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山猫 第1話

貿易業で世界的富豪な当主
廣谷(ひろや)

海外に住む取引先
園地(えんじ)

御屋敷で執事長として当主に仕える若者
レグ

レグは当主が拾った山猫のような子。



第1話


「おぉ、頑張ってるなぁ」と若い執事を撫でる当主。
その若者はレグという名だ。

「当主様、僕はもう幼い子供ではないのですから……」
頭を撫でるのはお止め下さいと言いつつ
手をはらったりはしないレグ。

「昔のお前は捨て猫…いや 山猫みたいだったな」

「いつの話をしているんですか!
私はもう執事長で、今は仕事をしているところです。」

山猫は当主によって立派に育てられ
最年少執事長に就任していた。執事たちの中でも優秀なものは貿易業にもたずさわる。
レグは秘書のような仕事もしていて
今は
当主のとある取引先への電話をしようとしていた。

「しっかりと電話もできるようになって…」

一緒に過ごすようになってわかったことだが
当主はそうとうな感動屋さんだ。

レグは拾われた当時
山で家族と一緒に失ったのだろう、
喜怒哀楽の<怒>以外ほぼない子だった。

だがそれも
たいしたことではなくとも喜び褒めてくれる当主により
少しずつ感情も表情も増えていった。

……
レグ!
これはな、シャボン玉て言うんだ!
ふーってするんだ。優しく優しくだ。
あぁ、割れちゃったな……
どれ、貸してみなさい。こうだよ?
な?もう1回やってみなさい。
ほら、ふーって
……できたじゃないか!!
優しいってのはな、シャボン玉作りにだけじゃない
人に対しても大事なことなんだよ。

……
動物園は楽しいか?
そうかそうか
ん?
っっ!
熊はうちでは飼えないよ!
レ…レグは熊が気にいったのかい?
んー 犬や猫なら
飼えるんだがなぁ
熊が強そうでかっこいい?
私みたい?
いや、私はあっち、ゴリラみたいじゃないかな?
まぁ何にしても動物が好きってのはいいことだな。
また一緒に来ような。
で、ゴリラは飼いたいって言ってはくれないのかい?

思い出が沢山ある。
そのどれでも当主は笑ってくれていた。


「ふぅ、お前がちゃんと笑えるようになってよかった。
最近はほら、私の取り引き先の園地とも仲よさげで楽しそうじゃないか。彼のおかげでもあるんだろうかね。」

(当主様が優しい顔をしてる。ずっと見ていたいな。僕が笑えるようになったのは、この顔を見てきたからなんですって、いつか伝えたいな。)

当主は
レグが園地に恋をして
笑顔が増えたのだと勘違いしていた。


あられもない姿、出そうか?
お前の前でだけでならいいけど?

と、自ビル内で園地に言い寄られているのを目撃したのがはじまりだ。
ウチの執事に何を!と思いもしたが、
なんとふたりはそのまま物置にしている部屋に入っていったのだ。

レグが当主への想いを持て余し
カラダの欲だけでもと
ながされてしまった結果である。

「お前、当主を思い浮かべながら俺に抱かれたよな?」

「っっ?!」

「途中で 当主って呼んでたぞ」

まぁ今はいいけど
と園地は笑った。

end

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