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『BAKU!! ~爆末陰陽伝~』第一話

■週刊少年マガジン原作大賞 参加作品■

●京都
ナレーション『──文久三年・京都──』
提灯を片手に夜道を歩く、段だら羽織の新撰組隊士(長内守善)。
二人の目の前にひらひらと落ちてくる、人間の形に切り抜かれた紙。
書かれた文字は「生 宿 動」。
新撰組隊士「ん?」

地面に落ちた紙が、ムクリと起きあがると、トコトコと歩み寄ってくる。
長内に向かい、童歌を歌い出す紙人形。
  紙人形「……籠目 籠目 
      籠の中の鳥居は
      いついつ出やる
      夜明けの晩に
      つるつるつっぺった
      なべのなべのそこののけ
      そこぬいてたもれ……」
 長内守善「なにヤツ!? 狐狸のたぐいか」

異様な雰囲気に、気色ばむ長内。抜刀して斬りかかるが……
紙人形はひらひらと後方に飛び去る。
すると、最初は二〇センチ程度だった紙人形は、みるみる長内と同じぐらいの大きさになり、水干を着た人間のシルエットになる。
  紙人形「新撰組二番組の長内守善殿……かな?」
 長内守善「ちぇええいっ!」

長内、下から上へ刀を跳ね上げるが、その手には刀がない(作画:着物の裾に隠れて、手首は見えない)
 長内守善「な?」

自分の手首から先がないことに気づき、ポカンとする長内。
血がほとばしる腕を呆然と見る。
刀と柄にぶら下がる長内の手首、力無くボトリと落ちる。
シルエットの男に光る、独鈷杵の形状をした剣。
長内が刀で切り上げようとした瞬間、独鈷杵の形状をした剣で右手を切られたのだ。
 長内守善「う…ぐおお……おおおっ!」

血が噴き出す手を見ても、事態が把握できずに混乱する長内。
その胸に、剣が一閃して噴き出す血。
絶叫する長内。
その傷口に腕を突っ込み、中からメキビチと湿った音をさせ、心臓をつかみ出そうとする影の男。
 長内守善「オゲエエエエ……」
仲間の隊士「ひ、ひぇえええ!」

あまりの事態に、腰を抜かした仲間の新撰組隊士、這うように逃げようとする。
が、影の男の左腕から、白い狗のような霊体がスルッと現れ、中間の延髄に噛みつく。
長内の体内から引きずり出した、まだピクピク動く心臓を手に、隊士の断末魔の叫びを聞く影の男。引きの絵。

●朝の町
無惨な状態の死体。
周囲にたかる野次馬。
死体を見聞する、新撰組の面々。
死体を厳しい表情で見る三十代の男。
   字幕『新撰組副長・土方歳三』
 土方歳三「こりゃひどいな、永倉」

呼ばれた男、緊張した表情で頷く。
   字幕『新撰組副長・永倉新八』
 永倉新八「土方さん、こりゃどうも野犬に襲われたようですね。
      こちらは心の臓と両腕を食われて、こっちは頸をやられてる」

内臓を食われた仲間の死体を、青ざめた顔で見ている新撰組の二人。
長内の左手に握られた脇差しの、血糊に気づいた土方。
 土方歳三「長内は、左手で脇差しを抜いて、一太刀は浴びせたようだな」
 永倉新八「とっさにやったなら、たいしたもんです」

長内の額に刺さった独鈷杵を、引き抜く土方。
 土方歳三「なんだ、こりゃあ?」
 永倉新八「寺の法具で見たことがありますね、
      不動明王の剣も、似たような形で。
      天竺の昔の武器とかなんとか」

そこに通りかかった武家の娘(お染)、人垣を見て手近な男に聞く。
   お染「どないしたの?」
 野次馬1「なんでも野犬に、お侍さんが喰われたらしいて」
 野次馬2「イヤぁ、ありゃ勤王の浪人に斬られたんとちゃいまっか」
   お染「また天誅騒ぎどすか? どっちにしろ物騒やわぁ」

