見出し画像

山猫 第2話

貿易業で世界的富豪な当主
廣谷(ひろや)

海外に住む取引先
園地(えんじ)

御屋敷で執事長として当主に仕える若者
レグ

レグは当主が拾った山猫のような子。


第2話

……
なぁ大丈夫だ
とうちゃんとかぁちゃんとみんなと一緒だ
……
空に引っ越したら
お腹も減らないし怖い人もいないぞ

……
痛いことも苦しいこともないんだぞ

……
ゴメンネェ


息を切らしながら
ガバッと起き上がる。

もう何度目だろう。
汗だくで気持ち悪い。心臓の音がうるさい。
頭が痛い。カラダが冷たい。

コンコン

重いカラダを引きずるようにして
ドアを開けに行った。

「やぁ、今日はお寝坊さんなのかな?」
当主だ。
執事長が仕えている当主に起こされるとは何事かと思うが
廣谷の御屋敷ではたまにある。

レグは当主が拾ってきて育てた子。
大人になっても
ちょっとしたことで心配してくれるのだ。

「おはようございます。当主様。寝巻きのままで申し訳ありません。」

「そんなことはいいけれど、汗だくじゃないか。具合でも悪いのかい?」

当主がレグのおでこに手をあててくる。
熱を計ろうとしてくれているだけなのに
手の温もりと、当主の匂いに安心して涙が出そうになる。
幼い子供ではないと、いつもなら言うレグなのだが
この時は黙って涙が流れないようにするのに必死だった。しばらくして途切れながらも話す。

「あ、いえ。ちょっと昔の夢を…みて、しまって…山での…」

「そうか…」とだけ言って
いきなり背を向けてきた当主。
昔から
レグに元気がなかったり泣いていたりしているとおんぶしてくれていた。
それは恥ずかしながらも健在で
今のこの状況だ。

「あの…当主様?どうしてもですか?」

「嫌かい?お前をお風呂までおんぶして、好きな歌でも歌ってやろうかと思ったんだが…」

当主様……
そんなしょんぼりした顔で聞くのは反則です。

「仕方ないですね。じゃあ元気が勝手に出るような歌でお願いします。」

「……ぉっとぉ」

聞いた事のある声の方を見た。

っえ!
園地?なんでこんな朝早くから御屋敷にいるんだ?
おんぶされて歌を歌ってもらっているのをバッチリ見られるとか
穴があってもなくても
しったもんか!って無理やりにでも隠れたいレベルだ…

「あぁ、園地くん。朝早くから呼びつけて悪かったね。」

当主様…
あなたが呼んだんですか
なのに、僕をおんぶしてるって何してるんです?

「じぃさん、大事な話があると言うから来たんだがどうしたっていうんだ?」

「いやなに、まずは客間で待っていてくれ。レグをお風呂に沈めてきたら私もそちらに行くから。」

「当主様…それだとなんか物騒ですのでもう少し言い方考えてください。ほら、園地様も笑いを堪えてます。」

口元を手で隠しながら目が笑って見えた。

「あ、失礼。ちょっと可愛い親子みたいに見えてな……じぃさん、腰にくるといけないから俺にレグを沈めさせてくれないか?」

からかってきている
当主の言葉をイジりにきている。

レグは少し嫌な顔をしたが
当主本人は気にしていなかった。
むしろ、レグが恋をしていると勘違いしているのだ。
これは良いと園地に連れていかせることにした。

なぜ
こうなった……?

おんぶはまだ仕方ない
当主様なりの慰め方、元気のつけ方、スキンシップなのだから。
だが今レグはお姫様抱っこされている。
意味がわからない。

「園地さん、たまに泊まりがけで当主様と仕事の話とかするから詳しいですね。御屋敷の部屋の位置しっかりわかってるみたい。
ただですね、この抱っこは意味がわかりません。」

「そりゃあな。いつかここでもお前を抱くかもしれないし、覚えるさ。」

「はぁ?」
「お前が俺のうちにくるなんて、じぃさんから離れることになるだろ?うちは海外だから。そんなこと、たぶんお前はしない。ならここでだろ?」

ドヤ顔で何言ってんだとレグが呆然とする。
付き合ってもいないのに、いきなり言われたら当たり前だが。

「はぁあ、お前が 好きになってくれるなら 俺が山猫を拾いたかったな。
なぁ どうしたらカラダだけじゃなく心も俺のものになる?」

嫉妬と熱のこもった瞳で
レグをお姫様抱っこする手に力が入る。

園地はモテてきただろう

けれど
これほどまでに欲しいとおもった人間ははじめてだと彼は感じていた。

ゆっくり待とうと長期戦を一度は覚悟した。

いつもなら
男に二言はない系なのだが
当主がレグをおんぶするのを見て
「今はまだ」と言ったのを取り消したくなった。
一気にレグを手に入れたくなった。

彼の本能がレグを手に入れろと騒いだ。

そして
客間に園地が到着したのは1時間後
レグはほんの少しぐったり
当主は呑気にウトウトしていた。

end



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?