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かみさまのくすり 1

《あらすじ》
夜な夜な歩き回っては、ありとあらゆる生命を奪っていくマモノを恐れている人々。マモノを倒す事ができるのは、証の子と呼ばれる特殊な色の瞳に変化した子供のみ。
それ以外の者がマモノを倒すことは不可能だった。
山間の小さな村で育った猟師の息子・ミズキも証の子としてマモノと戦っている。証の子はいずれかのマモノと魂が繋がっており、繋がったマモノを倒すと命を落とす。しかし、どれが自分と繋がるマモノなのか、判別出来るものはいない。
ミズキの妹・ヒナは九死に一生を得た後、神託のように、兄から繋がる綺麗な何かを感じ取った。
ミズキは妹の感覚を信じ、死を待つだけの運命に抗うため、繋がりを辿る旅を決意した。
旅の果て、ミズキは仲間となったサムライの子タモンと共にマモノの真実へとたどり着く。


 それには、形があるようで無い。目に見える形をしているが、それと他のものとの間がどこであるか、はっきりとしていない。
 それは、闇が立ち上がったような黒い塊だ。手足のようなものがあり、ゆっくりと動く。どこへ向かうのか、何に向かっているのか、誰も知らない。顔のようなところに目のような穴が空いていて、ぽかりと白い。ざわざわと騒ぐ表皮は無数の細かな虫が蠢いているように落ち着きが無い。
 それを、人はマモノと呼んでいた。魔から生まれた、もの。人にとって害を成すもの。マモノが歩んだ後に、生き物は残らない。踏みにじられた大地は悲鳴を上げるように草木が立ち枯れ、飛ぶ鳥は落ち、逃げ遅れた獣は泡を吹いて死に絶えていく。人も、例外では無い。マモノに触れたが最後、触れた所から黒く腐っていき、激痛と共に腐り落ちて死ぬ。
 多くの武人が、マモノを倒そうと試みた。マモノには刃物も、火矢も、爆薬も、毒ですらも効き目が無かった。挑んだ武人達は、みな死んでしまった。
 大きな国も、小さな村も関係無くマモノが歩むと消えていった。マモノが通った後は、二度と草木が蘇る事は無い。
 人々は、マモノが徘徊する夜を恐れた。朝を待ちわび、太陽の女神にすがるように祈り続けていた。どうか、この闇を照らして下さい。どうか、光の恩寵を持ってマモノを打ち倒して下さい、と。
 太陽の女神は、答えた。
「マモノに繋がるものがいる。その者が、マモノを倒すであろう」
 マモノと繋がる証を持つ者だけが、マモノを倒すことができる。他のマモノはいくら倒しても問題無いが、唯一証の子と繋がるマモノを倒せば、その者も同時に死ぬ。証の子は自分がどのマモノと繋がっているか、知る術は無い。だが、戦い続ける限り、証の子は世を照らす太陽となるだろう。
数名の命と、多くの命を天秤にかけよと女神は言った。


 人々は、多くの命を守るために、数名の命を捨てる選択をした。


(狙って、撃つ。狙って、撃つ)
 次々に矢をつがえ放ち、少年……ミズキはマモノを倒し続けた。ミズキが放つ矢に当たったマモノは、フッと後ろに倒れるように蠢き、消えていく。一瞬でも気を抜けば、ミズキの放つ矢は何の力も持たない。
 ミズキは帰りを待つ妹の顔を思い浮かべた。自分が死ねば、妹の元へこの恐怖が届くだろう。それだけは許せなかった。
 戦っているのは、ミズキだけだ。遠巻きに暗い目でミズキを見張っている大人達は、証の子が逃げないように見張っている。
 最後のマモノが消えると、大人達は戻って行く。ミズキは極度の緊張から解放され、強ばった足を引きずりながら弓矢を拾い集めた。
(父さん……)
