データセンターの(永遠の)課題

Chiptipが目指しているのは「より速く・安く・環境に優しくデータセンターを利用できるようにすること」です。これはChiptipだけが目指していることではなく、データセンターに関わる仕事をしている人すべてに共通する目標で、データセンターがある限りこの目標を追い続けることになります。この目標を追うにあたってChiptipのアプローチがどのようにユニークなのかは次回以降の記事に書くとして、この記事ではなぜそもそもこの課題が重要なのかを説明します。

普段生活している中でデータセンターを目にすることはあまりありません。そのためデータセンターの姿を具体的に思い浮かべられない人も少なくないでしょう。データセンターの見た目は、港沿いにあるような巨大で窓の少ない物流倉庫のような見た目をしており、その中にはラックに収められた大量のコンピュータが、スーパーマーケットのように通路を挟んでびっしりと並べられています。データセンターの規模にもよりますが、中にあるコンピュータの数は数千から数万にもなります。それらのコンピュータが、世界中のユーザからリクエストされた処理を絶えず実行しているのです。

コンピュータは処理を実行するためにエネルギーを使います。例えばコンピュータの一種であるスマートフォンを思い浮かべてみてください。多くの人がゲームをしたり動画を視聴する際に、スマートフォンが熱くなるのを経験したことがあると思います。これはゲームなどの処理に使われたエネルギーが(処理結果とともに)熱に変換されているからです。スマートフォンの消費電力はせいぜい数ワット程度ですが、データセンターで使われているようなコンピュータの消費電力は一台あたり数百ワットにもなり、発生する熱もそのぶん大きくなります。一般的な家庭にこのようなコンピュータを何台か置いたらブレーカーが落ちてしまうでしょう。家庭用電子レンジの消費電力が500ワットくらい、エアコンが800ワットくらいですから、これがいくつかあればブレーカーが落ちそうというのも想像に難くないと思います。(筆者は電子レンジ、エアコン、電気湯沸かし器を同時に動かしてブレーカーを何度も落とした新社会人時代を思い出します。)

このようなコンピュータが数千台、数万台もあるデータセンターでは一体どれくらいの電力が使われているのでしょうか?よく言われるのは「データセンター1つにつき火力発電所1基分」です。データセンターの規模や火力発電所の規模にもよるので正確な比較ではありませんが、規模感としてはこのような理解で概ね間違いありません。そして日本国内にはデータセンターが、大規模なものが数百、中規模なものが数千、小規模なものが数万もあるのです。

ここまで読んでいただければ、環境面から見ても経済面から見ても、データセンターの電力効率向上が現代社会にとってどれほど重要な課題なのかを実感として捉えていただけると思います。データセンター設計者は、コンピュータから発生する膨大な熱を、より効率よく建屋から排出するために工夫を重ね、冷房にかかる電力を削減します。コンピュータハードウェアの開発者は、より少ない消費電力でそれまでと同等以上の計算ができるコンピューティングデバイスや、コンピュータシステムの開発を日々続けています。他にも多くの人々がデータセンターの消費電力を減らそうと日々努力しています。

このような努力は各種サービスの向上・低価格化という形でも一般消費者に恩恵を与えます。SNSや電子メールサービスなどのWebサービスは、大抵データセンターを利用して運用されています。データセンターの消費電力が下がるとデータセンター事業者が負担する電気代が減り、データセンター利用料も下がります。すると、データセンターを利用しているWebサービスも利用料を下げたり、利用料を下げない代わりに新たな付加価値を提供することが可能になります。最近ではDXという言葉がよく聞かれるようになったように、これまでITシステム活用に消極的だった企業などでも、データセンターを利用したITシステムを構築する動きが活発になってきています。このようなシステムの基盤になるデータセンターの消費電力を下げることは、Webサービスに限らず、あらゆるサービスの低価格化・高付加価値化につながっていくのです。

ここで念の為一つ指摘しておきたいのは、コンピュータの数を減らしさえすれば消費電力は減らすことは簡単です。これは当然のことです。しかし世の中で生み出されるデータは凄まじい勢いで増加を続けています。そんな中で、データを保存・処理・分析するための基盤であるデータセンターには「コンピュータの数を減らす」(より正確には「計算能力を減らす」)という選択肢は事実上ありません。データセンターは計算能力を日々増強しながら、可能な限り消費電力を減らしていく必要があるのです。

次回の記事では、Chiptipがこのような課題に対してどのようなユニークなアプローチを取ろうとしているのかを紹介します。

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