「床屋、閉店」 ①

4月の上旬、いつまでも当たり前に店にいると思っていた父が倒れた。あまりにも急で突然で唐突で青天の霹靂すぎて、これは本当だろうかと考える暇もないくらい心に余裕のない毎日。なぜこんなことに?と考えると涙がでてくるので深く考えるのも精神的に辛い。

3月5日に私が実家へ帰省。父はコロナワクチン3回目の摂取して2日目で、副反応によって寝込んでいた。ちょっと立ち上がるとふらついて倒れそうになり、38.5度以上の発熱あり。
布団の中で真っ青な顔して寝ている父の姿をみて「すっかり爺さんになったな…」としみじみ。起き上がった時の顔色がベージュのカーテンと同じ色してしてたので母と娘たちとゲラゲラ笑い、普通にみんなで食事をした。

このワクチン接種後からどんどん父の体調が悪くなっていく。
父は自分の体が何か弱っているということにこの頃から気づいていたのかもしれない。
商売道具の腕が痛くて上げられず、毎日母に湿布を貼ってもらっていた。朝から「こんくらい自分で貼れよ!」「こんくらいて言うならチャチャッとしてくれて良いたい!」とよくわからん夫婦喧嘩をしていたw

変な予兆はいくつもあった。虫の知らせってやつ?
まず、今まで「床屋やめる」と一言も言わなかった父が今年に入って「もう店も長くは続けんけん」「あと何年かやれればもう充分」と事あるごとに言ったり、長年加盟してきた理容組合を「加入してるメリットもないし、組合員の使い込みなのか使途不明金やら色々問題出てきたけん」と3月いっぱいで急に脱退したり。
私も、3月下旬に息子の髪を切りに店に行った時に何故か「これが最後になるかもしれないんだよな・・・」と思って写真をバシャバシャ撮った。
まさかそれが本当になると思わずに。

4月5日早朝「お父さんが夜明けに具合悪くなって、夜間救急に運んだけん」と母から電話がかかってきた。血液検査の結果、白血球赤血球血小板全ての数値が尋常じゃないくらい低いと。今骨髄検査中で結果は明日か明後日。病院が動き出してから詳しい検査を開始する予定とのこと。
その日学校は春休み中なので次女は実家に滞在していて、我母・長女と共に7日に博多で幼児を済ませ帰宅する予定だった。そんな状態じゃ悠長に娘たちと博多で予定をこなすのなんか無理だろうと、会社に事情を話し急遽私が熊本へ行って自宅へ連れ帰る事になった。

実家に到着して、母と話をしても現実感がなくて頭がフワフワしていた。ダメかもしれない、いやお父さんは大丈夫を何度も頭の中で繰り返していた。
検査結果が6日の14時に出て主治医とお話するということだったので、私は子どもたちを連れて午前中から博多へ向けて出発。本当は母に付いていたかったけど「大丈夫だけん、子どもたちの春休みの楽しみば奪わんでやって。心配せんで行っておいで」と送り出された。

お昼過ぎに福岡市内までなんとか到着し、以前住んでいたマンションの近くの駐車場に車を駐めて昼食。その後娘たちは二人で天神に向かい、息子と私は大濠公園へ。
到着3分「鳥だ〜〜!」と言って鳩を追いかけて駆け出した息子が木の根っこに引っかかって転倒、両膝から血を流して号泣。何この状況wうそやろwwと思いながら池の畔のベンチに座ってなだめているところへ母から電話がかかってきた。
「今先生と話し終わったよ。検査結果から見てもほぼ間違いなく急性骨髄性白血病でしょう、だって」と。
「骨髄異形成症候群とも見られるけど、現段階では白血病の治療を勧める。抗癌剤治療をしなければ夏までもたないでしょうって…」「お父さんは頑張るって。店も、辞めるって」と泣いていた。
私も涙が止まらなくなり「この前息子の髪切ってもらった時何でか最後な気がしたとよね。病気は治すしか無いけど、店は、やっぱりこんな形で閉めるのは悔しい」と言ったら「そうね。でも一番きついのはお父さんだけん。本人が一番悔しいし悲しいだろうけん、私達は応援してあげよう。ね、シカちゃん」と母が言った。

全くその通りだなと思って、なにかわかったことがあれば教えてと言いながら電話を切った。そして気づく。ここは大濠公園であるということに。
息子が心配そうに「ママ?何で泣いてるの??ねえ!?まま!!??何で泣いてるのって聞いてる!!!」と膝から血を流して大声で泣きながら叫んでいることにも気づいた。周りを見たら遠巻きに私達を眺めている人間が結構いて、ものすごい数の鳩と数種類のカモが私達をめっちゃ囲んでいた。地元でなくて本当に良かったと思う。
そして気を抜けばボロボロ泣いてしまいそうな一日を福岡市内で過ごし、無事に帰宅。余談だけど道に迷いすぎで約15,000歩歩いてた。

きついのも悲しいのも、父。本当そうだねお母さん。
コロナのせいで面会も叶わず、私にできることは毎日ラインで写真やパチンコ動画を送って頑張れ頑張れと応援することしかできなかった。


〜4月中旬までの話。

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