見出し画像

《今さら聞けない》衆議院議員総選挙のしくみ【1】小選挙区比例代表並立制

1.小選挙区比例代表並立制とは?

現在の衆議院議員総選挙の仕組みを「小選挙区比例代表並立制」といいます。これは「小選挙区選挙」「比例代表選挙という性格の違う2つの選挙制度を組み合わせたものです。

現在の衆議院議員の定数は465人ですが、そのうち「小選挙区選挙」によって289人を選出し、残る176人「比例代表選挙」によって選出する。この2つの選挙を同時に、つまり同じ投票日に並立して行うため、「小選挙区比例代表並立制」と呼ぶわけです。有権者は投票所では2枚の投票用紙を受け取り、小選挙区と比例代表に1票ずつ合計2票を投じることになります。

画像4

ちなみに、なぜ衆議院議員「総選挙」と呼ぶのかというと、参議院の場合は「半数改選」といって、3年ごとに議員の半数が改選されるのに対して、衆議院の場合は議員の全員を一気に選び直すからです。

2.小選挙区選挙とは?

まず、「小選挙区選挙」についてですが、これは全国を289の選挙区に分けて、各選挙区で最も多くの票を得た1人だけが当選する仕組みです。小選挙区選挙は候補者個人に投票するため、有権者が投票する際には、投票用紙に候補者の氏名を書きます。いわば「個人戦」といえるでしょう。

なお、小選挙区の区割りは都道府県の人口に応じて行われ、最も多い東京都には25の選挙区があります。

画像3

以下は東京都の選挙区の区割りですが、選挙区の境界線は必ずしも市区町村の境界線と一致しないため、同じ自治体の住民同士でも選挙区が違う場合もあります。例えば同じ台東区でも、2区に割り振られている地域と14区に割り振られている地域があります。

画像3

3.比例代表選挙とは?

次に、「比例代表選挙」についてですが、これは全国を11のブロックに分けて行われ、各ブロックごとの人口に基づいて定数が割り振られています。「比例代表選挙」は政党に投票するため、有権者が投票する際には、投票用紙に政党名を書きます。そして、それぞれのブロックで各党の得票数に比例して議席が配分される仕組みです。こちらはいわば「団体戦」といえるでしょう。

画像5

今述べたように、「比例代表選挙」は各党の得票数に比例して議席が配分されます。では、どのような計算方法で議席を配分するのかというと、各政党の総得票数をそれぞれ1,2,3,4・・・と自然数で割っていき、得られた商(得票数)の大きい順に各ブロックの定数に達するまで議席を割り振るのです。これをドント方式と呼びます。この説明だけだとイメージしづらいと思うので、東京ブロックを例に表を作ってまとめてみました。

今回(2021年10月31日)の選挙では、比例代表の定数が17の東京ブロックでは、自民党が議席、公明党が議席、立憲民主党が議席、日本維新の会が議席、日本共産党が議席、れいわ新選組が議席を獲得しましたが、それは以下のようにドント方式で計算して議席が配分されたわけです。(【 】の中の数字は商の大きい順を示したものです。)このドント方式は多くの得票数が見込める大政党に有利といわれています。

画像7

こうして各政党の議席の数が決まったら、今度は各政党から当選人を決定するわけですが、あらかじめ各政党がブロックごとに候補者の名前に順位をつけた名簿を作って公示日に中央選挙管理会に届け出ており、この名簿順位の高い候補者から当選が決まります。これを「拘束名簿式」といいます。

名簿登載の順位は政党の幹部が総合的に判断して決めます。判断材料は、どれくらい党のために貢献したか、まじめに党の会合に出席していたか、党員集めに積極的だったか、などが考えられますが、そのほか「選挙の顔」になるような有力候補や人気候補だと上位になる傾向があります。政党間の選挙協力の関係で小選挙区に出られなかった候補を、比例代表で上位に置くこともあります。以上が比例代表の当選者の決め方です。要は順位の付け方に決まりはなく、政党の判断に委ねられているということです。

4.重複立候補

なお、衆院選の候補者は、小選挙区と比例代表の両方に立候補することができます。これを重複立候補といいます(参院選では重複立候補はできません)。もちろん重複立候補しても、小選挙区で当選を決めれば、比例代表の名簿からはずれます。しかし、小選挙区で落選してしまった場合、その党がたくさんの票を得ていれば、重複立候補者は比例代表で復活して当選する可能性があります。これを「比例復活」といいます。ただし、重複立候補できるのは政党に所属して党の公認を受けている人だけです。

今回の選挙では安倍晋三氏、麻生太郎氏とともに「3A」と称される自民党の重鎮の一人でありながら小選挙区(神奈川13区)で落選した甘利明幹事長でしたが、比例南関東ブロックで復活当選しました。

