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#カワイクイキタイ

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役者×カメラマンの フォトエッセイ『#カワイクイキタイ』 日常、ときどき、ヘンテコ🦄 どんな時も人生はカワイイ❤️‍🩹
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#写真

#カワイクイキタイ29「怪獣」

 体から湯気が出ている。  この湯気がもし、意識して無意識になった情熱や愛情だったら。だんだんと抜けて、消えかけているのだとしたら。  余りある情熱や愛情について、常々考える。  たくさんの人を巻き込んでたくさんの人を幸せにできる人と、そんなことを間違っても思い立ってはいけない怪獣がいる。怪獣は、自分が怪獣だと知らない。だから平気で壊す。傷つけておいて、傷ついたと言う。  怪獣になりたくない。怪獣を許しちゃいけない。  そう思う気持ちが必要だ。人間でいたいなら。

#カワイクイキタイ28「ずっと忘れませんように」

 あの最低のヒロインは、残される人のことなんて何も思いやらず、他人の人生を呪うだけ呪って、自分勝手にいなくなった。  羨ましかった。  あんな風に生きられたら。あんな風にいなくなれたら。最低だからなんだ。どうせあなたは、私を嫌いになれないでしょと。誰かを信じてみたい。それがどんなに、キレイな形じゃなくても。  命は季節とおんなじで、ただ過ぎ去ってゆくもので、春は努力で冬にならないし、ずっと夏がよくてもいつか終わって秋になる。いつか必ず終わっていなくなる。あなたも私も。

#カワイクイキタイ23「昨日より今日より明日」

 「人生を今日よりもよくしていこう」  かわいそうに。有線から垂れ流しで消費されていたはずの音楽は今はじめて私の耳に届いた。他人事のように歌うことで、人生なんてなにもわかっていないような声で歌うことで、痛みや悲しみに寄り添わないことで、誰かを救う時もあるんだ。  でも、君が泣くなら僕も泣く。君が死ぬなら僕も死ぬ。君が無くなるなら僕もきっと無くなってしまうし、君が叫ぶなら僕も叫ぶ。ひとりぼっちになんてしない。守れない約束ばかりでもこれは約束だ。  みんな、自分だけは一生生

#カワイクイキタイ22「なんでもいいね」

 頭の上でりんごがポンと跳ねました。  その瞬間、あなたを好きになりました。  あなたを好きになった瞬間、世界は突然鮮やかになり、明日が待ち遠しく、空気は美味しく、なんだか健康になって、肌の調子がよくなった気すらしました。そんなのは全部気のせいで、そんなのは全部本当のことでした。  その瞬間は、豪華でも派手でも賑やかでもなく、何も特別ではなく、とても静かなものでした。  近くのコンビニに行っただけ。たった数十メートルを手も繋がず何も話さず、でもふたりきりで歩いただけ。帰

#カワイクイキタイ21「夢で逢えたら」

いいな。  せめて夢の中でくらい、あいたい人にあいたい。あいたい時にあいたい。本当は思ってること声に出して言いたい。現実はあまりにもつらい。つらくてこわい。それに大変。  人生は楽しいものではなく続いてゆくものだから、どうしたら嫌にならずに続けてゆけるかを考える。  仕事、食べるもの、一緒にいる人。そう考えたら、途端にひとりぼっちな自分が情けなくなってくる。  誰かの、これからも続いてゆく誰かの人生に、居ても差し支えない人間になりたい。差し支えないのは大前提で、できれば

#カワイクイキタイ20「あなたがずっと私を忘れませんように」

 そういえば今日はまだなにも食べてないな。中断して台所へ行く。冷蔵庫を開ける。昨日の残りものをレンジでチンして適当に食べる。誰か居ようものなら味噌汁や卵焼きのひとつも作るが、自分のためにそこまでする元気はない。私が守れるのは、猫との約束くらい。自分との約束はなにひとつ守れない。  子どものころ好きな子が何人かいたみたいに。あの子のことが好きなんだったらあの子のことは好きじゃないってこと?というのは間違っている。あの子も、あの子も、みんな好きだった。あれは嘘ではない。  心

#カワイクイキタイ18「地球の歩き方」

 家の中でメガネを無くした。メガネを探したいのに、メガネが無いから見えなくて、メガネを探すためのメガネが必要だった。そんなものはない。でも、メガネを探すためのメガネが、私には必要だった。  どこかに向かっているはずなのに、帰る場所はちゃんとあるのに、電車や車に乗っているとき、夜道を歩いているとき、このまま行くとどこに出るんだろうとよく考える。  ラブホテルの窓はどこにも繋がっていない。ライブハウスの天井は低く、閉鎖的で、どこもかしこもヤニ臭い。東京で暮らす六畳やそこらの部

