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質問箱027:作品のメッセージ性の扱い

※Twitterの質問箱に寄せられた質問を、別途アーカイブしておきます。また随時、加筆修正を加えていきます。

【質問】


【解答】

①時代性と娯楽性と

メッセージ性と娯楽性は、共存できます。
メッセージ性が強い作品は、笑いなど娯楽性でくるんで奥に隠して表現するのが、よくある手法です。

その作品の奥に隠されてる部分がわからないと、ただの娯楽と思われてしまいがちですが。そうではありません。逆に娯楽作品を、高尚そうに見せかけることも可能です。両方とも、表現のテクニックです。そこに上下優劣はありません。

一例を上げると、本多猪四郎監督の『ゴジラ』は1954年に公開されましたが、同じ年に黒澤明監督の『七人の侍』も公開されています。

これは偶然ではなく、1951年にサンフランシスコ平和条約が結ばれ、1952年に主権回復しましたが、この国際社会に再出発する日本の期待と不安が、両作品の原動力になっています。

②作品は時代と共に

『ゴジラ』は第五福竜丸事件をモチーフとし、米ソ冷戦時代への不安が背後にあります。

続編の『ゴジラの逆襲』では、ゴジラとアンギラスが戦いますが、これは朝鮮戦争のメタファー。いっぽう『七人の侍』は戦後処理の問題のメタファーです。でも、そんなことを感じる人は、そうはいませんよね。

あるいはアメリカでは、2011年『カウボーイ&エイリアン』と『宇宙人ポール』2012年『バトルシップ』と、宇宙人の侵略者が続いてヒットしましたが。

これは、初の黒人大統領であるバラク・オバマ氏への期待と不安が、異文明の侵略と克服という物語になった――という指摘もあります。

③娯楽に隠された物

例えば、最初の『キングコング』は戦前の1933年に公開されましたが、キングコングは黒人のメタファーとされます。

1908年から1915年まで、黒人初のヘビー級王者ジャック・ジョンソンが出て、黒人に対する不安や恐怖が、映画にも投影された可能性があります。これは、公民権運動が盛り上がった60年代から70年代にも見られますが。

また当時のアメリカは黄禍論が広まっており、東洋の髑髏島から連れてこられたキングコングは、ペリーの黒船で開国させられ、その後急速に軍事力を高めて強国の仲間入りした日本のメタファーにも見えます。

実際、日本はこの映画の8年後に、真珠湾に攻撃を仕掛けます。

④あの作品の奥には

その視点で見ると、キングコングが最後は飛行機の攻撃に破れるのは、大艦巨砲主義から空母機動主義への転換の、予言にも見えます。

タイタニック号が沈没する起こる14年も前に、『タイタン号の沈没』という小説が発表されていたように。意外と作品というのは、時代の空気を敏感に読み取って、予言的な作品を生み出すのです。

これは、『ランボー』の原作者のデイヴィッド・マレルが同作の続編『ランボー 怒りの脱出』の中で、主人公のモノローグで語らせていますが、大ヒットした1977年公開の『スターウォーズ』はベトナム戦争の架空戦記みたいなものだった、と。

悪の帝国に正義の連合が勝利し、手足を失った人間がそれを取り戻せる。それこそ、ベトナムの米兵が夢見た理想が描かれています。ベトナム戦争が集結したのは、1977年です。

⑤宝物の手がかりを

でも、そういう部分はあまり評論家には評価されず、スターウォーズは子供だましの娯楽作品で、ランボーはマッチョ称賛の好戦的なバカ映画と思われています。そんなことはないのに。

わかりやすいメッセージ性は、それを好む評論家には評価されても、長い目で見れば、残りません。時代を超えて生き残る作品には、それなりのメッセージ性があります。

眼の前に置いてあり、簡単に手に入る宝物より、苦労して掘り返した宝物のほうが、その労力のぶん思い入れや評価が高くなるように。

メッセージ性は隠して、でもヒントや手がかりは残して、一粒で二度美味しい娯楽作品を創ることが、結果的に押し付けがましいメッセージよりも、読者の心に届くのではと、考えています。

参考になれば幸いです。


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