眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #11
「チッ、余計な真似を……!しょうがない、一旦お開きにしますか。」
そう言いながら灰狼は銃を向ける。
その銃口は散葉を狙っておらず――
瞬間、散葉の身体は前方へと跳んでいた。
「なッ……!?」
その動き対して灰狼は目標を変えようとする。
遅い。
幾度となく幻と戦った表情の無い悪夢のそれと比較して、あまりにも。
苦し紛れに放たれた弾丸は散葉の影を打ち抜き、
その銃へ、振り切った散葉の刃は吸い込まれるように向かい、粉砕した。
「こいつッ……!」
悪態を吐いた灰狼は飛び退り、背負っていた大鉈を2本、両手に携え突進してくる。
貧弱だ。
幾度となく幻と戦った不死身の巨体のそれと比較して、あまりにも。
迫る横薙ぎの斬撃――今は本物だ――を身体全体を大きく沈ませ掻い潜り、さらに前へ。
踏み込んだ足を軸に半身になりながら前方へ跳躍、縦へ通るもう一つの斬撃を最小限の力で受け流す。
そのまま相手の背を斬り付け、体勢を崩した灰狼の上へと馬乗りになる。
「……あぁ、キミそんなに動けたんだねぇ……おじさん油断しちゃったな。」
「もう喋らなくて良い、だから――」
「おやすみ。」
その背に、散葉は刃を突き立てた。
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灰狼が気を失い、この世界から離脱したことを確認して、散葉は咲夜の元へと走った。
「間に合いましたね……そろそろ…限界でした……さあ、そのスイッチを……」
目の前にはガラスに囲まれた赤いボタンがある。
「あぁ……だけど、だけど。私を信じてこの世界の命運を託してくれたのは嬉しい。あんたの、咲夜の為にもそうするべきなのは分かる。」
「でも、やっぱりダメなんだ。これ以上大切なものを失うのは。嫌なんだ。これ以上拠り所を失うのは。もう、これ以上は……」
視界が歪んでいく。
「何か、何か方法は無いのか!?咲夜を外の世界へ連れ出す方法は!!」
「それ程までに……大事に想って下さったのですね……
一つ、方法はあります。咲夜の人格データをあなたの『Belief』へと転送することが可能です。しかしこのデータはかなり能力を圧迫します。『Belief』の性能は落ち、これまでの半分以下にもなるでしょう。それでも――」
「それでもやってくれ!!……頼む……」
言葉を遮るように叫ぶ。
「――了解しました。………はい、転送完了しました。出来るだけ影響を与えないように、ゆっくりと解凍するようにしているので、この子が目覚めるのはあなたよりも後でしょうが……散葉さん、咲夜を…よろしく…お願い致します。」
「……あぁ、ありがとう……きみ自身もどうにか外に連れ出せないか方法を探してみる。だから―」
「はい。」
ボタンを覆うガラスを叩き割る。
「おやすみなさい。」「おはようございます。」
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目を開く。眼前には見覚えの無い白い天井。
とても柔らかいベッドの周りにはたくさんの計器が並んでいる。
ゆっくりと持ち上げた腕は、先ほどまで見ていた元々さほど太くないそれよりも、さらに細くなっていた。
なんとか頭の上まで持って行き、ヘッドギアを外す。
いつも赤く点灯していたそれは、少し蒼みがかって紫色に見えた。
それを胸に抱いて。
紅狼散葉は眠った。
眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼#11「眠れる紅狼と眠れる蒼狼」
終
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