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古今集巻第十六 哀傷歌 853番

藤原のとしもとの朝臣の右近中将にてすみけるざうしの、身まかりてのち、人もすまずなりにけるに、秋の夜ふけて、ものよりまうできけるついでに見いれければ、もとありしせんざいも、いとしげくあれたりけるをみて、はやくそこに侍りければ、昔を思ひやりてよみける

みはるのありすけ

きみがうゑし一むらすすき虫のねのしげき野べともなりにけるかな

藤原利基朝臣が右近の中将として住んでいた曹司は、亡くなった後、誰も住まなくなっていたところ、秋の夜更けて、用事から帰って来るついでに立ち寄って入って見ると、もとあった庭の前栽も、とても草木が茂って荒れているのを見て、以前はそこに仕えていたので、昔を思い出して詠んだ歌
御春有輔
君が植えた一群の薄は、虫の音が盛んな野辺となったようだ

「一群薄(ひとむらすすき)」と言う言葉があるわけではありませんが間に「一群の薄」と言わずに「一群薄虫の音の」として歌の調子をうまく整えています。

曹司(ぞうし)は、役宅のこと。
右近中将(うこんのちゅうじょう)は、右近衛府(うこんえふ、みぎのこのえのつかさ、みぎのちかきまもりのつかさ)の次官。天皇の身辺警護をする役職。
御春有輔は、右近衛の役人だったのだと思いますが詳しいことはわかりません。
藤原利基は宇多天皇の御世に、右近衛中将をしていて亡くなっています。父は藤原良門、祖父が藤原冬嗣です。利基の息子に雅正、その息子に為時、その娘が紫式部です。

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