 この矢は、ミズキの父が猟をするためにこしらえた物だった。成人の儀式を終えたら、ミズキも父のように猟師になるはずだった。
 村人の腹を見たすために使うはずだった弓矢を、ミズキは夜の脅威から守るために使い続けている。戦いの度に、鏃は光沢を失い、黒く胡乱な光を放つようになっていく。マモノを倒す度に、ミズキは黒い細かな煤を浴びたようになり、そのケガレを禊ぎ祓うまでは村に入ることを禁じられた。
 弓矢を拾い終わったミズキは、凍えるほどに冷たい川に手を浸した。飛び上がるほど、冷たい。だが、煤を落とさねば身を横たえることもできない。手ぬぐいを水に浸して、ミズキは歯を食いしばって煤けた顔を拭き取った。
 夜遅くに見る川は、まるで闇を流しているようにどす黒く不気味に見える。けれど、ちっとも怖いとは感じなかった。ミズキにとって一番恐ろしいものは、人々の視線だ。蔑む目、哀れむ目、強い拒絶。
 この瞳の色が変わっただけで、ミズキを取り囲む世界は一変してしまった。ミズキは一通り体を拭き終わると、重い体を引きずるように村へ帰る。疲れ切った体は酷く重く、自分の物では無いように感じられた。いっそ、この肉体からフッと解放された方が幸せなのでは無いか。
 そんなことに希望を見出すくらいに、ミズキは身も心も疲弊しきっていた。ふと顔を上げると、村の入り口から反れた集落の入り口に温かい火が灯っている。それを見た瞬間に、ミズキは足取りが軽くなった。
「お兄ちゃん!」
 村外れの入り口で待っていた妹……ヒナが駆けてくる。闇の中、灯りなど無くてもヒナには関係無い。迷いの無い足取りで一直線にミズキの元へ。
「おかえり」
「ただいま」
 飛びついてくるヒナを受け止めて、頭を撫でてやると花がほころぶように笑う。ああ、今日もヒナの笑顔を守ることができた。
 この瞬間だけが、ミズキの生きる理由になっていた……。



 ミズキの目に、証が現れたのは十四才の冬だった。最初は、夜なのに辺りが良く見えておかしいな、と思っただけだった。
 そして、外が騒がしいことに気づいた。冬の始まりが近づいて薄暗い夜明け、まだ起きている人はまばらなはずなのに。起き上がると、両親の姿が見当たらなかった。閉じた扉の隙間から、松明の明かりがチラチラ揺れ動くのが見える。
「御神木様が……」
「なんと罰当たりな……」
「直ぐに知らせを……」
 そんな声が、切れ切れに聞こえた。一生懸命聞き耳を立ててみたが、どうも村の境を守ってくれる大きな欅の御神木さまの側で恐ろしい事、罰当たりな事が起こったようだ。それ以上のことは分からなかった。
 大人がこうやってコソコソと騒ぎを納めることを、ミズキは知っている。子供に伝えることと伝えるべきではない事を勝手に分けて、教えて貰えない。おそらく、この『恐ろしいこと』は、まだ子供であるミズキには教えて貰えないことだ。
 つまらないな、と思って、ミズキは再度布団に包まった。母が起こしに来るまで寝ていよう。恐ろしいことを片付けて、大人達はいつもの日常に戻るだろうから。
ウトウトとまどろんでいると朝餉の支度をしながら母がミズキとヒナを起こしにきてくれた。途端にミズキの目を見た母は真っ青になって飛びつくようにミズキを抱きしめた。
「どうして、神様、どうして、どうしてこの子なの、どうして……」
 取り乱して、心が壊れてしまったみたいに泣き叫んだ。騒ぎを聞きつけた父が狩りから呼び戻されて、母と一緒になって泣いた。
 ミズキは、大人が泣くのを初めて見た。自分のせいで泣いていることは確かなので、申し訳無い気持ちでいっぱいになる。目が変になっただけなのに、ミズキの生活は一変した。
 優しい両親の代わりに、気難しい顔をした長老達に取り囲まれてヒソヒソボソボソと自分に起こった変化について教えられる。
