成人
「おとうさん、元気出せよ!」
六歳の息子にこう言われた。
朝出かける前の玄関での一コマだった。
翌朝意気揚々と小学校へ向かおうとする息子を呼び止めて抱きしめた。
(知らないあいだにけっこう太っていたんだな・・・こいつは)
少し太った柔らかい息子の身体を抱っこしてそう思った。
次に抱きしめた時
息子は痩せて冷たくなっていた。
28日間も意識不明でベッドで過ごしていたからだ。
出棺の前日冷たい身体に寄り添いながら
息子のあの言葉と抱きしめた時の柔らかい感触を思い出していた。
交通事故だった。
テレビのニュースでは毎日いろんな出来事が起きている。
ほぼ自分に関係ないこと、自分の身には降りかかってこないこと、そう思っていた。
でもそうではなかった。
その時から何年もランドセルを見るだけで涙が出た。
今だに悲惨なドラマは最後まで見れない時がある。
あの時こうしていれば、いやもっとああしておけば・・・・
後の祭りとはまさにこのことだ。
けっきょく過去は替えようがない。
それよりもあの言葉だ。
「おとうさん、元気出せよ!」
いつもこの言葉に支えられてきた気がする。
そろそろ20回目の命日だ。
おれは息子を失った父親として二十歳を迎える。
成人を迎えるおれから少しくたびれたおとうさんたちにメッセージを送ろう。
「おとうさん、元気出せよ!」
耳をすませばきっとあなたにも聞こえるはずだ。
大切な家族の存在自体があなたに確かなエールを贈っている・・・・
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