画像6

しかし、重複立候補した候補者が、もしも「自分は比例代表の名簿上位だから、小選挙区で負けても比例代表で復活当選できる可能性が高い」と考えて選挙活動をあまり熱心に行わなければ、政党の政策を宣伝することができないので票も伸びなくなってしまい、政党としては困ります。そこで、重複立候補する人については、全候補者を1位にするなどして「当選する順番」を同じにすることがよくあります。あるいは、その党が絶対に当選させたい候補を1位にして、あとは全員同じ順位にしたりする場合もあります。名簿順位が同じなら「惜敗率」で当選が決まることになるからです。「惜敗率」とは小選挙区で当選した候補にどのくらい惜しい負け方をしたかを比率で表したものです。

当選順位を同じにしておけば、小選挙区で負けたとしても「負け方」(惜敗率)が大事になるため、重複立候補者は小選挙区で得票率を伸ばすために最後までかんばって選挙活動をします。政党にとっては、ある意味で良い制度といえます。

なお、惜敗率は「小選挙区で落選した候補の得票数÷当選者の得票数」で計算します。

再び今回の選挙を例に取って説明します。自民党の甘利明幹事長が比例復活した南関東ブロック自民党の候補者名簿を見てみましょう。

南関東ブロック 比例代表

このように、名簿順位が1位の候補者が10名並んでいます。本当はこの南関東ブロックには自民党の重複立候補者が29名いるのですが、この10名を除く菅義偉前総理を含めた19名は小選挙区選挙で当選したため、その段階で比例代表の名簿登載から外れました。だから、この名簿に1位の順位がついたまま残っている候補者は小選挙区で敗れた候補者ということです。

甘利明氏の惜敗率95.7%です。神奈川13区で当選した立憲民主党の太栄志氏が130,124票(51.1%)を獲得し、甘利明氏は124,595票(48.9%)でわずかに及びませんでした。

神奈川13区

惜敗率は「124,595÷130,124」で95.7%。これは神奈川12区から小選挙区で立候補して落選した星野剛士氏の95.9%に次ぐ数字です。自民党が南関東ブロックの比例代表選挙で獲得した議席数は議席ですので、重複立候補していた甘利氏は無事に比例復活を遂げたわけです。

5.重複立候補のメリット・デメリット

たしかに政党にとっては小選挙区で最後まで候補者に選挙活動を頑張らせることができるということメリットがあります。だから、大半の政党が候補者を重複立候補させているのが実態です。また、比例復活という望みがなければ、もし小選挙区に有力な候補がいた場合、勝てる見込みがないと判断して、その小選挙区から立候補することを諦めてしまう可能性があります。そうすると一強選挙となって選挙そのものが形骸化してしまうことになります。そうしたことを防ぐという意味では、このような敗者復活制度があったほうが良いという意見もあります。

一方で、問題点も指摘されています。小選挙区で落選したということは、有権者によって「あなたには国政を任せられない」と判断されたということです。それなのに比例代表選挙で復活当選してしまうのは「有権者の民意を無視している」という批判です。こちらももっともな意見です。

また、比例復活の制度があることで、1つの選挙区から複数の国会議員が出てしまうという事態が起きます。先ほどの神奈川13区を例に挙げると、立憲民主党から太栄志氏が、自民党から甘利明氏が立候補し、2人の候補者で小選挙区選挙を争い、太栄氏が当選しました。しかし、甘利氏が比例復活したことで、結果として2人とも国会議員になったわけです。こうなると小選挙区選挙の意味がなくなってしまいます。それに、同じ選挙区から2人も3人も国会議員が誕生してしまうと、有権者にとっては誰が小選挙区で当選した人なのかが分かりづらくなってしまいます。これは問題です。

以上が重複立候補のメリット・デメリットです。

https://www.niigata-nippo.co.jp/news/politics/20211101650891.html


6.自民党独自の「73歳定年制」

なお、自民党「73歳定年制」という党独自の内規を設けて、衆議院議員選挙において比例代表候補に名簿登載する年齢の上限73歳と決めています。つまり、73歳を超えると小選挙区と比例区での重複立候補は認められないということです。2003年に小泉純一郎元総理が導入しました。ただし、これはあくまで「基本原則」であり、野党の対抗馬が強い選挙区の候補者の場合には例外的に考慮することを、今回の衆院選の公示日に先立って甘利幹事長が発表し、実際に77歳の奥野信亮氏が近畿ブロック、74歳の今村雅弘氏が九州ブロックのそれぞれ1位で処遇されました。


いかがでしたか? もしこの記事がおもしろかった、わかりやすかったと思ってくださった場合には、スキをポチっとしていただければ幸いです。頑張ってシリーズ化していこうと思いますのでよろしくお願いします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?