人垣を追い払おうと、大声で怒鳴り散らす御倉伊勢武。
御倉伊勢武「これこれ! おまえら見せ物ではないぞぉ!
      サッサと立ち去れぇい」
 土方歳三「おい御倉! ちょっと、戸板を借りてきてくれ」

一瞬、土方の刺すような視線と、目が合うお染。
頭をプルプル振って、小走りに走り去る。
その後ろ姿を見ている土方。
 土方歳三「あの娘……」

●会津藩藩邸
赴任の藩士が居住まいする長屋。
長屋の前にきたお染、戸を開け、
   お染「田島医師せんせ、ご飯出来ましたえ。
      お母はんのお薬……あら?」

中に誰もいないので、拍子抜けするお染。
と、いきなりお染の足首をガシッと掴む、血まみれの腕。
   お染「え?」

視線を土間に落とすと、そこにうつ伏せになっている、薄汚れた男(榊晴明)。
頭部から大量の血を流しながら、血まみれの顔を上げて、お染に哀願するように、
  榊晴明「く…くいも……」
   お染「い……イヤぁ〜っ!」

お染、驚きのあまり、男の頭を下駄でガンガン蹴りまくる。
  榊晴明「イデッ! ちょ……やめろって!」
   お染「放してぇーっ!」

長屋中に響くお染の絶叫。

●長屋の中
医者の格好をして、苦笑している田島新九郎。
田島新九郎「そっかそっかぁ、それは榊殿が悪いよ」

その横で、凄い勢いで飯をかき込んでいる榊晴明。
  榊晴明「んむごごご、むががをんごご!」

口をご飯で一杯にして、ツバを飛ばしながら抗議する榊晴明。
苦笑しながら茶を差し出す新九郎。
田島新九郎「飲み込んでから、話しなよぉ」
  榊晴明「笑いごっちゃねぇよ! 
      喧嘩に巻き込まれて必死で逃げてきたら、
      怪我したところを下駄で、何遍も踏まれたんだぞ?」
   お染「血まみれの男に、いきなり脚を掴まれたら
      誰かて驚きますぅ!」

同じく、ムッとした顔で榊晴明を睨んでいるお染。
田島新九郎「こちらは晴明はるあきらさかき晴明。
      しばらくうちで預かる事になってね。
      商売は売トばいぼくをやってるんだ」

キョトンとした顔のお染、
   お染「梅毒ばいどく…ですか? 
      かさのお医者さんですのん」
田島新九郎「梅毒じゃない、ば・い・ぼ・く。占い師さ」

苦笑する新九郎を尻目に、胡散臭そうな目で晴明を横目で見るお染。
   お染「なぁ〜んや、当たりそうにもないどすなぁ。
      見てもらうだけ、お金の無駄やわ」
  榊晴明「だったらタダで占ってやろうか? 
      ………おまえにゃあ後家相が出てるな」
  お染め「後家相って! あんさんなぁ……」
激怒するお染め。ヘラヘラ笑う晴明。

ムッとして、さらに何か言いかけるお染の気配を察し、必死にその場の雰囲気を変えようとする新九郎。
田島新九郎「美味いねぇこの飯! 
      榊殿も喰ってばっかりいないでお礼を言ったら」
  榊晴明「この飯はあんたが? 
      人間、なんかひとつぐれぇは取り柄があるもんだな」

プイと横を向いて、反目しあってる晴明とお染。
そこにかかる、外からの声。
 土方歳三「田島先生、いるかい?」

無遠慮に家の中に入ってくる土方歳三、永倉新八、御倉伊勢武の面々。
田島新九郎「これは土方さん、どうかしましたか?」
 永倉新八「ウチの隊士が、また殺された」
  お染め「また?」

新九郎、表情を曇らせて、状況を把握した様子。
田島新九郎「わかりました、検死ですね?
      すぐに行きますので少々お待ちを」

慌てて箸を置き、飯もそこそこに、立ち上がって支度をしようとする新九郎。
そこに割って入る晴明の嫌みを含んだ声。
  榊晴明「二本差しってのは、横柄でいけないねぇや」

