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まぐろを連れて帰ってきて

 まぐろが我が家にやってきたのは2018年の3月のこと。12月生まれなので、まだ3ヶ月の頃。契約をしてから1週間ほど後だったか。右も左も分からない私は、部屋用の二階建ての立派なケージ、ご飯、トイレとトイレ砂、等々がセットになった「とりあえずスタートキット」のような一式も言われるがままに買ったため、来る時は手ぶらだったのに引き上げる時には大量の荷物を抱え、30分程の距離をタクシーに乗って彼女とケージの中でキョロキョロとしているまぐろと3人で帰ってきた。
 犬は人になつくが、猫は環境に部屋に慣れて暮らす動物だからと店員に説明され、最初はケージの中で暮らさせ、外に出す時間は徐々に増やしていくことを教えられていた。初心者の私は言われるがままに、組み立てた二階建てのケージの中に、まぐろが快適に暮らせるようにと、トイレをはじめ、柔らかいタオルや爪研ぎを置いてやって、遊ばせる時間は最初は15分ほどに抑えて徐々に私の部屋に慣れてくれるようにした。私に猫を飼うことを勧めただけあって、彼女は猫が大好きで、まぐろをたいそう可愛がってくれた。住まいが猫を飼えないこともあり、私の部屋ではまぐろといつも遊んでくれていた。
 まぐろと暮らしはじめて2日目の夜。ケージの中のまぐろを眺めていると、丸いベッドの中で前を向いて真剣な表情で足踏みをしている。面白いことをするなと、彼女に電話で教えると、それは「ふみふみ」だと言われた。猫が母親を思い出して、母親の身体にするようにグイグイとやるとのこと。まぐろの身になって考えてみると、この3ヶ月は、母親から引き離されて、見知らぬ土地に連れて来られて、知らない犬や猫がたくさんいるガラスケースの中に押し込められて、代わる代わる人間に抱っこされてはしまわれてを繰り返し目の回る思いをしていたのだとう。やっと落ち着いて暮らせそうな部屋に着いたところで、母親の温もりを思い出したのだろうと思うと、何とも不憫で、何よりもとても愛おしく感じるようになった。まぐろの母親に代わって、しっかり愛情をかけて育ててやらないとと。
 5月になった頃だったか、彼女と別れて、当初猫が苦手だった私とまぐろとの二人暮らしが始まったのは。それは本当に奇妙な生活で、30年以上苦手で、触ったこともなければ、近づけばくしゃみが出るような相手と同じ屋根の下で二人で暮らすことになったのだから。同居生活が始まって最初の問題は、懸念していたアレルギーだった。(続)

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