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紀伊國屋が「売れる本」の仕入れを増やす仕組みづくりに着手

X(旧Twitter)を見ていると、こんな情報が流れてきました。辞書などを手掛ける出版社であり、書籍販売の企業として大型書店を経営する会社として著名な紀伊國屋が、売れる本を売り返本を減らすために、蔦屋書店などを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブと出版取次大手の日本出版販売の3社で取り組むという内容なのですが。

書店主導で「売れる本」を売る 返品減らし利益高める改革に着手

紙の本の売り上げがピーク時から6割減となる苦境下で、街中の書店を残すための取り組みが本格化している。業界大手の紀伊国屋書店などは書店側の利益率を上げる「売れる本」を多く仕入れて返品を減らす仕組みづくりに着手した。既存の流通システムが曲がり角を迎えつつある中、書店主導での改革が進められている。

売り上げ前年比2割増
紀伊国屋書店と蔦屋書店などを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)、出版取次大手の日本出版販売(日販)の3社は昨年、合弁会社「ブックセラーズ&カンパニー」を設立した。ブックセラーズ&カンパニーは、出版社と直接仕入れ数や価格を交渉し「売れる本」を多く仕入れる。参加書店は返品時の物流費を負担するが、取り分も増える仕組みだ。

https://www.sankei.com/article/20240811-H3U5U7CNWBKN3LHCGBKBTZM6I4/


①多様性がなくなる大型書店?

これに対する、批判の代表的な意見がこちらです。

そんな本屋に誰が行くのかしら。歪みが拡大するだけでは? 大手も生き残りに必死なのはわかるけど、明らかに悪手。

>業界大手の紀伊国屋書店などは書店側の利益率を上げる「売れる本」を多く仕入れて返品を減らす仕組みづくりに着手した。

https://x.com/solar1964/status/1822744816050200630

思うに、紀伊國屋は取次主導の本の配本から、もっと重点的な配本をするために、データ共有をし始めたということではないかと。

日本の書店は、取次が押し付ける本をそのまま店頭に並べ、売れなければ返本というところが多く、マッチングが問題になっています。

例えば、地方の小さな書店100店舗に、ヒット作家の最新作を5冊ずつ配本した場合、3冊しか売れず2冊が返本になると、200冊が戻ってきます。
これは売れなかったのですから、利益にならず。そのくせ、返本の輸送費がかかるという、取次会社にとっては、大きなダメージになります。

②問題の本質は地方切り捨て?

ところが、この地方の本100店舗500冊の配本を、300冊に減らし、その分を紀伊國屋グループに回すと、どうでしょう?

取次としては、大部数をまとめて配送できるので、輸送費も軽減され。しかも完売する可能性が高いので、利益率も高くなる、という話です。

1冊の客注100件に応えるのと、大型書店の100冊の注文1件に応えるのと、どっちが楽で儲かるかという話です。
書店が良心的に対応すればするほど、負担が増え利益が減るのですから。

大型店舗の紀伊國屋が、売れる本を増やして、その分売れないマイナーな本の棚が減って、多様性がなくなるという視点で語る人が多いのですが。
そうではありません。

地方の小さな書店の配本を切り捨て、大型書店グループに回すという、むしろ地方切り捨ての話です。
以前にも書いた、コンビニエンスストアの地方の店舗への、書籍や雑誌の配送切り捨てと、同じ文脈です。下記noteも参照してください。

③地方書店のイメージと現実?

ただ、この地方切り捨ては、時代の必然でしょう。
どうにも、本好きの方は東京や大阪、あるいはプロ野球のフランチャイズがあるレベルの地方都市を基準に語りがちですが。
日本の87%は、そんな恵まれた本屋環境にはありません。
こちらの指摘が、正鵠かと。

あと多分「街の本屋さん」というモノに対するイメージのブレがありますよね。自分は基本的に左について言及してるんですが、みなさんもしかして右について語ってません?右は「街の本屋さん」ではなく「大型書店」ですよ。

https://x.com/akihiro_koyama/status/1765715721504563285

ハッキリ言えば、1枚めのような本屋さんでも、地方都市では大きな方です。たいがいは、文房具店と併設されていて、この半分ぐらいの売り場面積でも、人口3万人程度の地方都市では、立派な書店です。

もう、そういうところに配本して返本されるなら、最初から配本しない、どうしても欲しい人はAmazonや楽天で注文してくれ、というのが本音でしょう。

現実問題として、紀伊國屋が売れ線の本の取り扱いを増やしても、マイナー本が激減することは、たぶんないでしょう。
売れてる本は回転率が高く、そんなに売り場面積を圧迫しませんから。

④紀伊國屋の特殊性と電子書籍

紀伊國屋の場合は、電子書籍アプリのKINOPPYがあるので、マイナーな本はそちらで、という感じでしょうかね。
ここが、他の大型店舗を持つジュンク堂や芳林堂などとの、違いでしょう。

これも時代の必然なのかもしれませんが、全国展開している書店グループですから、Amazonのように印刷書籍を1冊から宅配する、プリント・オン・デマンド(POD)サービスに対応するなら、印刷書籍に拘る顧客も、満足できるかと思うのです。

現実問題、プリンターの性能はすごく上がっていますから、紀伊國屋のビルの中に、そういうオンデマンド印刷に対応したスペースを設けたり、近所の印刷屋と提携して、事前注文すれば店舗で引渡しとかのサービスも、できるはずなんですよね。

出版社側のデータ制作対応も必要ですが、今後は出版社側もデジタル化と、電子書籍用データとPOD用データの入稿は、必須になるような気がします。

⑤地方の書店の未来予想図は?

映画館と一緒で、本屋は将来的には、都会の贅沢品になり、県庁所在地以外の地方都市は、人口1万人あたり1件の本屋があれば御の字、ということになるかもしれません。

では、地方の書店の減り方がマシなのは何故かというと、明るい材料があるわけではなく、鳥取県、島根県、徳島県、高知県、佐賀県、宮崎県はすでに県全体の書店が100店を割っており、もう大幅に減ることができるほど地方に本屋が残っていない、というところまで来ている。

https://x.com/obenkyounuma/status/1014513650785181697

2018年お段階でも、こんな状態です。県全体で100店舗を切ってるなら、今はもう半分近くに減っていそう。
そして、大阪の書店ですら、こんな状況が……。

それに対する対抗策はないのですが。
ひょっとしたら、地方の図書館が書店の機能を持つ未来も、あるのかもしれません。それこそ、小学校や中学校の図書館が、半径10キロ以内に書店がない地域の本の代理店になるしか、ないような。

それが無理なら、ほんの宅配業者に文教費名目で予算を付け、もう地方では本はネットで注文するか、電子書籍が当たり前の文化に、シフトするしかないでしょうね。

好むと好まざるとに関わらず。


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