自分たちを非難する言葉に、気色ばんで晴明を睨みつける永倉。
どこ吹く風でメシを食う晴明。
御倉伊勢武「なんだぁ、キサマは?」
  榊晴明「新九郎さんは飯の最中だ。
      もうちょっと待てないのか?」

ぞんざいな晴明の言葉に、青ざめるお染。
小声で、だがきつめに忠告する
   お染「ちょっとちょっと! この人ら壬生の浪士隊ですえ」
  榊晴明「壬生浪士隊? 食い詰め浪人の強請ゆすりか?
      それとも町人の侍ごっこか?」
 土方歳三「『悪名高い壬生の人斬りだからよぉ、
      口の利き方に気を付けろ』……って
      嬢ちゃんは忠告してるんだよ」
   お染「いえ……そんな」
狼狽するお染め。

ニヤリと笑う土方の視線に怯え、思わず顔を背けるお染。
ぎゅっと握った手が、かすかに震えている。
  榊晴明「あんたぁ、いい男だな」
 土方歳三「なんでぇ? 薮から棒に」
  榊晴明「侍なんぞならなんでも、役者になった方がよほどいい」

土方の気を逸らす晴明。
だが、土方の目が細くなり、眉間に皺が寄る。
 土方歳三「───何が言いたい?」
  榊晴明「新撰組ってのは浪人者や、百姓町人が
      士官を狙って結成されたんだろ?
      そうまでして侍になりたいもんかねぇ。
      いざとなりゃあ腹切って死ぬ仕事だぜ?」

晴明の小馬鹿にした態度に、土方もぞんざいな口の利き方になって対抗する。
 土方歳三「おい新九郎よぉ~ コイツは何者だ?」

慌てて、その場を取り持とうとする新九郎。
田島新九郎「榊殿、歳さ…土方さんとは、
      江戸にいた時分からの、古い顔なじみなんだよ
      歳さんの実家は石田散薬の行商やっててね」
  榊晴明「だから幕府奥医師の疋田様の、高弟である田島殿に、
      ぞんざいな口を利くんだ? たいしたもんだね」

晴明は飄々と語っているが、土方の方は表情がさらに怖いものに。
 土方歳三「そう言うおまえさんも、ずいぶんとぞんざいだぜェ?」

ゆっくりと、刀に左手を添えようとする土方。
目には殺気が浮かぶ。
  榊晴明「気に障ったかい? じゃあお詫びに、
      あんたの今日の運気を占ってやろうか?」
御倉伊勢武「なんだとぉ? 馬鹿にしてるのか?」

面食らう永倉を尻目に、懐からびた銭を取り出すと、軽きチャリチャリさせた晴明。
急に、土方の後ろの柱に向かって投げつける。
  榊晴明「ふぬッ!」
びた銭は平のまま、柱に食い込む。
土方&永倉「!」

驚く永倉と土方を尻目に、さらに爪楊枝を投げる榊晴明。
びた銭の穴に、突き刺さる爪楊枝。
  榊晴明「大当たりぃ〜! 運気は好いようだぜ」

何事もなかったように、メシを食い続ける晴明。
気勢をそがれた形の土方達。
しばしの沈黙の後、苦笑しながら土方、刀の柄から手を放し、
 土方歳三「……ふふん、ずいぶん面白い芸を見せてもらったな。
      では田島殿【強調の傍点入る】、行きましょうか」
田島新九郎「あ、はいはい、ただいま」

出て行く新九郎と土方達を見送りながら、茶碗でお茶をグビグビ飲んでいる晴明。
土方達の姿が消えてから、はぁ〜っと大きく安堵のため息をついて、肩の力を抜くお染。
   お染「んもォ、寿命が縮んだわ〜!
      壬生浪みぶろ相手になにしますのん。
      あん人達は強請たかりどころか、付け火までするんですえ! 
      大坂ではそれで商家が燃えて泣き寝入りやったって」

