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『BAKU!! ~爆末陰陽伝~』第二話

■週刊少年マガジン原作大賞 参加作品■

●阿弥陀ヶ峰
暗い中、長い長い石段(NHK大河ドラマ『秀吉』のOPで出たモノ。五百段以上ある)を、独り歩く土方。
登り切り、前方の大鳥居を見上げる。
土方歳三「山頂の太閤秀吉の霊廟は、大阪の陣の後に権現様──家康公が破壊したと聞いているが……」

もうすぐ夜が明けそうな空(伏線)挿入。
鳥居に手を合わせる土方歳三。
土方歳三「盛者必衰、まさに諸行無常だな。
つわものどもが夢の跡、ってか?」
榊晴明「遅いぞ、色男」

突然響く晴明の声に、周囲をキョロキョロと見回す土方。
だが姿がない。
土方歳三「んん〜? どこに隠れてる榊。
ふざけてないで出てこいッ!」
榊晴明「ここだよここ、さっきからあんたの目の前にいるぜ」
土方歳三「目の前にいると言われれも。
声はすれども姿は見えず…
ほんにおまえは屁のような……てか?」
榊晴明「誰が屁だ、誰が!
ここにいるだろ」

土方の前に人型の紙人形が立ち上がり、おいでと手招きをしている。
土方歳三「な…なんだこりゃあ?」
榊晴明「屁じゃなくて紙【し】だな」
土方歳三「怪しげな技を使うとは思っていたが、やはり幻術使いだったか」
榊晴明「口でいろいろ説明するより、実際に見た方が早いと思ってな」

紙型、むくむくと大きくなり晴明に。
それを呆然と見つめる土方。
土方歳三「榊……てめぇはいったい何者だ?」
榊晴明「土御門家の傍流さ」
土方歳三「土御門家と言えば代々、朝廷の陰陽寮の司であった…。
なるほどな、さっきのは“式神”ってヤツか」

土方歳三の言葉に、軽く驚く晴明。
榊晴明「へぇ〜、わりあい簡単に信じるんだな」
土方歳三「目の前で見せられりゃあ信じるしかあるまい?
そのために見せたんだろうが?
それとも信じちゃまずいのか?」

二人の間に流れる沈黙。
ざわめく森、風に揺れる土方の羽織と袴。
凝視する土方に、イタズラっぽく笑いかける晴明。
榊晴明「怖いね。あんた、剣術の腕より、気迫で人を斬るな」
土方歳三「わざわざ幻術を見せるために、ここに呼んだ訳じゃあるまい?
そろそろ本題に入ろうか、ああん」

土方の後方を指さす晴明。
榊晴明「そのまま振り返ってみなよ。答えはそこにあるさ」
土方歳三「あぁ〜ん?
振り返れば……だと」

土方が振り返ると、ちょうど太陽が昇って着る瞬間。
土方歳三「日の出がどうした」
榊晴明「ここから日輪の間に、何があるか、よぉ〜く見てみな」
土方歳三「間にあるもの?」
榊晴明「そうだ、目を凝らせ……何が見える?

京都の町の俯瞰の全景のカット挿入。
土方歳三「智積院に東本願寺、そして西本願寺……」
ハッと目を見開く土方。
土方歳三「なんだと! おい榊……コレは偶然か?
この霊廟から日の出の場所まで、古刹が並んでやがる」

拍手する晴明。
榊晴明「御名答! 
偶然なんかじゃないさ。
これが日輪の道さ」
ギョッとした表情の土方。
土方歳三「日輪の道……だと?」

説明を始める晴明。
榊晴明「西本願寺と豊国神社、そして秀吉の遺体を納めた豊国廟は、日輪の運行にあわせて、東西を結ぶ線上に置かれたのさ」
土方歳三「何故そんなマネを?
なんのために?
いってぇだれが?」
榊晴明「秀吉が神になるために───」

晴明の言葉に、戸惑う土方歳三。
土方歳三「神に……だと?」
榊晴明「信長公によって弾圧された本願寺を、京に移転させ手厚く庇護したのも、秀吉が神になる秘法を成就させるためさ」

本願寺と豊国神社、阿弥陀ヶ峰の立体的な模式図を読者説明用に入れる。
榊晴明「本願寺の方向、つまり西に沈んだ日輪が地下を通り、東天に昇るのを模すことによって、京の町が持つ霊気と日輪の気を、阿弥陀ヶ峰の秀吉の霊廟に集中させる」

