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原稿用紙一枚の本#1  春眠

題 春眠
『医者からは今年の桜で見納めだと言われた。
十年前に母の命を奪ってしまった病にその息子の翔飛もなってしまったのである。
しかし時代は進化するもので、十年前には遠い先の話と言われていた人工冬眠と言う技術が確立されてきた。これを紹介された翔飛は覚悟を決めて受けることにした。
手続きを踏んで人工冬眠の装置に入るときが来た。濃霧が立ちこめる朝方、彼は装置に入り未来に命を託すのであった。妻である桜空は夫を見送った。この装置に入ったものは普段寝ている時のように眠ることができ患者の病が治せられるようになった時に長い睡眠から解放されるのである。
翔飛は母の声で目を覚ます。始業式の日に友人はランドセルを背負って大声で迎えにきた。翔飛もそれに呼応するように玄関から飛び出した。教室に着くと席が一つ増えていて転校生として桜空は現れた。一目で惚れ時は流れて結婚し不幸にも病を患った。
そこで意識は戻った。今年の桜の下に長年つれし、いや遠い昔につれし妻はいなかった。』(418字)令和五年 3月23日

登場人物のふりがな
翔飛(しょうと)桜空(さら)

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