一気にまくし立てるお染を無視して、土方達が立ち去った方を見ている晴明。
  榊晴明「あれが鬼より怖いと謳われる、
      新撰組副局長・土方歳三か。
      なかなかたいしたもんだぜ」
   お染「たいした……って何がどす?」
  榊晴明「もう一本は、避けやがった」
手に持った爪楊枝を、ピンと跳ね上げる晴明。
   お染「へ?」
状況がわからず、戸惑うお染め。

●新九郎と通りを歩く土方たち
土方の手のアップ。
そこには、晴明が投げた爪楊枝が握られている。
 土方歳三「新九郎よぉ……ありゃあ、いってぇ何者だぁ?」
田島新九郎「榊殿は手相見で、蘭学に興味があると言うので預か……」

新苦労の言葉を、イライラした調子で遮る永倉。
 永倉新八「あんな手相見、おるものかッ!」
 土方歳三「──小柄ならともかく、丸い銭を投げて
      柱に食い込ませるってぇなると、
      新撰組随一の手裏剣の技量を誇る永倉をしても……」

土方に促された永倉、自分の手持ちのビタ銭を、目の前の木戸の柱に向かって投げつける。
びた銭は全体の4分の1ほどを食い込ませて突き刺さる。
驚く新九郎。
だが数秒後に、ポロリと落ちてしまう。
 永倉新八「やはり無理ですな」
 土方歳三「だがあいつは縦にした銭じゃなく、
      平のままを柱に食い込ませやがった」
御倉伊勢武「拙者は荒木流手裏剣術を、
      多少は心得ておりまするが……
      あのような技は初めて見もうした」
 土方歳三「しかも銭の穴に、楊枝を通すなんざ、曲芸師でもできねぇ」

土方の脳裏によみがえる、晴明のヘラヘラした顔。
吐き捨てるように土方、
 土方歳三「それだけじゃねぇ!
      野郎、二本同時に楊枝を投げてやがった」
晴明が日本同時に投げる姿を、スローモーション風に再現。

手にした爪楊枝を、ペキンと音を立てて、へし折る土方。
田島新九郎「……ゴメンよ歳さん。
      僕も詳しいことは知らないんだよ。
      ただ会津藩直々の依頼でねぇ」

土方、晴明の腕や肩に巻かれた包帯と、膏薬を想い出し、疑いの表情。
 土方歳三「あの榊とやら、ケガをしてたな」
田島新九郎「なんでも、地回りのヤクザ者に、
      喧嘩をふっかけられたって」

疑いの表情の土方歳三。
 土方歳三(喧嘩でできた傷か長内に斬られた傷か……)
土方、晴明の顔を想い出し、中空に放り投げた爪楊枝を、抜刀して両断する。
 土方歳三「榊晴明……か、おもしれぇ!」

●再び新九郎の住まい
爪楊枝でシーハーする晴明。
壁にめり込んだ投げ銭を、呆れた顔で見ているお染。
   お染「あんさん占い師やのうて
      曲芸師ですのん?」
  榊晴明「その銭、取れたらやるよ」
   お染「ほんまですのん? ほんなら遠慮のう」

お染、嬉々として柱のびた銭を取ろうとする。
   お染「あら…この……うう〜ん!
      ぜんぜん取れへん。あきまへんがな」
苦戦するお染の様子を見ていた晴明、
  榊晴明「んなこたぁ、ねぇよ」

晴明が軽く指で弾くと、銭は柱から外れて、突き刺さった爪楊枝の上に乗っかる。
  榊晴明「ほらよ」
お染にびた銭を投げてやると、爪楊枝を柱から引き抜く晴明。
不満げな顔で、爪楊枝を見ている。
  榊晴明「削りが甘い楊枝だなぁ。
      安もんでも、もうちっとマシな品があるだろうに」

そう言うと懐から独鈷杵を取り出し、楊枝を削る晴明。
独鈷杵のアップ入る。
それが何か解らず、小首をかしげるお染。
   お染「けったいな小刀ですなぁ。大工道具ですか?」