 お前は、証の子になった。
 お前は、マモノに繋がる証の子。
 これから、マモノが次々に襲いかかるだろう。
 お前は、戦うしかない。生き残りたければ、この村で生きていきたいのであれば、己と村を守るために戦うしかない。
 ミズキは母と一緒に野草を摘んだり、細々とした家のことをしたりするのが好きな大人しい子であったので、戦えと言われても手段を思いつかなかった。
 だが、猟師である父が、
「お前にしてやれる、最後のことだ」
 と、弓の使い方を教えてくれた。狙って、放つ。狙って、放つ。昼夜問わず、父は何かに追い立てられているように慌ただしくミズキに弓の扱いを叩き込む。ミズキはひたすら、弓を引き続けた。寝食も忘れて打ち込んだ。家に帰ると、母が無理をして笑うから。それが一番辛かった。掌の皮が剥けて血が噴き出しても、腕が痺れるようにへとへとでも、泣いているように見える母の笑顔を見る方が辛い。
 懸命に励み続けると、ミズキはほんの三日で狙った的を決して外さない名手となっていた。父の血筋か、教えられたことはすんなり理解出来たし、直ぐに出来るようになった。この三日間、ミズキは水しか飲んでいない。不思議とお腹が減らなかった。
「もう良いぞ」
 父は的の真ん中に突き立った矢を抜き取って矢筒に入れてくれた。かろん、と思ったよりも涼やかな音を立てるそれは、父が愛用しているもの。新しいものを用意すると言う父に、ミズキはこれが良いと多分、初めてのわがままを言った。父は口をもぐもぐさせて、「そうか」と、笑ってくれた。
「ミズキ、もう良い。少し、寝ておきなさい」
「うん……」
 頭の中がふわふわしてきた。三日間、ミズキは矢を回収する時に少し居眠りしただけで、ほとんど寝ていないのだ。ふと目を覚ますと、父の背中に負ぶさっていた。父におんぶして貰うのは、本当に久しぶりだ。父の背中は大きく広く、ミズキ一人が負ぶさったところでビクともしない。
「お父さん」
「ミズキ、眠っていて良いぞ。もう直ぐ、村だ」
「……うん」
 本当は、聞きたいことがあった。直接聞いたら、きっと父を悲しませる。けれど、とても大事なことだったから。ミズキが尋ねようと思って息を吸い込むと、大きく腹の虫が泣きわめいた。まるでお腹の中で暴れ回っているかのように、ぎゅるんぎゅるんと鳴り響く。
「腹が減って、目が覚めたのか。もう少しの辛抱だ、ミズキ。母さんがご馳走を用意して、待っているからな。ただ、腹がびっくりしてしまうから、まずは粥からだぞ」
「う、うん……」
 励ますように父はミズキを背負い直して、ざくざくと霜柱を踏みしめて歩いていく。霜がおり始めたから、もう冬支度はほとんど整っている。長い冬の間は、雪が村を閉ざしてしまう。そうなったら、山向こうの少し大きな町からの行商人はやってこないし、山の実りも眠りについている。ミズキも、母や村の女衆に交じって野菜を保存する土の下の蔵を整えたり、父達が仕留めた鹿の肉を干したり、秋に干しておいた柿を仕分けたりと忙しかった。
 この目が変わる四日前までは、いつもと同じ明日が来ると信じて疑わなかった。今年は、御神木さまのおかげで秋の実りも多く、十分に備えられた。村の者誰一人飢えること無く、冬を越せるだろう。そう、村で一番長寿のおばあさんがしわしわの眦に涙を浮かべて喜んでいた。冬の間、ミズキは父から弓を習う予定だった。春には、父と一緒に狩りに出るのだ。ミズキは、年を越せば十五になるから。五つ年下の妹のヒナは十。冬は、機織りを教わるのだと楽しみにしていた。一生懸命覚えて、ミズキのお守りを作ると張り切っていた。
 ミズキは、もう父に聞くことが出来なくなっていた。
