動画タイトル

眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #1

VRC環境課 紅狼 散葉 ep.0

          zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz

紅狼散葉は眠れていなかった。


「そろそろ......まともに寝たい......」

最近寝床にしているこのエリアは、何時でも何処でも音に溢れていた。
いや、喧しいのはここを訪れた時からそうだったが、最近は特に顕著だ。

夜は光と音に包まれて、昼は路上ライブで人だかり。

どこから流行りだしたか知らないが、勘弁してほしい。
決して音楽が嫌いという訳ではないし、気が向いたら踊りに行ったりだってしている。

だが、さすがに限度ってものがある。
私は静かじゃないと眠れないのだ。
まともな宿に泊まれば多少は気にならなくなるだろうが、 近くのエリアはこの辺より宿賃が高いし、生憎路銀も底を尽きかけていた。


手に持つ「AT-25X_STUNBLADE」を振り上げる。
たった一日、限定販売されたクリムゾンカラーだ。

「こいつの出費で宿賃すら厳しくなるとはなぁ......」

「へへ......やっぱかぁっこいいなぁあ~~~」

思わず頬ずりしてしまう。
フォルムが良いのはもちろん、意外と軽く取り回しも良い。
メインで使っているSlicerと同じように、二刀流で使いたかったな......

まあ、到底足りない訳だけれど。

「まずは何か仕事して稼がないとな......」

何はともあれまずは寝よう。
何事もしっかり寝てリセットしてから動く。
それが私のモットーなのだから。


眠い目を擦りながら路地裏を歩く。
今日の朝教えてもらった街の端、あまり人が寄り付かないという「静かな 場所」へ向かって。
チンピラの溜まり場とかになってなけりゃあいいけれど。

          zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz


辿り着く頃には、雨が降り出していた。
「おー、これは......」
ほお、と息をつく。

壁に囲まれた小さな公園のようなその場所は、適度に整備されているのか寂れている訳ではなく。
周囲の建物はすでに住人が存在しないのか、明かりは灯っていなかった。

「この街にもこんな場所があったのか...... 最高......!」


早速寝たいところだが、周囲の確認はしっかり っと。
なけなしの荷物まで盗まれちゃたまらない。


一通り見て回り、人の気配が無いことを確認して。
背負っていた荷物を隠し、護身用にスタンブレードは持ったまま。

「問題無し......っと。 よっし寝よう! もう限界............」

屋根の下のベンチに座る。
目を閉じて深呼吸をする。
ゆっくりと、ゆっくりと。


視界の端で 何かが青く光った気がした。


          zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz



「......ーい...... おき......ー......」


誰かが呼んでいる。
だけどそんなことはどうでもいい。
今はこの気持ちの良いふかふかを堪能するんだ......

......ふかふか............?


「おーきーろーーー!!!」


がぶっ!!

「ぎゃあああああ!!!」

尻尾を何かに噛まれ思わず飛び起きる。
跳ねた身体はベッドから外れ、床へ向かって――。

「ぐえっ」

「だっ...だいじょうぶ......?」


「くっそ......なんで尻尾噛んだんだよ......」
「いや......いつまでも起きないからそろそろ起こそうって......」

「もっと他に方法あるだろ......いてて......」

愚痴りながら違和感を覚える。
私は公園のベンチで寝ていたはずだ。
どうしてベッドで寝ていた?
だれが私を起こした?
いったいここは?

顔を上げ 声の主を視界に収める。

青と白の毛並に深い蒼の瞳。
水色の髪が涼しげなその頭に、どこか似つかわしくない無骨なヘッドギア。
腰には二振りの短剣のようなものが見える。
私の色を明るく置き換えたような、そんな雰囲気の子供がそこにいた。


「ねーちゃん本当にだいじょうぶか......?」
「あ あぁ。今打ったお腹と噛まれた尻尾が痛いけどな......」

そんなことを言いながら起き上がると、その子供もばつが悪そうな顔をしながら立ち上がった。


「......悪いがあんたが誰で、ここはどこなのか教えてもらっていいか?」
「えっ? うん、いいよ。」


「僕の名前は蒼狼 咲夜(せいろう さきや)。
 ここは僕の家で、あなたは昨日裏の森で倒れ......眠って?たから、頑張ってここまで引きずって来たんだ。」
「森......?」

近くのベランダから外を見る。
眼下には寝る前までいたはずの街とは全く違う、            自然溢れる地が広がっていた。

「あー...... 夢かな......たぶん」

痛みや匂いを感じたりと妙にリアルだが。
まあ、夢なら夢で精一杯楽しむべきだ。
長編の夢を見る時はぐっすり眠れている証拠だし。
夢から無理に抜け出そうとすると、大抵悪夢になるものだからな。