●壬生屯所・新選組の宿泊地
新九郎が手にした独鈷杵のアップ。
晴明の独鈷杵の絵と、角度を重ねる。
田島新九郎「これが亡骸に?」

カメラ引いて、壬生の屯所の全景。
死体の額から抜かれた独鈷杵を手に、思案投げ首の新九郎。
 永倉新八「今まで殺された隊士には三人共に、
      これが突き刺さっておりました」
田島新九郎「これは独鈷杵と言ってね、
      密教の修法に使う法具だからねぇ。
      討幕派の天誅ならわかるけど、
      いったいなんの意味がるんだろ?」
 土方歳三「ただの殺しじゃねぇってコトだけは、確かだな」

しばらく思案していた土方、
何かを決断したように、柏手をパァーン!と大きく打つ。
その音に驚く一同。
 永倉新八「副局長?」
田島新九郎「どうしたの、歳さん?」
 土方歳三「……ここはひとつ、罠を張ってみるか」
御倉伊勢武「罠……ですか?」
土方の真意が分からず、戸惑う永倉新八と御倉伊勢武。

●真夜中の大通り
中間と帰り路を急ぐお染。
   お染「すっかり遅くなってしもうたわ〜。
      隠居はんは話が長うていかんわ」

とつぜん、お染の前を横切る人影。
見覚えのある輪郭。
   お染「あら? 今のは榊はんやおまへんか。
      こないな所で辻占やってはったんどすか」

お染が近づこうとすると、路地にスーッと消える晴明の後ろ姿。
不思議に思って追いかけるお染。
角を曲がった途端、足下に何かヌルッとした感触が───。
   お染「イヤやわぁ、ドブから水があふれているんやろか?」

足元を見るお染。
目に入る、額に独鈷杵が刺さった、新撰組隊士の死体の顔。
カメラが引いて、お染の足下に広がる血だまり。
   お染「あ、あ……いやぁああああっ!」

腰を抜かしてへたり込み、絶叫するお染。
その向こう側に、血の付いた独鈷杵を持って佇む人間のシルエット。
   お染「だ…誰?」

振り向いた顔は、榊晴明。
無表情の晴明と目が合い、恐怖に怯えてヨタヨタと後ずさりするお染。
ドン!とお染の背後に、ぶつかる人影。
振り返ると、そこには土方ら新撰組隊士が。
 土方歳三「おう、ケガはねぇか? お嬢ちゃんよ」
   お染「ひぃいいいっ!」
 土方歳三「助けてやったのに、ご挨拶だなオイ」

苦笑する土方、お染をそっと路肩においてやり、抜刀して構える。
 土方歳三「榊ィ! キサマなんの遺恨ありて新撰組をつけ狙う?
      事と次第に選っちゃあ、五体がバラバラになるぜい」
  榊晴明「そいつを殺【や】ったのは俺じゃない」

晴明の言葉に、気色ばんで刀を八相に構え直す永倉新八。
 永倉新八「この期に及んで見苦しいぞ、神妙にしろ榊!」

隊士の一人が、晴明に斬りかかる!
だが、その頭上をふわりと飛び越え、眉間に独鈷杵を突き立てる晴明。
  榊晴明「遅い」
新選組隊士「ウギャアアアッ!」

眉間を切られて、つんのめる隊士。
間髪を入れず晴明に斬り掛る土方、倒れる隊士の背後から飛びかかるように。
晴明がサッと後退すると、土方との間に割り込んでくる白い影。
 土方歳三「狗【いぬ】? いや……狐か」

見ると、2匹の白狐が出現する。
低く唸る狐たち。口吻に皺を寄せ、威嚇の表情。
土方が気を取られている隙に、土塀にヒョイと駆け上がる晴明。
 土方歳三「なッ…! 奇妙な技を使いやがって、この軽業師が〜」
  榊晴明「おい、土方やら…長州藩には気を付るんだな」
 土方歳三「んだとぉ〜?
      長州藩がいったいなんの
      関わりがあるってんだ」