 いつまで、家族みんなで暮らせるのか。
 いつから、ミズキはひとりぼっちになってしまうのか。
 幼くとも、ミズキは村の掟をちゃんと知っていた。もしも、マモノと繋がる証の子が目覚めたら。その時は、証の子の家族は遠くの村……村長の妹が嫁いだ、ここより少しだけ大きな村に移される。証の子から家族は引き離され、ひとりぼっちで戦う。
 証の子にしか、マモノは倒せない。だが、いつ、どこで、繋がるマモノと遭遇するか分からない。繋がるマモノを倒した時、証の子は死に、勇敢な戦士として祭られ崇められる。村の境を守ってくれる、樹齢数百年の御神木さまの側に立つ立派な石碑は全て、この村で育った証の子のもの。ミズキもいつか、そこに祭られることになる。
 戦うしか生きる術が無いのに、戦えば戦うほど死に近付いて行く。それを、身内が見届けるのは残酷なことだろう、と。村の掟は慈悲で出来ているのか、それとも……。
(家族が、証の子を守ろうとするかも知れないから……)
 死に向かう我が子を前に平気でいられる親など居ない。優しい母は酷く取り乱し、たった一日で十年も老けてしまったように落ち込んでいたし、寡黙な父が泣きわめくのを初めて見た。もう直ぐ十になる妹のヒナは、まだ良く分かっていない。別れの時に、きっと泣いてしまうだろう。初めて出来た妹がミズキは可愛くて可愛くて仕方なく、いつも付いてくるヒナを沢山甘やかしていたから。
 でも、聞かなくても分かる気がした。
 きっと、今日が最後なのだ。
最後の夜だから、両親は冬の支度を削ってでも美味しいものを食べさせようと、ご馳走を支度している。父が鼻を啜るのは、寒さだけでは無い。そう思うと、ミズキも鼻の奥がツンと痛くなって泣いてしまいそうだった。
(だめだ、泣いたら……)
 きっと、父はますます悲しむ。最後の夜なら、家族みんなに笑っていて欲しかった。
(ごめんなさい、父さん、母さん……)
 ミズキが証の子になどならなければ、優しく頼もしい両親をこんなに悲しませずに済んだのに。ミズキは、父の背中にギュッとしがみついた。これが最後なのだから、覚えておこう。
 それから、ミズキはずっと笑っていた。
「おかえり、お父さん、お兄ちゃん!」
 足音で察していたのか、ヒナが土間に降りて待っていて、父の足に抱きつく。父の大きな手で頭を撫でて貰って、はしゃいだ声を上げていたが、直ぐにふくれっ面だ。
「もう、お兄ちゃんばっかりずるいよぅ。ヒナもお父さんとお出かけしたい!」
「分かった分かった、又今度な」
「今度っていつ、あした?」
「明日よりは、向こうになる」
「じゃあ、いつなの、ねぇお父さぁん!」
 ミズキは父の背中から下ろして貰って、せがむヒナを負ぶってやった。ぼろぼろだった両手は父が丁寧に手当してくれているので、鈍い痛みはあるが大したことでは無い。ヒナの温かさも、弾むような声も、最後になるのだ。
「お兄ちゃん、ヒナ、今日はお母さんのおてつだいしたの。えらい?」
「ああ、偉いよ。ヒナは良い子だね。何を手伝ったのかな」
「ええとね、ええとね……」
 母が芋煮をこしらえる手伝いに、芋をきれいに洗ったと胸を張っている。川の水は冷たくて、大変だっただろうに、
「お兄ちゃん、おいも好きだもんね。ヒナ、いーっぱいきれいにあらったんだよ」
「手、冷たく無かったか?」
「だいじょうぶだよ、お母さんに、ふーってしてもらったの」
 ヒナは小さな両手をゴシゴシと合わせて息を吹き込む。ミズキも寒い中で水仕事をした後に、母によくして貰っていた。
「ありがとう、ヒナ。きっと凄く美味しいね」
「うん! お母さんのいもに、ヒナも大好き!」