#カワイクイキタイ13「生活」

 ずっと、生活がしたかった。  人前で大きな声を出して、人前で涙を流して、歌ったり踊ったりした帰りにトイレットペーパーを買って帰る。スーパーに寄って、あしたの食材を買う。どこか特別な場所にじゃない、家賃を払っている家に帰る。あしたも続く日常の、毎日の、疑いようのない生活。人生の一部で全部。  365日のうちの364日。素晴らしい日々の、誕生日じゃないなんでもない日。贅沢をしない日曜日。あなたと一緒にいることが、そうなればいいなとずっと願ってた。どこにも行けないんじゃなくて

#カワイクイキタイ12「しかたなくない」

 泣かなくなった。  悲しくないわけじゃない。泣いてもなんにもならないから泣かなくなっただけ。むしろ悲しいことは増えていって、平気だったことが全然平気じゃなくなってきた。いちいち悲しくて、悲しくて仕方ないのに、悲しんでも仕方ないから、悲しむ気にもならない。  怒らなくなった。  ムカつかないわけじゃない。むしろムカつくことはどんどん増えてる。納得できないことを飲み込めなくなって、おかしいことを流すのは苦しい。ずっと何かにムカついてる。怒りが外に向かなくなっただけ。誰にも

#カワイクイキタイ11「殺すな」

 お前なんかだいきらいだ。一生忘れてやらない。一生許してやらない。  お前が台無しにしたせいで物語は死んだ。ぜんぶ嘘になった。血を流しながら命を注いだ人が居るのに。傷ついている人が居るのに。ライブの最前列に居ながら曲を聴かないお前。そんなに自分を見てほしいのか。お前のその行動で彼女たちの音楽も、彼女たち自身も死んだ。この日を迎えるまでの、何もかもが死んだ。笑ってるように見えたか。喜んでるように見えたか。お前、馬鹿か。血が出てないと傷ついてることにも気付けないのか。大勢の前で

#カワイクイキタイ9「F」

 ずっと誰かになりたかった。  私には、できないことばかりがある。なにをやっても上手にできない。自分のいいところを聞かれても答えられない。美しい容姿も優れた知能も、惚れ惚れするような才能も、なにもない。やりたいこととできることにいつも差があった。書きたいことを書きたいように、描きたい絵を描きたいように、やりたいことをやりたいように、できたためしがない。私はこのままでいいって、思ったことがない。  なのに欲しいものばかりがある。  誰かや何かに、なりたかった。ずっと。

#カワイクイキタイ7「正しい街」

 みんな、他人のことで大忙しだから。  悪いことしよう。伝えたいことなんてもうとうに無い。正しいことばかりだとつまらない。真夜中のジャンクフード。飲み物はもちろんコーラ。昼間から飲むビール。夜の学校に忍び込んで校庭に埋めた箱。開店と同時に銭湯。部屋の中にいる恋人ではない男女。  それは過ちと呼ぶには美しすぎて、過ちと呼ぶことが過ちなのではと錯覚するほどだったそう。しかし美談のほとんどは、当人談の後日談なんだって。  この街で暮らして、この街で生きていく覚悟なんてどこにも

#カワイクイキタイ6「楽園」

「人生最後の日なに食べたい?」 「なんだろ。ラーメンかな。」 「ラーメンなんだ。」 「明日も元気に生きてるだろうって過信してる奴用の、健康なんか知ったこっちゃねえっていう無責任なラーメンが食べたい。」 「なにそれ。」 「にんにく死ぬほど入れて。」 「うん。」 「テーブルにある薬味全部乗せられるだけ乗せて。」 「うんうん。」 「食べたあと地獄みたいに口が臭くても最後なら問題ないし。」 「たしかに。」 「そっちは?」 「聞いてたらラーメンでもいいなって気がしてきた。」 「それは悪

#カワイクイキタイ5「こわい」

 自分が変わってゆくこと。見た目が、考え方が、いいと思うことが、作りたいものが、だいじなものが、どんどん変わってゆくこと。もともとを忘れたこと。変わりたいと思っても、いつまでも変われないこと。ご飯を盛り盛り食べて、ぐっすり眠って、遊ぶのがなぜか後ろめたいこと。  全然セリフを覚えていないのに本番を迎える夢を見ること。いつかそんな夢を見なくなってしまうこと。  なにを見ても、なにを聞いても、なにも感じなくなってしまうこと。もう今後一切、なんにも思いつかなくなって、やりたいこ