龍脈のイメージカットが入り、説明を続ける晴明。
榊晴明「そのためにも本願寺と豊国神社、そして秀吉の霊廟は、東西を正確に結ぶ日輪の道の上に存在“しなければ”ならなかったんだよ」

意外な秘密に顔面蒼白になる土方。
戸惑った表情で、本願寺から豊国廟を交互に見ながら、
土方歳三「日輪の動きに模して……京の都にそんな秘儀が施されていたとは!」
榊晴明「だが、その秘儀を見破って破壊した者がいた」
土方歳三「……それは?」
榊晴明「東照大権現」

雷に打たれたような顔で、絶叫する土方歳三。
土方歳三「家康公か!」
土方の背後にアップで入る、家康の肖像画のイメージカット。
榊晴明「豊国神社と西本願寺の間に、智積院と東本願寺があるのが見えるだろ?」
土方歳三「智積院と東本願寺? 確かに見えるが、それがいっったい何の意味があるんだ?」
榊晴明「……智積院と言えば太閤秀吉が根来征伐で、焼き討ちにした根来大伝法院の一院だろ?」

弾圧されて惨殺される、門徒のイメージカット入る。
青ざめた顔の土方歳三。
土方歳三「秀吉に恨みを抱く寺をもって、日輪の道を分断したのか……」
榊晴明「それだけじゃない。家康は本願寺の跡目争いにも介入し、東本願寺を分立させたのさ」
土方歳三「それで西本願寺と東本願寺がふたつ、できてしまったてのかよ……」

東本願寺と西本願寺の、イメージカット挿入。
榊晴明「あんたら新選組の屯所から、本願寺は近いからな。
一度、西と東の諸堂の配置を見比べてみればいい」
土方歳三「諸堂の配置? それにいってぇ何の意味がある?」
榊晴明「東本願寺は西本願寺とは、全く逆の伽藍配置を取っているんだよ」

晴明の言葉に重なる、西本願寺と東本願寺の配置図。
土方歳三「なんだってそんな……」
榊晴明「日輪の道の力を、逆流させるためさ」
土方歳三「念には念を入れて、二重三重に秀吉の秘儀を分断しているのか……なんて壮大なッ!」

京の町を見下ろしながら、壮大な呪法陣に絶句する土方。
急に歌い出す晴明。
榊晴明「籠目 籠目
籠の中の鳥居は
いついつ出やる……」
土方歳三「その童歌がどうした?
最近また、洛中の餓鬼がよく口ずさむ歌だがよ」
榊晴明「これは豊国廟の封印を破る呪いが込められた歌なのさ」
土方歳三「なんだと!」

目をむく土方歳三に、周囲を指さしながら再び歌う、晴明。
榊晴明「籠目 籠目
籠の中の鳥居は
いついつ出やる……」

豊国廟の周囲に巡らされた、籠目状にかけられた竹の柵を見る土方。
晴明の謎かけに気付く。
土方歳三「『籠目 籠目 
籠の中の鳥居は
いついつ出やる』
……籠の中の鳥居とは封じ込められた豊国神社の事か!」

朝日に照らされる京都の町を指し示す晴明。
榊晴明「夜明けの晩に
つるつるつっぺった
なべのなべのそこののけ
そこぬいてたもれ」
土方歳三「日輪が東天に出現する時、封印がゆるみ抜ける……つまり豊国大明神が復活するということか!」

墓から這いだした秀吉のミイラが、グワッと右腕を伸ばす、土方のイメージ。
土方歳三「……しかしこの事と一連の隊士殺しと、いってぇなんの繋がりが?」
榊晴明「新撰組だけでなく、最近起こった佐幕派への天誅の場所を覚えているか?」
土方歳三「もちろんだ。
それが俺たちの仕事だからな」

榊晴明、地面にガリガリと本願寺から智積院の、京都の町の通りの模式図を描く。
土方歳三「我が隊士が殺されたのがここ……とここ。
そして会津藩の藩士が殺されたのがここと…」
土方、晴明が描いた絵の、だいたいの場所に小石を置く。

自分が書いた図をジッと見つめて、急にハッとする土方。
土方歳三「なんだこりゃぁ?
全部が智積院と本願寺の周辺じゃねぇか」
榊晴明「この六件の事件現場を繋ぐと…何かの形に見えないか?」
土方歳三「ただの四角のつなぎ合わせにしか見えんが……」

