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[ネタバレ]千歳くんはラムネ瓶のなか 一巻 感想

小学館ガガガ文庫より刊行中の「千歳くんはラムネ瓶のなか」一巻の感想です。ネタバレのオンパレードですので、本編未読の方はスルー推奨。

読後感じた気持ちとか、魂の叫び的な感想がメインです。細々した考察やら、未読者向けの販促レビューなんかは機会があれば別ノートにまとめます。

総評

これは間違いなく「王道青春ラブコメ」だ。

普通の高校生に始まり、非リアが台頭し今に至るラブコメ界において、敵側の立場であることの多かったリア充を主人公に据えたという意欲作。
……とか謳ってるくせに、やっていることは昨今のラブコメの中じゃ逆に珍しい真っ当な王道青春ラブコメでした。

つまり、「女の子かわいい」、「主人公かっこいい」、「展開が熱い」という往年の名作エロゲを彷彿とさせる作品です。
黄金期の、俺たちのエロゲが帰ってきた……!

もちろん、時代の歩みをしっかりと踏襲しており、単に過去の焼き直しに留まるものではありません。

「古いのに新しい、邪道なのに王道」という相反する要素を見事にまとめ上げ、ラノベという媒体に乗せて出し切った。そんな近年稀に見るハイクオリティな神作品でした(いろんな意味で)

良くも悪くも、一巻は助走のための話であるように感じたので、今後の展開次第ではマジで新時代の青春ラブコメになるんじゃないかと思います。

ストーリーについて

主人公が引きこもりのオタクに対しリア充指南をして、引きこもりの原因を打破するという流れ。

アウトラインだけ取ってくると同レーベルの「弱キャラ友崎くん」の二番煎じのように思えますが、この話の本筋はそこにはないと思います。

恐らくこの一巻では、リア充成り上がりという既存文脈を使って、リア充主人公とは何か、リア充ラブコメとは何かを読者に分からせることを主眼においたのでしょう。

そもそも、引きこもりのオタクを男にした時点で、非リア成り上がりパートが本筋じゃないということが読み取れます。だって男の攻略が話のメインとか、男同士のラブコメ(意味深)になっちゃうもんね。

そういう観点で見れば、冒頭から実によく考えられたストーリー展開です。

試し読み部分までの、読者に喧嘩を売ってるとしか思えない過剰なまでのヤリチンクソ野郎描写と、そこから徐々に、健太を通して強制的に理解させられるかっちょいい主人公像

そしてラストの神降臨シーンで、健太もろとも読者完落ち。気づけば、最初の頃感じていたはずのリア充(というか千歳朔)に対する偏見がなくなっていた……という流れです。

この状態でプロローグを読み直してみると、最初感じていたはずの「なんだこのクソチャラ男」という印象が180度ひっくり返って「神ってやっぱ神」となっているはず。つくづく素晴らしい構成だと思います。私、攻略されちゃったのね……くやしいでも(略。

主人公について

千歳朔は神。異論は認めぬ。

冒頭からハイパーリア充っぷりを発揮し、全読者に向け盛大に喧嘩を売ったヤリチンクソ野郎は、気づけば神として崇拝すべき存在になっていました

もう生き様がとにかくかっこいい。「自分が自分を誇れればそれでいい」というのはまさに至言で、他人の目だの人の評価だのに一喜一憂して消耗することのアホらしさを一言で表現しています。

でもこれって別に「他人なんてどうでもいい(ないがしろにしていい)」って言ってるわけじゃないんですよね。自己中心的であれ、って話じゃなく、ただ「胸を張って自分の人生生きようよ」って話。

だから、朔は作中で、非リアとかオタクであることを悪だとは一言も言ってない。自分自身、それがいいと思うのなら、それを胸張って誇ればいいと、ただそれだけ。かっこよすぎやろが、そりゃモテるわ。でももげろ。

