エジプト神話集成

語る死者、エジプト版「かちかち山」、そしてmetoo悪用 杉勇+屋形禎亮訳『エジプト神話集成』

杉勇+屋形禎亮(ていすけ)訳『エジプト神話集成』ちくま学芸文庫、2016は《筑摩世界文学大系》第1巻『古代オリエント集』「エジプト」の部の文庫化。

うち3篇を紹介しよう。

語り手は死者だった 「シヌヘの物語」

紀元前1875年ごろの作とされ、現存最古の写本は紀元前1800年ごろのもの。この物語を記した資料は多数見つかっているらしい。韻文で書かれており、戯曲だった可能性もあるという。

こういう古代の物語は、実在の人物をもとにした伝承の記録なのか、それとも最初からフィクションとして作られたのかが、僕ら現代人が読んでもわからない。
ただこの作品については、どうも後者ではないかと言われているらしい。だとすると現存最古の純粋フィクションということになる。恐れ入る。

冒頭で主人公シヌヘの地位(貴族で官僚であること)をひとことで簡潔に紹介したのち、以下はシヌヘが一人称で語る。冒頭と末尾に1、2文ずつ三人称の枠があるだけで、基本的に自伝スタイルなのだ。これも意外な新しさを感じる。

物語の舞台となるのは、エジプト第12王朝初代ファラオ、アメンエムハト(アメンエムヘト1世)の治世末期。

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