「チャイム」1巻と2巻の改稿作業の履歴など

苦しみながらも楽しんで進めた作業だったので、履歴を残しておきますね。

■『チャイム・1(第二版)』
2019年8月のCOMITIAで発行した冊子を初版とし、第二版を作成しました。
以下のポイントでチェックをしました。
○体裁チェック
・『チャイム・1』(以下初版と言います)では、なぜか(本当になぜか)日本語と数字・アルファベットのフォントを意図的に変えようとしていたようで、その影響か、一部の記号がうまく縦書きになっていませんでした。具体的には「――(ダッシュ)」や「……(三点リーダー)」。第二版では日本語も数字・アルファベットのフォントも統一したため、「ダッシュが横向きになっている」「三点リーダーが中央になっていない」というミスは解消されたと思います。
・その他、一部の体裁を修正しました。
○表記統一
・表記ルールを作成し、表記ゆれを少なくしました。基本的には漢字よりひらがなで統一しましたが、私の好みで設定しています。
・また、表記ルール作成に際して『記者ハンドブック』(共同通信社)を参考にしました。漢字にするかひらがなにするか迷った部分に関しては、基本的には『記者ハンドブック』に揃えています。
・キャラクターの二人称(「君」or「きみ」)も揺れている部分はキャラクターごとに統一しました。
○素読み
・誤字脱字や日本語の誤りを修正しました。
・不自然な日本語、一見すると読みづらい文章を修正しました。助詞の変更、語順の整理、文の長さの調整等で読みやすくしています。
・1章全体、また2章全体との整合性を取るため、一部の説明を変更しました。
・一部、内容的に不足している部分を追加し不要だと思われる部分を削除しました。

初版からページ数を変更したくなかったのと、すでに本の形にし、手に取ってくださった方がたくさんいらっしゃるため、「内容は変えず、読みやすくする」ことを最優先に作業を進めました。
状況説明などの文章が少しはわかりやすくなっているはずです。物や場所の位置関係などをより具体的に説明するようにしました。また指示語による説明の省略も、描写する方が不自然にならない限りはできるだけ説明するようにしました。
例として、一部抜粋です。日本語の誤りがある部分なのでお恥ずかしいですが、上の文章よりも下の文章の方が読みやすくまとまっていると嬉しいなと思います。

 では、僕がこのサイコロのことを「理解する」としよう。僕はこのサイコロには「1と2と3の面がある」ことを知っている。また、「4と5と6の面がある」ことも知っている。しかし君は、「1と2と3の面」と「4と5と6の面」が「同時に存在する」ことを、果たして証明できるかい?

『チャイム・1』
 もし君が、4と5と6の面を見ながら、「先ほどまで見ていた1と2と3の面は、今は見えていないが、おそらく存在している」ということを信じるのであれば、それは少なくとも、君にとっては真なのだろう。しかし、それは「World」の世界において、サイコロが1から6までの面を持つ物体として存在しているであることの証明にはならない。それは「証明」じゃなくて、ただの「信仰」にすぎない。が、僕たちは、意識的であれ、無意識であれ、それが限界であることを知っているものだから、僕たちは証明し得ない自分の外側、「World」の世界の証明を諦め、「View」の世界を自分の「世界」だと信じ込んで生きている。

『チャイム・1(第二版)』
 もし君が、4と5と6の面を見ながら、「先ほどまで見ていた1と2と3の面は、今は見えていないが、おそらく確かに存在している」と信じるのであれば、それは少なくとも、君にとっては真なのだろう。しかしそれは、サイコロが「World」の世界において、1から6までの面を持つ物体として客観的に存在していることの証明にはならない。それは「証明」じゃなくて、ただの「信仰」に過ぎない。が、僕たちは、意識的であれ無意識であれ、それが自分の限界であることを知っているから、自分の外側にある「World」の世界の証明を諦め、「View」の世界を自分の「世界」だと信じ込んで生きている。

4話「仁」より

■『チャイム・2』
2016年11月から2017年12月にかけて、Pixivにアップしていた内容を初校として大幅に加筆と修正をしました。
○素読み
・説明不足だと感じられる部分を加筆しました。状況描写の追加やキャラクターの心情描写の追加だけでなく、シーンごと追加した箇所もあります。
・ストーリーに不要な部分を削除しました。
・整合性をとるため、一部の設定や内容を変更しました。