「......で、ねーちゃんは?どっから来たの?」
「私か、私は紅狼 散葉だ。南の方から来た旅人で、森で一休みしてたんだ。」
旅人であることは嘘ではない。

「あの森の中で!?危ない獣も出るんだから気を付けないと......
 まあ、怪我はなさそうだし良かったよ。簡単にだけど朝ごはん作ったから食べる?」
「ほんと! それじゃあお言葉に甘えて」
「はいはーい。あ、ねーちゃんの剣?みたいなのも下に置いてるからね!」

夢の中にまで付いてきた新品の相棒にちょっとだけ感動し、駆けていく背中を追った。

          zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz


「いやー美味かったー! キミ、料理上手いんだな。」
「そ、そう? 口に合ったならよかったよ、へへへ......」 
「私にもこんな弟がいたらなぁ......そういやこの家、他に誰か住んでない  のか?家族とか。」


「あっ......あー............」

青と白は顔を背ける。
地雷を踏んだ気がする。

「親は......いない。姉がいたんだけど今は一人で住んでる。」
「...そっか............
 あー、キミの付けてるヘッドギアかっこいいよな!!その剣もだけど、 何か特別なアイテムだったりするのか?」


「母さんが残していったんだ...... 旅をしてる時遺跡で手に入れたって言ってた。どういう力があるのか解らないまま、僕に受け継がれて......」
「............」

地雷原でタップダンスしてる気分だ。

「......嫌なこと思い出させちゃって悪かったな。」
「だいじょうぶだいじょうぶ!気にしなくても......」

気丈に振舞う口調とは裏腹に、その表情には陰りが見えた。

夢とはいえ、子供を悲しませたままというのも目覚めが悪い。


「......よし!ここにしばらく泊めてくれ!」
「えっ......?」
「まだこの辺に詳しくないけれど...... 一緒に遊ぼう!」

青と白の顔に 華が咲いた。


          zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz


咲夜に案内してもらいながら、いろんな場所を歩いた。

川で魚を釣ったりなんかもした。
咲夜が足を滑らせて落ちた時は、ちょっと肝を冷やしたが。

武器の扱い方も教えた。
この子は筋が良い。優秀な二刀流使いになるだろう。

一通りの素材があったので、弓を作ってプレゼントした。
遠近両方こなせた方が生きやすいから。
咲夜は喜んでくれたようだった。

画像1


          zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz


焚火を見ながら考える。
すでに感覚では一週間が経過している。

やっぱり何かおかしい。
夢にしてはさすがにリアルすぎる。

食事をすれば満腹感も味覚もある。
動植物達は生き生きと息づいている。
遊べば疲れて眠くなるし、寝て起きればすっきりする。
夢の中で眠れば、大抵夢から醒めるんだが......

何より、咲夜が夢の存在だとは思えなかった。
いや、思いたくなかった。


そういえばこの一週間、この子供――咲夜が眠っているところを見たことが無い。


「ああ、僕はあまり眠れない体質みたいで......。だいたい2週間ぐらいは起きっぱなしなんだ。
 たぶん今日か明日あたり、そろそろ眠くなる時期なんだけどね。」
「そっか...... それはちょっと......いや、かなりつらいな。」
「寝ること自体は好きなんだけど、どうにもならないんだよね......」


睡眠はヒトが生きるために必要なリセットボタンだ。
眠って考えをリセットすることで心の平穏を保つことが出来る。
それは辛い過去を乗り越えるためにも重要だ。
この子が時々悲しい顔をしているのも、眠れないことが影響しているんじゃないだろうか......
私の探す「最高の寝床」、見つけられたらこの子にも......



「ま、寝る時にはあったかいものでも飲むのが一番だ。準備してくるから 待っててくれ。」
「うん!ありがとう......」
今私に出来るのは、より良い眠りの準備をしてあげることぐらいだ。
咲夜を残し焚き木と水を探しに歩く。


          zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz


散葉に作ってもらった弓を弄りながら、咲夜は独り言ちる。

「あのねーちゃん、最初はちょっと怖そうだったけど、良いヒトそうで  良かった......。」
彼女が来てからの生活は、一人だったこれまでよりも楽しい。

「これからも一緒に暮らせたら......。」

口元が緩む。


焚火を眺める青と白。
その背を見る紅い瞳があった。
その視線は 咲夜が付けているヘッドギアへと注がれていた。



眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #1 「眠れぬ者」

後編


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?