 囲炉裏の側に座ると、ヒナはミズキの膝に乗ったままで離れない。いつもなら、「ご飯の時は下りなさい」と優しく叱る母も、今日は何も言わなかった。少しも怒られないことに気付いたヒナはご機嫌で、ミズキと二人で一つのお椀で芋煮を食べた。母の美味しい芋煮、お隣のおじさんから貰った燻製にした鮭は貴重な冬の食料なのに、たくさん入れて贅沢な味噌焼きにしてくれた。口の中でほろほろ解れる鮭が美味しくて、ヒナと取り合いになりそうだ。
父も母も、ずっとニコニコしている。きっと、ミズキも同じ顔をしているのだろう。笑っているけれど、ヒナを除いて皆泣いている。
二度と、会うことは無いからだ。生きている、間は。
お腹がいっぱいになると、ヒナは口の横にご飯粒を付けたまま、ふわふわ頭を揺らし始めた。張り切ってお手伝いしていたから、もう眠くて仕方ないのだろう。箸を握りしめたまんまで、ぐっすり眠ってしまう。
「もう寝るか。明日も早い」
「ええ、そうね」
 両親は、いつもと同じように寝る支度にかかった。いつもと同じだけど、同じ明日はもう巡って来ない。先に、湯たんぽで温めた布団に眠っているヒナを優しく包む。
「ミズキ。これを」
 母は、ミズキの着物を綺麗に染め直して仕立ててくれていた。本当は、春に狩人として着るはずだったもの。父とお揃いの藍染めで、この着物を着るのは大人になった証だ。
「……もう、子供じゃないのに」
 相変わらず、背守りが綺麗に刺繍されている。結びの柄で、母はミズキが赤ん坊の頃からずっと、この背守りを縫ってくれていた。
「結びの柄はね、魂が、抜けないよう結ぶと言う意味なの。お前が黄泉の国に取られないように、強く、戦えるように……」
 ぐ、と奥歯を噛みしめる母を、父が支えるように抱き寄せた。
「ミズキ、俺達は明日夜明け前に立つ」
「うん……」
「ミズキ、村長さまがきっと良くして下さるからね……。遠慮せず、きちんとご飯を食べるのよ? あなたはお腹を壊しやすいから、お水は必ず、一度ちゃんと沸かしてから飲みなさい。それと、今年の冬はうんと寒そうだから、湯たんぽも忘れずに布団に入れるのよ? あとは……」
 両親は、顔を見合わせて小さな小さな声で呟いた。
「恐ろしくなって逃げても、良い。ミズキは、勇敢な戦士でなくたって、私達の大事な息子だから」
 母が握りしめてくれる手の上から、父もしっかりと手を握ってくれた。もう、導く二人の手は無い。ミズキは、一人きりで戦うことになる。もしも逃げ出せば、両親とヒナは向こうの村も追い出されてしまうだろう。
「大丈夫だよ、父さん、母さん」
 ミズキは笑った。両親のために。ヒナのために。逃げ出す訳にはいかない。大好きな家族のためならば、ミズキは少しも苦では無かった。
「お休み、父さん、母さん」
 夜明け前に村を発つ家族を見送ることは、許されない。ミズキは両脇を両親に囲まれて眠った。握りしめる二人の手が温かい。
(僕が死んだら、どこへ行くのかな)
 物知りのおじいさんから聞いた、黄泉の国にちゃんと逝けるだろうか。そこで、皆を待っていることはできるだろうか。
 叶うことなら命尽きたその時、皆と同じ黄泉の国へ逝き、皆の到着を待っていたい。ゆっくりと後からやって来る両親とヒナと一緒に、また家族として生まれ変わりたい。穏やかな日をゆっくりと取り戻したい……。
 ミズキはとても眠ることはできなかった。手を離さない両親も、一睡もしていないだろう。ただ目を閉じて、健やかなヒナの寝息と、近くの森で鳴く梟の声だけを聞いていた。

画像出典: https://pixabay.com/ja/

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