古い文章かつ、Pixivにアップした後は一度も読み直しをしていなかった文章だったため、ほぼリライトしています。
キャラクターのこまごまとした設定や発言なども、Pixiv版から結構思い切って変えています。が、数年前にPixiv版を読んでくださっていた方が読んでくださった時に、「チャイムってこんな感じだったなあ、懐かしい」と思っていただけるような読み心地を目指しました。
以下、Pixiv版と同人誌版の比較です。

Pixiv版
「……多目的教室の鍵だ」
「あ……、ありがとうございます」
 僕が手のひらを開くと、男はその上に鍵を乗せた。ずっと職員室にあったからだろうか、銀色の鍵は冷たく、廊下の蛍光灯を反射してキラリと小さく光った。
「『カガミ』と言ったな」
 彼は低い声で僕の名前を呼ぶ。僕は条件反射で「はい」と答えていた。
「……牧田は暴走しがちなところがあるから、余裕があればほどほどに止めてやってほしい。じゃないと、身が持たないぞ」
「はあ……、わかりました」
「『暴走しがち』って何ですか!」
 彼女はむくれたように、でも可笑しがるようにそう言うと、くるりと向きを変える。「じゃあ、先生」。

「さよなら。鍵、ありがとうございました」
 
 彼女は小さくお辞儀をすると、「行こう」と言って、下駄箱の方に歩いていく。僕も慌てて礼を言うと、彼は短く「ああ」と言い、すぐに職員室の中に消えていった。


『チャイム・2』
「多目的教室の鍵だ」
 先生が手を開くと、銀色の鍵がチャリンと音を立てた。見覚えのある、僕たちの「部室」の鍵だ。
「あ……ありがとうございます」
 僕が鍵を受け取ると、先生は頭の上に乗せていた眼鏡をかけ直した。牧田先輩が「行こう」と言う。もしかすると、その動作がこの先生の「話はもう終わり」という合図なのかもしれない。鋭い目つきが、厚めのレンズの奥に消えてしまう。
 牧田先輩は先生に軽くお辞儀をして、先に歩き始める。僕も軽く頭を下げ、彼女についていこうとした。
「鏡味、少し」
 低い声に呼ばれて振り向けば、先生が僕のことを見ていた。牧田先輩もつられて立ち止まったが、その視線の向きから察するに、用があるのは僕だけらしい。
「はい」
 努めて平静に返事をする。近づいた方がいいのだろうかと足を踏み出した時、先生が口を開いた。
「牧田は口が立つ。二年も先輩だから難しいかもしれないが、言いたいことは言える時に言った方がいい」
「……え、」
「では、失礼」
 先生は踵を返すと、職員室の中へと姿を消してしまった。

 今のはきっと、先生からのアドバイスなのだろう。
 
 牧田先輩の方を見れば、彼女がちょうど背を向けるところだった。
 先生の言葉は、きっと彼女にも聞こえていただろう。彼女はそれが聞こえる距離にいたし、先生も声を潜めなかったから。
 彼女は何も言わなかったが、どこか機嫌がよさそうに見えた。僕はその少し後ろについていきながら、彼女はあの先生のことを気に入っているんだろうなと思った。
 彼女が先生を気に入っている理由には、僕にも心当たりがある。それはきっと僕が彼女に懐いてしまっているのと似たような理由なのだろう。自己愛の強い僕たちのような人間は、「自分のことを見抜いてくれる」人がいると、浅ましくも嬉しくなってしまう。

7話「二学期」より



改稿した文章は、同人誌版をご購入いただかずとも「小説家になろう」と「カクヨム」にて読めるようになっています。1巻と2巻の内容はすべて同人誌版に更新していますので、WEB派の方はそちらから読んでいただけますと嬉しいです。
また、改稿前のデータであるPixivでのリアルタイム更新版は同人誌版に更新せず、当時の内容そのままで置いてありますので、見比べてみようかなという方はそちらからチェックしてみてください。

「チャイム」は全文をWEBで読んでいただくことができるのですが、それでも紙でご購入いただける方にささやかな感謝の意を込めて、表紙やカバー、カバー袖には「書籍っぽくて同人誌っぽい」仕掛けやイラストの追加をしています。ほぼ自分のやりたいことや見たいものの詰め合わせなのですが、少しでもいいなと思っていただけますと幸いです。


各種リンクなど
・『記者ハンドブック』

・「チャイム」作品紹介ページ(小説家になろう)

https://ncode.syosetu.com/n2285eo/

・「チャイム」作品紹介ページ(カクヨム)

・「チャイム」1章(Pixiv)

・「チャイム」2章(Pixiv)

・『チャイム・1(第二版)』『チャイム・2』通販ページ


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