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花屋敷


とある街から遠く離れた森の中に、花屋敷と呼ばれる今はもう誰も住んでいない屋敷があった。人里離れた場所にあるため、誰も近づくことはなかったが、そこにはとてもきれいな花が咲いているという噂がある。しかし、誰もその美しい花を見たというものはいなかった。とある町の男が、自分の想い人との結婚式のブーケを作るためにそこの花を摘んでみたいと思った。屋敷の持ち主を尋ね許可を取ろうとしたが屋敷の持ち主は一向に姿を見せなかった。仕方ないので直接花屋敷に向かい、花を摘んでから、後で報告をすることにした。結婚式の日取りは刻一刻と近づいていたのである。

花屋敷に向かい、彼は重たい扉を開いて花屋敷に入った。噂の通り人の気配はない。
「誰か、誰かいませんか?」
そう叫んでみたが本当に誰もいないようだった。人がいないのはためらわれたが、ブーケのための花を探すために彼は屋敷の中に入っていった。ふと、ある部屋が目に留まったので入ってみることにした。


その部屋は真っ白のカスミソウに囲まれた美しい部屋であった。カスミソウの花言葉は「幸福」。結婚式にぴったりだと思った。一面が花でおおわれており、誰も手入れをしていないと思われるのにどの花も活き活きと咲いていた。その部屋の神秘的な印象に、一瞬足を踏み入れるのを躊躇ったが、想い人の喜ぶ顔のために彼はその部屋に入っていった。

突然、後ろにあった扉ががたんと音を立てて閉じる。
驚いて部屋から出ようとするが扉はビクともしなかった。壊そうとしても頑丈な壁のような感触が帰ってくるだけでビクともしない。窓はあるが格子がされており窓に鍵がない。

「そんな、馬鹿な…。誰か、誰かいませんか!!!!」
男は叫び続けた。窓も壊そうとした。しかしビクともしない。しばらくすると、絶望感から身体に力が入らなくなってきていることに気づいた。

「どうしたらいいんだ…。」へたりとそのままそこに座り込んでしまった。
座り込んだ時に異変に気付く。花が、花が勝手に動いている。まるで思考をもったツルのように自分の腕にやさしく絡んできた。どうしてこの屋敷が花屋敷と呼ばれ、どうして誰もいないのに美しい花が咲いているのかを理解してしまった。そしてこれから自らの身に起こる事も。彼はそっと、想い人を想いながら永い眠りについていった。


しばらくすると、彼の胸には一輪のヒマワリが咲いたのだった。ヒマワリの花言葉は「私はあなただけを見つめる」白いカスミソウの中にヒマワリの黄色い花弁が散っていった。

※ピュアニスタで作ったアートを画像として使っています。商用利用NGです。


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