他の隊士に、フォーメーションを指示する永倉新八。
 永倉新八「荒木に松井、越後! ヤツの背後に回り込め」
 荒木たち「はっ!」

名前を呼ばれた荒木左馬之介、松井竜三郎、越後三郎の三人は、晴明を挟むような形で背後側にバラバラと走り寄る。
 永倉新八「御倉とそれがしは、土方殿と正面から迎え撃つ!」

抜刀した刀を、それぞれの得意な構えにする新撰組の面々。
晴明、懐からびた銭を取り出し、チャリチャリ言わせる。
 永倉新八「気を付けよ! ヤツは礫【つぶて】を打ってくるぞ」
御倉伊勢武「ははっ! わかり申した」

土方と永倉の背後に立つ御倉伊勢武、刀を大上段に構える。
 土方歳三「おい榊、さっきの長州藩に気を付けろたぁ、
      いってぇどういう意味なんだ?」
  榊晴明「新撰組の隊士の動きを、
      長州藩は事細かに調べ上げている。
      おそらくは局の内部に……」
 永倉新八「間者がいると申すか? 何をバカなことを!」
  榊晴明「現に俺がやったその隊士は、
      長州藩士と密会していたさ。
      懐を改めてみな? 密書があるはずさ」

不審げに、眉間をうがたれた隊士と晴明を、交互に見る土方。
チッと舌打ちをしつつ、大声で怒鳴る土方歳三。
 土方歳三「───永倉ぁ!
      そいつの懐を探ってみてくれい」
 永倉新八「そんな歳さ…副長! 
      こんな苦し紛れの言い逃れに
      つきあっても……」
 土方歳三「いいから調べろい!
      出てこなきゃこないで、
      それまでの話だ」
 永倉新八「は、はぁ……しからば」

不満げな顔で、晴明に倒された隊士に近づこうとする永倉。
路肩にへたり込んでいたお染、永倉の背後の御倉が、いきなり永倉を斬ろうとするのを目撃する。
   お染「ああ……あぶないっ!」

お染の声に振り返った土方、
まさに無防備な永倉を、背後から斬ろうとする御倉の姿に驚愕。
 土方歳三「チィイイイイッ!」

御倉の額に、突き刺さる投げ銭。
土方が振り開けると、投げ銭を名へ終わったポーズの晴明。
御倉伊勢武「わぁ!」

御倉の動きに呼応するように、いっせいに土方と永倉に斬りかかってくる松本達3名。
激しく斬り結ぶ土方&永倉と、新撰組隊士達。
 ※アクションシーンの演出はお任せ。
 土方歳三「御倉!
      松本…荒木に越後!
      キサマら長州の間者だったかッ!?」
 越後三郎「土方死ねぇ!」

土塀の上を走りながら、次々と投げ銭を打つ晴明。
二人同時に永倉に斬りかかろうとする越後達、手首や顔面に投げ銭の直撃を食らい、ひるむ。
御倉がお染の方に駆け寄ろうとすると、お染の前にヒラリと飛び降りた晴明、独鈷杵を持って身構える。
  榊晴明「おっとぉ! この娘にぁあ指一本、触れさせねぇぜ」

見栄を切る晴明。
大袈裟な見栄に、気圧される御倉たち。
御倉伊勢武「くッ…うう……」
   お染「晴明はん!」
パッと明るくなるお染めの瞳。
見せ場、全身&アップで晴明とお染を大きく

●真夜中の大通り
いっぽう背後では、永倉に刀を飛ばされる荒木田。
裏切った新選組の隊士たち、やや劣勢。
御倉伊勢武「ちぃ!」

御倉、懐から独鈷杵を取り出すと永倉に向かって投げつける。
永倉が避けた瞬間、別の独鈷杵が永倉の肩に突き刺さる。
 永倉新八「うぎゃああ! その独鈷杵、
      きさまの得物であったか……」

御倉、印を組むと、中空に九字を切る。
御倉伊勢武「臨! 
      兵! 
      闘! 
      者! 
      界! 
      陣! 
      列! 
      在! 
      ……はぁあああああっ前!」

