源三郎の日々 文久三年如月十
文久三年如月十
今日ものんびりした出立となったが、こんなことで京都に何時着くのだろう。
将軍様の上洛警護に間に合うのか心配になる。
のんびり歩いていると、左之助がやってきて、
「源さん」
「うん?なんだ。」
「どうも芹沢と言う野郎が池田さんを目の敵にしているようで、
わざと、歩く速さを遅くしたり早くしたりして、宿を決めにくくしているらしい。」
「そりゃぁ、困ったな。近藤先生も、とばっちりを食いそうだ。」
「近藤先生は笑っているけど、歳さんの目が笑っていなくて、
後で、見に来てくれないか。」
「昼飯の後にでも、六番組の方に行くよ。」
「助かる。昼間っから血生臭くていけねぇよ。」
昼飯を食ったら歳さんの様子を見に行くか。
午後は急に寒くなり、皆の歩みもなおさら遅い。
六番組の方に歩いて行くと、宗次郎が寒そうにしている。
「宗次郎、羽織はどうした?」
「近藤先生に貸しました。」
「じゃ、これを着ろ。わしは林太郎さんから借りるから大丈夫だ。所で、歳さんは?」
「土方さんは、芹沢さんの後ろの方にいますよ。気を付けてくださいね。
斬る気満々ですから。」
「また、昔の悪い癖が顔を出したかな。」
「たぶん、相当、頭にきていますね。殺気があふれています。」
「困ったもんだ。」
後ろ方へ歩いて行くと、
当の芹沢氏は歳さん殺気を気にしているのか、
後ろを気にしながら仲間と話をしながら歩いている。
歳さんをその後ろで見つけて、声を掛ける。
「歳さん、寒くはないかい。」
「大丈夫、刀は何時でも抜けるように手を温めているから。」
「バラガキの頃とは違うなぁ、一応、勝つための算段をしているのか。」
「どうでもいいよ、近藤さんに迷惑をかけるなら、斬るだけさ。」
「宗次郎の話だと、歳さん一人では難しそうだと言っていたぞ。」
「そうかい、この寒さは俺には有利だから大丈夫、勝てる。
どうせ斬り合いになれば、宗次郎も永倉も原田も山南も手伝ってくれるさ。」
「近藤さんに迷惑をかけるなよ。」
「わかっているって。」
「わしゃ、いつでも参加できるほど近くにいるわけじゃないからな。」
「大丈夫だって、勝てない喧嘩はしねぇよ。」
勝てない喧嘩はしないと、歳さんらしいな。
「じゃ、戻るな。」
「おう。」
相変わらず、歩みがのろい。
今日は何処泊りになるのだろう。
暮れ六つに本庄に付いたが、宿割りが決まっていないらしい。
芹沢が宿が無いなら、野宿すると言い、かがり火を盛大に燃やす。
近藤先生と池田氏が芹沢に火を消してくれと頼むが消さない。
歳さんが鯉口を切って斬りかかろうとしているが、近藤さんが止めている。
総司がひょいと小枝に生芋を突き刺して、
「芋でも焼きませんか?」と芹沢の目の前に突き出す。
どう見ても、芹沢を突き刺す気があふれている。
芹沢の腰ぎんちゃくの平間がぎょっとして、
芹沢になにか言おうとしているのを制して、
「その小枝に生芋を突き刺したのは君かい。」
「そうだよ。芋よりも、人を突き刺す方が得意だよ。」
「ふん、そうか、君は何処の者だね。」
「そこにいる近藤先生の下で修業している試衛館の者だよ。
まだまだ、未熟で近藤先生には敵わないけどね。」
「総司、それくらいしろ。」と近藤さんが割って入り、
「遅れて申し訳ない。宿の手配が出来たので、宿に泊まってほしい。」
後ろで、歳さんと左之助が鯉口を切っているのに、
芹沢も気づいたようで、
「そこの者に免じて許してやる。」と言い、宿に入る。
近藤さんが火消しに火を消すように指示している。
総司の突きを知らなくても、あの気を感じれば、腕がおのずとわかる。
大事にならなくてよかった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?