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#カワイクイキタイ

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役者×カメラマンの フォトエッセイ『#カワイクイキタイ』 日常、ときどき、ヘンテコ🦄 どんな時も人生はカワイイ❤️‍🩹
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2023年3月の記事一覧

#カワイクイキタイ9「F」

 ずっと誰かになりたかった。  私には、できないことばかりがある。なにをやっても上手にできない。自分のいいところを聞かれても答えられない。美しい容姿も優れた知能も、惚れ惚れするような才能も、なにもない。やりたいこととできることにいつも差があった。書きたいことを書きたいように、描きたい絵を描きたいように、やりたいことをやりたいように、できたためしがない。私はこのままでいいって、思ったことがない。  なのに欲しいものばかりがある。  誰かや何かに、なりたかった。ずっと。

#カワイクイキタイ8「どうせなら楽しく傷つけて」

 いつか、とか。だれか、とか。そんなの別に興味ないから。今、あなたがみててよ。  たくさんの顔が無い人、やたらと声が大きい人。あたかも正義であるかのような、あたかも正解であるかのような、優しいふりして近づいてきてブスっと刺すのは卑怯じゃない?信じた私がばかだったなんて悲しいこと言わせないで。信じていたのに。信じていたのに。  悲しみと怒りを、間違えないでいたいのです。悲しみと怒りは、とてもよく似ているので。  なにを選んでも、どこに行っても、愛されもしないし天才になんて

#カワイクイキタイ7「正しい街」

 みんな、他人のことで大忙しだから。  悪いことしよう。伝えたいことなんてもうとうに無い。正しいことばかりだとつまらない。真夜中のジャンクフード。飲み物はもちろんコーラ。昼間から飲むビール。夜の学校に忍び込んで校庭に埋めた箱。開店と同時に銭湯。部屋の中にいる恋人ではない男女。  それは過ちと呼ぶには美しすぎて、過ちと呼ぶことが過ちなのではと錯覚するほどだったそう。しかし美談のほとんどは、当人談の後日談なんだって。  この街で暮らして、この街で生きていく覚悟なんてどこにも

#カワイクイキタイ6「楽園」

「人生最後の日なに食べたい?」 「なんだろ。ラーメンかな。」 「ラーメンなんだ。」 「明日も元気に生きてるだろうって過信してる奴用の、健康なんか知ったこっちゃねえっていう無責任なラーメンが食べたい。」 「なにそれ。」 「にんにく死ぬほど入れて。」 「うん。」 「テーブルにある薬味全部乗せられるだけ乗せて。」 「うんうん。」 「食べたあと地獄みたいに口が臭くても最後なら問題ないし。」 「たしかに。」 「そっちは?」 「聞いてたらラーメンでもいいなって気がしてきた。」 「それは悪

#カワイクイキタイ5「こわい」

 自分が変わってゆくこと。見た目が、考え方が、いいと思うことが、作りたいものが、だいじなものが、どんどん変わってゆくこと。もともとを忘れたこと。変わりたいと思っても、いつまでも変われないこと。ご飯を盛り盛り食べて、ぐっすり眠って、遊ぶのがなぜか後ろめたいこと。  全然セリフを覚えていないのに本番を迎える夢を見ること。いつかそんな夢を見なくなってしまうこと。  なにを見ても、なにを聞いても、なにも感じなくなってしまうこと。もう今後一切、なんにも思いつかなくなって、やりたいこ