でお米を炊いたり洗濯機を回したりしているうちに、ちょっとずつ日常を思い出してきました。次の作品の撮影が始まり、久しぶりに髪を切ったり何か書いたり消したりしながら過ごしてます。たりたりうるさいね。こういうのはすらすら書けるのに、作品となるとむずかしい。自宅は落ち着きます。実家は休まりはしますが自分ちって感じではないですし、ホテルも快適だったけどやっぱり仮の住まいなので。東京は戦う場所ですが、その東京にある自宅は帰る場所になっているようです。

2021/11/11〜12/8、HOTEL SHE,プロデュース「泊まれる演劇」の「藍色飯店」に出演しておりました。約2ヶ月間の大阪滞在。直前の私用の期間も含めたら丸々2ヶ月半。まだ秋の始まりで肌寒いかなんなら日によってはちょっと汗ばむくらいだったのに、終わるころにはすっかり冬。あっという間だったなぁ。

思えばこの記事を読んで、オーディションに応募したことがはじまりでした。誕生日が締め切りだったのか。誕プレだったのかな。いつかご一緒したいと思ってた憧れの人、悪い芝居の山崎さん。いつか出たいと思ってた、泊まれる演劇。これは、と思って即応募したのが今年の春のこと。
採用連絡来た時、本当に嬉しかったなぁ。出演決まった時も夢みたいだと思ったけど、携わってる最中のほうがよっぽど夢みたいに幸せだった。今までとこれからの間のような、人生のご褒美のような、そんなお仕事でした。

改めて、「藍色飯店」に来てくださったすべての旅人の皆様、ご宿泊ありがとうございました。作・演出の山崎さん、プロデューサーの花岡さん、共演者の皆さん、ホテルスタッフの皆さん、本当にありがとうございました。出会えて幸せです。


「藍色飯店」館内をめぐる「時を忘れた旅」。藍色飯店を訪れ、旅人の皆さんと一緒に時を忘れた旅に出る「朝倉朝美」を演じました。朝倉を演じてはいるのですが私自身が朝倉でもありました。なに言うてんねんと自分でも思いますが、本当にそうでした。脚本がほんとにすごいんだよな。

他の旅人の皆様と一緒に部屋をまわり、その夜のできごとによって何もかもが変わる、そんなおもしろい経験をしました。どんな部屋を訪れどんな話を聞き誰と出会うかによって全く変わり、朝倉が自分の話をする場面も話す相手によって全く違うものになりました。他の旅人の皆さんと同じく、私も自分だけの旅をして、一夜として同じ夜はありませんでした。

作品なので、台本はあります。毎晩自室で台本通りにセリフを返してたけど、いざはじまると一度も台本通りにはいかなかったなぁ。私の代わりに怒ってくれる人をなだめた日もあれば、一緒にさめざめと泣いた日もある。明るく励まされて笑った日もある。誰も見ていない空間に私たちだけが居て、お互いの話をしている。台本は確かにあるんだけどその瞬間はなくて。不思議でした。不思議で、素敵でした。

関わってくださった旅人の皆様、本当に優しかった。忘れられません。朝倉の旅に関わってくださって、本当にありがとうございました。話してくれたことも、手を握ってくれたことも、抱きしめてくれたことも、一杯おごってくれたことも、ハンカチ持ってないことを謝って下さったことも、幸せを願ってくれたことも、ずっと忘れないでいたい。あなただけに話し、応えていました。朝倉さんは確かにいましたし、これからもいます。物語が現実になったのは、ひとえに一緒に旅をしてくれたみなさんのおかげです。ありがとう。

あ、あと。ここで言うのもなんなんですが、迷惑でも不快でもなかったですよ。知らずに話しかけすぎたかもしれないと気にしてくださる心優しい方がいたので。気にしてくださらなくて大丈夫です。私が一緒に行動したり、話したりしてたのは、私がそうしたかったからです。優しいですね、ありがとうございます。

「時を忘れた旅」楽しかったですね。誰かの部屋の中で旅人の方のお名前を聞くのが好きでした。名前には願いがこもってますから。ふらふらと館内を歩いている時やロビーにいる時、今夜出会ったばかりの人と二人でお茶を飲んでいる時。いま見ている景色が現実なのか夢なのか、夢の中の夢なのか、不思議な気分でした。藍色飯店、夢みたいに素敵でしたね。


藍色飯店

「藍色飯店」に集まった素敵な方たちのお話。とにかく携わっているメンバーが本当に素晴らしかった。一員になれて光栄でした。ロングランだし泊まり込みだし接する時間が多いのもあったんだろうけど、皆さんと親しくなれて嬉しかった。

チームの全員が「藍色飯店」という船に乗って一緒に旅をした大切な仲間です。お互いに感謝と尊敬を持ちつづけることがなんの疑いもなくできたチーム。一丸となって「藍色飯店」を愛し大切にしながら生きました。作品を大切にすることは、生んだ人を大切にすることと同じ。その空気が、誰かがそうしようよと言ってできたものじゃなくて当たり前にあるものだった。作品と作家に対する尊敬と感謝。チーム全員への尊敬と感謝。観にきた人への感謝。仕事への情熱と誇り、素敵で面白いものを作っていることへの喜び。それらが充満している空気は、とてもおいしかった。

あと出演者全員でびっくりするほど仲良くなって、毎日別れを惜しむように過ごしていました。あんなにさよならが悲しかったのははじめてかもしれない。みんなを引っ張ってくれるぐっちさんやヤスさんがいて、やさしくておちゃめなうえたさんがいて、いつも頑張ってくれてよく泣くかわんでぃがいて、きばともりかわがいつも元気でかわいくて、ナディがいるだけで場が和み癒されて、ニッチェがいい子でおもしろくて、のりぴーがにこにこしてたらうれしくて、うますぎるツッコミで話をまとめるだいちゃんがいて、一緒にいるのが心から楽しかった。よく話し、よく笑いました。これだけの人数がいて、全員を好きになるのは奇跡的なことです。キャスティング天才。

山崎さんも、花岡さんも、役者のみなさんも、衣装のウェンディさんも、音響の三橋さんも、舞台美術の竹内さんも、照明のわたなべさんも、ホテルスタッフの皆様も、飯嶋さんも、心の底から大尊敬。「藍色飯店」に参加できて、本当に幸せでした。宝物になりました。いつどこで誰に出会えるかわからないけど、まだ見ぬ愛する誰かに出会うために生きている気がする。いい出会いは儚くて尊いです。またご一緒できるようにがんばろう。お前選んでよかったわーって、思っていただけてるといいな。


時を進めることになりましたが、これからどんな自分になっていくんでしょうね。幸福感とさみしさを抱きながらホテルのベッドで眠りについた「かつての私」が、がっかりしないような、いつか会える日を楽しみにできるような、そんな「いつかの私」になりたいね。

時は想いと記憶の積み重ね、というセリフが好きでした。緊張しながら出会い泣きながら別れるまでの記憶と想いが、ずっと積もっています。積み重ねながら、生きていきましょうね。長い長い(予定)人生の一部分を、共有できたことを幸せに思います。健やかでいてくださいね。また、お会いできますように。「藍色飯店」、ありがとう。亲爱的,晚安。再見!

朝倉朝美 役 藤井千咲子

photo by 嘉味田圭熙


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