見出し画像

短編『何も気にならなくなる薬』その143

「プリースト」

「負け犬」

「波浪警報」

ハロー警報?そんなことを言っている人は呑気なものだ。

プリースト、rpgならば回復役だろうか。
現実世界では司祭。冠婚葬祭を取り仕切ったりする。
懺悔室で話を聞くのも役割としてある。


---
「私には懺悔をしたいことがあります」
「どうぞ、ここはそのための場所です」
「私は、私は多くの命を奪ってしまいました。もっと私が早く判断ができていれば、多くの命を救えたかもしれません。う、ぐっ、ぐす」
「ゆっくりで構いません。話したくなったときに話してください」
「私、私は、注意報や波浪警報、いわゆる沿岸部の安全を扱う役人でした。しかし、私はその日、遠方の出張のために職場に入るのが遅れました。これが私の罪です。もっと急ぐ事もできた。連日の出張を言い訳に寄り道をした。どうせ交通網が遅れているのだ。自分は悪くないと、しかし、もし私が勤勉で怠惰を抱かなければ、私は陣頭指揮をとって、人々に避難を呼びかけることができた。私が職場に着いたときには、もうそこには何もなかった」
「あなたの代わりを務めていた人もいたのでは?」
「えぇ、私は彼に多くのことを教えたつもりでした。けれども彼には経験がなかった。知識だけでは最終的な判断を見誤ったのだと、また私は誤報は信用を損なうと彼に言ってしまいました。もしかしたら、その葛藤によって、彼はその判断を遅れてしまったのかもしれない。全ては私のせいなんです」
「失った命は帰っては来ません。しかし、あなたのような優しい人は人の死を受け止めることができる。けれども、その感情に傾倒しすぎると、あなたもあちら側に誘われてしまいます。今ある命を、これから生まれてくる命のためにあなたの優しさを分け与えてください」
「あぁ、ありがとうございます」
それから彼は何度も協会に訪れた。ある時、彼の手にはリードがあり、そしてそのリードの先には小さな犬の姿があった。
「そちらは」
「彼ですか、彼はあの言葉に救われてから路上で出会ったのです。いわゆる捨て犬です。誰かが拾うだろう。そうも考えました。けれども私はもう命を見殺しにすることはしたくない。負け犬の遠吠えかもしれません。偽善かもしれません。それでも、私は命を救える人間なのだと信じたいのです」
今に彼は主人の言葉など知らず、ただ散歩に走り出したいと言わんばかりに息を吐き続けていた。



美味しいご飯を食べます。