三題噺「芋蔓」

今回のお題は「生活習慣」「配布」「SOS」

日々毎日同じことの繰り返し、そう思うと何か変化を加えようと外食してみたり、寄せに足を運んだりといろいろ工夫を凝らすのですが、結局自分の好きなものを選んでいるわけで、なんだかんだ同じことの繰り返しになってしまうわけでして。

通勤するときの駅前では相も変わらずティシュ配りのお姉さんが学生相手に塾の宣伝をしている光景が見られます。

実際のところ塾にお金を払うのは親の方なので、アプローチの仕方が違うのではないかと苦言を呈したくなるのですが、いや待てよと考えてみる。

それをなんのけなく受け取った学生さんが、家に帰ってテーブルの上にティッシュを置く。それを見た親はちょうど子供を塾に通わせたかったが、話を切り出すタイミングを見計らっていた。

ともなればティッシュ一つで話のきっかけになるわけだ。これはすごいぞとティッシュ配りのお姉さんに拍手喝采を贈りたくなる。

しかしそんな回りくどい方法があるだろうか。

ティッシュのゴールは親の目につくことなのだろうが、目の付き方を間違えるととんでもないことになる。

ポケットティッシュというだけあってポケットに入れるティッシュなのだが、これがポケットに入ったまま洗濯機に入れられたときにはもう……


「ここは一つ、私を助けると思って買ってもらえませんか」

「ちょうど欲しかったから構いやしねぇが、なんだってそんなに仕入れちまったかね」

「これは息子の手違いってやつでして」

「おまえさんの息子はようやっと働くようになったか」

「やっとこさ働くようになったら、張り切って用意しちまったものでして」

「出鼻を挫きたくないってわけかい」

「そうなんです」

「しかしまぁよくもこんなに用意できたもんだ。干し芋にでもすればいいじゃないか」

「そうしたいのはやまやまなんですが、我が家はそこまで手広くないもので」

「そうだわな。干すにしたって盗まれないように気をつけないといけないな」

「盗むだなんて物騒な」

「そこでどうだい。下手に盗まれるくらいなら、一つ買ったら一つ差し上げるなんてのは」

「それはあんまりですよ」

「仮にも商売人なら失敗を利用するくらいじゃなきゃいけないな」

「といいますと」

「どうせ捌ききれないことがわかっているんだ。だったら今回は負けを認めてお得意様を増やすなんてのはどうだ」

「そう、ですね」

「そうだろう、そうこなくちゃな」

「はい、毎度どうも」


「なんだかうまいこと出し抜かれたなぁ」

「なぁ、親父どうだよ、芋は売れてるかい」

「あぁ、売れてるよ」

「そりゃよかった。芋売る商売ってのはいいもんだな」


「いや、参ったね、息子は張り切っちゃってるよ。一本につき一本じゃ割に合わないからなぁ、買った本数の半分にしよう」

「おぉい、芋売ってるのかい、買わせておくれよ」

「いや、お松さん毎度どうも」

「いやね、聞いたよ、なんでもたくさん仕入れすぎたって」

「もう聞き及んでいますか」

「それで、ご贔屓したらいくらかくれるって」

「いや、まいった、もうそこまで聞こえてますか」

「女の耳に入ったら町内に広まっているも当然だよ」

「恐れ入ります。それでいくつお買い求めで」

「三本もらえるかしら」

「えぇと、そしたら三本の半分ですから」

「どうしたのさ」

「いえ、買ってもらった半分を」

「まさかその芋を半分に切るなんてケチなことは言わないだろう」

「えぇ、まぁ」

「そしたら二本もらえるかしら」

「えぇえぇ、どうぞどうぞ」

「どうもありがとうね」


「いや、まいったな、こううまいことやられちゃ商売にならないね」

「おーい、話には聞いたよ、芋買うよ」

「いやまいった」

「なんで逃げるんだい。こっちは芋買いたいんだが」

「はい、まいど、何本買います」

「五本もらえるかい」

「そこを六本にしませんか」

「いやぁ、商売上手だね。じゃあ四本貰おうか」

「えぇと、どうして減るんです」

「半分タダで貰えるんだろう。六本欲しけりゃ四本買えばいい」

「いや、毎度どうも。……これはもうダメだ。今日は儲けあっても損するばかりだ。……帰ったよ」

「なんだい親父、もう帰ってきたのかい。まだ芋残ってるじゃないか。それに聞いたぞ。買った本数の半分上げてるそうじゃないか」

「そうか、お前の耳にも聞こえていたかい。今まで遊んでばかりだったお前が、これほどまで仕事に精を出してくれたのはとても嬉しいんだが、こればっかりは仕入れすぎだ。売り切るにも」

「なんだい、そうだったのか、それは迷惑かけちまった。いままで親父の言うこと聞かなかった俺にバチがあたったんだ。そしたら、うまいこと考えよう」

「考えようったって」

「そしたら薪屋の久蔵さんのところに行って芋と薪を取り替えて貰おう」

「それでどうするのさ」

「焼き芋にするんだ。焼き芋買いに来た客にさらに芋を売る」

「なるほど考えたもんだ」


そうして久蔵さんのところから芋と薪を取り替えてもらうなり、焼き芋の段取りを始める。売り声よりも先に煙と匂いですぐに町内の人達が集まって焼き芋を買っていく。

「焼き芋の場合はおまけはなしだよ。薪代かかってるからね」

「おまえさんの息子はよく考えたもんだ。跡継ぎの心配はないわな」

「えぇ、えぇ、ほんとにありがたいことで」


「おおい、芋買いたいんだが」

「はぁい、いくつ買います」

「一本はいらないんだ。半分欲しいんだが」

「半分は困りますよ」

「じゃあ、七割五分」

「えぇと、それだと、一本とほんの少し」

「なら、焼き芋一口おくれ」

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