御倉の指先からほとばしった光が数条、独鈷杵の先に集中する。
電流が流れる感じで、小刻みに震える永倉新八。
 永倉新八「おのれぇ御倉ぁ……ァウガガガガ〜」

抗って必死に動こうとするが、独鈷杵から広がった光に全身を絡めとられて、金縛りにあう永倉。
そのまま身体が浮き上がり、永倉は白目を剥いてドゥ…と倒れ込む。
  荒木田「永倉を止めたか? ひとまずここは退くぞ!」
 他の間者「おおッ!」

荒木田の言葉に呼応して、倒れた永倉を担いで、遁走する間者隊士たち。
去り際に、懐から取り出した鳥の形の紙型を取り出し、空中に放つ荒木田たち。
新選組隊士「おのれ待てぃ!」
  榊晴明「追うな!」

晴明の言葉を無視して追った隊士、フワフワと飛ぶ鳥の紙型に触れると、
突然、炎が吹き上がる。
新選組隊士「な…これは?」
新選組隊士「あわ…火! 火がっ!」

全身が炎に包まれて、絶叫しながら倒れて転げ回る隊士たち。
理解が追いつかず、泣きべそをかきながら、逆ギレするお染。
   お染「なんやのぉ!
      もういったい何がなにやら……」

半べそをかいて震えるお染。
晴明、右手で五芒星の形の印を切ると、隊士に向かってふっと息を吹きかけるような仕草をする。
  榊晴明「かぁ……」

五芒星の光、隊士の身体に当たる。
と、身体を包む炎が消え、火傷の痕すらない。
再び、飛ぶ鳥の紙型に戻った式神を、空中で加えてキャッチする白狐たち。
口の中で、バタバタと暴れる。
 土方歳三「なにぃ!?
      火が消えた……」

気を失っている隊士に駆け寄り、状態を見る土方。
  榊晴明「驚いて気を失ってるだけだ。
      本当の火に巻かれた訳じゃないからな」
 土方歳三「幻術……か? 初めて見たぜ。
      ───おい起きろ! いつまで寝てやがる」

土方に怒鳴られ、さらに往復で頬を叩かれ、目を覚ます隊士。
周囲をキョロキョロと見回しながら、
新選組隊士「──は! 拙者はいったい……火はどこへ?」
 土方歳三「榊が加勢してくれた。
      業腹だが礼は言わせてもらうぞ」
  榊晴明「別にあんたらを助けた訳じゃねぇ〜よ」
ぶっきらぼうに答える晴明。

ニヤリと笑う土方歳三。
土方歳三「それよりも榊、お主にはなにゆえ
     間者の存在を知ったか、それを聞きたい」
だが、土方歳三の問いを無視して、驚くべき跳躍力でピョンピョンと、一気に近くの家の屋根にまで達する晴明。
屋根の上から土方歳三らを見下ろし、笑う晴明。
  榊晴明「それは言えんなぁ〜」
 土方歳三「てめぇ、上から見下ろすんじゃねぇ!」

悪戯っぽく笑うと、そのまま再び土塀に飛び乗る晴明。
  榊晴明「永倉の命が惜しければ、
      夜明け前に阿弥陀ヶ峰まで
      来てもらおうか」
 土方歳三「阿弥陀ヶ峰だとぉ?
      ……あ、こら待て榊ッ!」

土方の言葉を無視して、闇の中に消えていく晴明。
後を追うように消える二匹白狐。
ただ見送る土方歳三たち。
呆然とした顔のお染。ボソボソとつぶやく。
   お染「阿弥陀ヶ峰? 豊国神社が鎮座するお山ですなぁ」

お染の言葉に併せて、豊国神社のイメージカットを土方歳三たちの背後に重ねる。
新選組隊士「かような場所へ、何故あの者は?」
 土方歳三「……来いと言ってるんだ、
      四の五の言っても、詮無き話だ。
      行くしかあるめぇ!」
忌々しそうに、吐き捨てる土方。

■爆末陰陽伝 第一話/終わり■

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