何かと自分を殺すことが美徳とされる社会ですが、自分もこんなかっこいい男になりたいと、そう思わせてくれる最高の俺つえええ主人公でした。

なお、中盤の使用の息子から声を出せ」のおっぱい祭りで腹筋を、終盤の「あんたの背中を守りに来たぜ」の神降臨で涙腺を殺されました。同じキャラのセリフとは思えない落差だ、いいぞもっとやれ。

ヒロインについて

全員クッソきゃわわ。以上。

なんでしょうね、ここまで戦力の拮抗したマルチヒロインって他作品ではあまり見ないと思います。

無論、個々人の好みで推しが変わるっていうのはありますが、誰が勝ってもおかしくない絶妙な強弱関係にあるといいますか……っていうか登場人物が全員強すぎ

キャラの属性だけで見ればよくある造形なんですが、それだけじゃない魅力があるんですよね。以下、それぞれの大雑把な所感。

夕湖:正面突破型の正妻。本能的に急所だけ抉りに来る。かーしこまりーとかなんだそれ、かわいいか。
優空:地味かわいいめかけ。普通のラブコメヒロインっぽくて超安心する。きゅいってなんだそれ、かわいいか。
陽:レベルを上げて物理で殴ればいい系元気少女。ちっちゃいのにくっそイケメン。オギャりたいぞ、かわいいか。
悠月:技巧派の愛人。読心術の使い手で、行間で会話できちゃうもう一人の完璧超人。尽くしてほしいぞ、かわいいか。
明日風:オンリーワンポジのあこがれのひと。不思議系に見えて俗っぽいとかいう奇跡バランス。僕も君って呼んでください、かわいいか
健太:一巻メインヒロイン。二週目以降、神に敬語使ってない健太みると「お前これからメス堕ちするんやで」って言いたくなるよね、かわいいか

うーんやっぱり甲乙つけがたい。全員笑って幸せになってほしいし、全員不幸のどん底で泣き喚いて欲しい(泣きゲー全盛期勢並感)

基本的にどの子も朔にとってのオンリーワン足りうる素養を持っていて、それぞれが自分の強みを120%使って全力で落としにくる構図がほんとすこ。

というか皆さん、誰か一人が好感度上げたら「*」挟んですぐに潰しにかかるのやめてくれませんか? いいぞもっとやれ。

男キャラについて

全員しっかり役どころを持っていて、話を引き締めてくれています。
男キャラが数合わせのモブじゃない作品は神作品。

海人:愛すべき馬鹿。直情型の熱血バカは見てて好ましい。これからもボケ要因ところによりガチカッコイイ枠としてがんばってくれ
和希:腹黒イケメン。ドS。でも意外とスポーツ少年っていうのはなんか新しい。でもやっぱドS。朔とのカップリングが捗りそう。
蔵セン:くそかっこいいダメオヤジ。厨二エロゲだとしたら絶対強いやつ。朔とのカップリングが(略

友人二人は今後ヒロインとのラブコメに参加するのかどうかでまた変わりそう。海人とか、ヒロイン巡って河原で殴り合いとかしてくれたらほんと愉悦

ヒロインズが強すぎるので相対的に弱く見えますが、ラブコメ作品だしそこは許容範囲かと。

今後の展望について

ストーリーのところでも軽く触れましたが、一巻はヒロインではなく健太=読者を攻略することを主眼にした話だったと思います。なのでラブコメ成分が弱いのは仕方のない面もあったのかと。

つまり、今回のはあくまで前提条件を作る(=千歳朔という主人公を読者に受け入れさせるため)プレストーリーであり、本物のリア充青春ラブコメが始まるのはこれからなんでしょう。これはまだ裕夢先生のメラだということです。

だからこそ作中で何度も「これは脇谷九曜の話じゃなくて、千歳朔によるリア充ハーレム物語だ」みたいな描写がされているわけです。

二巻では、いよいよ千歳朔という最強主人公が最強ヒロインズを落としにかかる、まさに神々の戦いを繰り広げるものだと予想します。

はたしてどんな話になるのか、今から楽しみで仕方がありません。
本気どころかただのメラで新人賞を受賞した裕夢先生ならきっと予想以上のものを出してきてくれると確信の上、続刊を待ちたいと思います。

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