思案する土方歳三。
何かにハッとする土方。
土方歳三「いやいや待て!
智積院と東本願寺を囲むようになってるな。
この形はおまえ───」

京都の地図に重ねて、浮かび上がる北斗七星の文様。
土方歳三「……北斗七星か!」
榊晴明「大当たりぃ〜!」
ふざけた調子の晴明を無視して、昔の記憶を呼び戻そうと、目を細める土方歳三。
土方歳三「寺の坊主に昔、北斗星には魔除けの霊験があると聞いた覚えがある。妙見信仰も、その流れだと」

榊晴明「佐幕派の人間を、妖気が集まる四つ辻で殺し、それを北斗星の形にする。
秀吉の日輪の道を封じている智積院と東本願寺の霊力を、逆流させようとしているのさ」
土方歳三「徳川の世に一番、怨念を抱いてるのが秀吉だからな。
討幕派がやりそうなこったぜぇ!」
吐き捨てるように言う土方。

土方歳三「この呪法陣で、いってぇ何をやらかすつもりだ?」
榊晴明「秀吉が家康を攻めようと兵を整えていた天正十三年──何が起こった?」
土方歳三「天正? そんな昔のことは知らねぇなぁ。
榊晴明「文禄五年と聞いて、何か心当たりは?」
土方歳三「だからおれぁ、歴史には詳しくねぇんだってばよ!」
榊晴明「なら安政元年はどうだ? さすがにわかろうもんだぜ?」
土方歳三「安政っていえば、大地震で嘉永から改元……あああッ!」
榊晴明「天正も文禄も安政も、大地震が起きた年号だ」

地震で倒壊する二条城天守閣や、逃げ惑う人々のイメージカット挿入。
暗澹たる表情の土方歳三。
土方歳三「家康には秀吉の呪法の秘密を見破り、地震を操る強大な術者がいた?」
榊晴明「だがこの呪法陣は、まだ完成しちゃいない」
土方歳三「確かにまだ星は六個。
最後の星が来るべき場所は……」

土方、最後の星となるべき場所に小石を置く。
土方歳三「西本願寺!
西本願寺には倒幕派が、多数出入りしているとの噂があったが……まさか!」
榊晴明「おそらく呪法陣は、日が真東から昇る彼岸の日までに、完成させなくてはならない」
土方歳三「彼岸って……明日じゃねぇか!」
榊晴明「おそらく今夜、西本願寺境内で最後の生け贄封じが、おこなわれるだろう」
土方歳三「そいつは永倉を、生け贄にするって意味か?」
榊晴明「新撰組二番組長だ、生け贄としては申し分あるまい?」
土方歳三「させるかよ!」

怒気をはらんだ声で一喝する土方。
刀の鞘をグッと握りしめ、今にも抜刀しそうな勢い。
晴明に話しかけようとする土方歳三。
土方歳三「ところで榊、おまえは……ん?」

土方が振り返ると、晴明が立っていた場所に、ひらひらと風に揺れる紙の人型があるのみ。
風に吹かれて、京の町のはるか上空に舞い上がる人型。
土方歳三「ちっ! どこまでも手前勝手な野郎だぜ。女にもてねぇぞ」

土方の背後からスーッと現れる、抜刀した人影。
ボソボソとつぶやく。
人影「場合によっては、斬り殺そうかと思ったのですが……榊晴明、隙がなかったです」
土方歳三「新撰組一番隊隊長の、おまえさんの腕を持ってしても、隙が見つけられなかったか?」
人影「隙だらけのように見えながら、殺気を送った瞬間にスルリとかわされ、刃の届かない場所に逃げられるような……すかしっ屁のような男でした」

虚空に向かって、手にした刀で三段突きを決める人影。
人影「ヤッ、ヤッ、ヤァーッ!」
朝日に照らされて人影、美少年の顔アップ。
字幕『新撰組一番隊隊長・沖田総司』
沖田総司「ぜひ手合わせしてみたいですね、陰陽師・榊晴明」

ウットリとした表情の沖田。
土方歳三「ダメだ総司よ、ヤツぁ俺の方が先約だからよ。俺が斬り殺した後、絞め殺すなり焼き殺すなり、存分に始末しな」
ムッとした顔で歩き出す土方。
苦笑しながらついて行く、沖田総司。
「はいはい、そうさせていただきますよ歳さん」

■爆末陰陽伝 第二話/終わり■

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